ひとりで武道館を自由に闊歩し、カメラが追いかけるスタイルだった「孤軍奮闘」のリアルタイム感を引き継ぎ、8日のライブも、本人が楽屋入りして準備を始めるシーンから始まった。一方で、ステージ上で音出しをするバンドメンバーの姿をも映し出す。
その映像に「RYO NISHIKIDO ONLINE LIVE”不撓不屈”AT NIPPON BUDOKAN」とタイトルが入るという、配信ならではの考え抜かれたクリエイションであり、洗練された映像だ。前夜祭「孤軍奮闘」同様、ドキュメンタリー映像らしくカメラが廊下を歩く錦戸を追いかける。ステージに出る前のアーティストがまとう緊張感、高揚感をともに体験できる、とても貴重な瞬間だった。
ライブは前日にラストを飾った「オモイデドロボー」から始まった。ときおり笑顔をみせながら気持ちよさそうに歌う錦戸亮。ストリングス隊が加わった幾層もの音に彩られ、イキイキとセッションを楽しんでいる様子が伝わってくる。制御された美しいレーザーがせわしなく動き、光を放つ。
サイケデリックなアレンジの「ホンキートンクラプソディ」は、やはりバンドサウンドが映える楽曲だ。引きの映像に顔のアップ、手元口元、オーバーラップとクオリティの高い映像のスイッチングも見事だ。
「みなさん、こんばんは。
若干、かしこまった感じの挨拶を挟み、短いイントロから始まる「狛犬」は、夕日のような暖色ライティングが楽曲のドラマ性を引き立たせる。骨太ソングから、生っぽいラブソング「キッチン」では一瞬カメラ目線になり、悪戯な表情を見せた。音楽で楽しませながら、不意打ちというサプライズを挟み、しかも照れ笑いまで見せる。惹きつけ方が本当に上手い。
スモークが満ちていく中、ガラリと赴きを変え、声を轟かせて歌う「code」に突入した。客席がない分、ステージが広く、ライブというよりMV映像のような印象である。星の光のような一点のライトがドラマチックに輝き、そして消えていった。
【画像】照明、映像、セットと音楽が一体となった錦戸亮のステージ(写真5点)
シンガーソングライターの力量を見せつけたステージング
前夜祭ではアコギの弾き語りで初披露だった「コノ世界ニサヨウナラ」も、リズム隊が入ることで新たな表情を見せてくれた。同じ曲でも演奏、アレンジによってまったく印象が変わるのが、ライブの楽しさだ。カメラが歌う錦戸の表情を捉え、パーツに寄り、ボカしてフォーカスしてといった不安定さを見せて曲に寄り添う。ピアノ伴奏に合わせての「Silence」では、ギターを抱えて背中を丸めて歌う姿を後ろから映し、ストリングスの音色に寄り添い、愛おしそうに歌う。
「今までは自分で作った曲をやってきたんですが、次、ある方の曲を歌いたいと思います」とスツール椅子に着席。ギタリストが爪弾くギターに合わせて、東北弁での漫談が始まった。昨夜も披露した吉幾三氏の「と・も・子」。ライブに来て完璧な一人芝居を観劇しているような、贅沢な時間。長い語りから、優しい声で歌に入る。本人がギターを弾いていても弾いていなくても、芝居の精度は変わらない。
バックライトが映し出す、孤高のシルエットからの「スケアクロウ」は、ストリングスがメロウに鳴り響き、繰り返しのサビが力を増していった。ドラム&ベースセッションからの「Tokyoholic」は、重圧なバンドサウンドで身体と感情に揺さぶりをかける。映像が回転し、レーザーが乱舞。エレキギターを手にした錦戸が、ニヤリと笑い、野太い声を放つ。
「次はぜひ、会場に遊びに来てください。最後の曲です」とシンプルな挨拶から、昨日は1曲目だった「ノマド」を演奏。ストリングスアレンジで聴かせた、始まりの一歩を象徴する曲。軽やかさが加わった「ノマド」は、楽曲が伝える内容をさらに強め、羽ばたかんとする気持ちをバックアップするような仕上がりになっていた。最後のサビを慈しむように穏やかな表情で歌い、そして高らかに、絞り出すように、達成感を感じさせる表情で歌い切った。目を閉じてギターを弾く姿も、バンドメンバーを見つめる顔も、彼が歩んできた充実した日々を感じさせてくれた。
演奏を終えると、パッとタイトルバックに変わり、エンディングの映像が流れる。なんとも潔い終わり方だ。リハ映像での錦戸亮は、音楽が好きでたまらない、楽しくてたまらないといった少年のような顔を見せていた。同じ空間にいてもいなくても、しっかりと彼の作る世界に観客を引き込んだ2日間。エンディング後には、2021年1月に2ndアルバムをリリースするとの告知が入り、未来へ向けて、またひとつ、楽しみを増やしてくれた。