この新星は、すごく刺激的な音と存在感を放っている。

内田怜央(Vo)、長谷部悠生(Gt)、関将典(Ba)、益田英知(Dr)、千葉大樹(Key)の5人から成るKroiにはさまざまな音楽ジャンルの背景にある文化や方法論を濃密に理解し、享受したうえで固有の音楽像を獲得するという本質的な意味でのミクスチャー性を感じる。
彼らには”ネオミクスチャーバンド”とでも言うべき説得力と魅力がある。早耳のリスナーからはすでに熱い視線が送られているが、間違いなくここから大きく飛躍していくであろうKroiの結成から現在までの軌跡を語ってもらった。

─2018年2月の結成からここまでのスピード感はかなりものだと思うんですけど、メンバーの実感としてはどうなんですか?

関将典:今年はライブがなかなかできない状況ですけど、去年まではライブをがむしゃらにやり続けてきて、それが着実にバンドの力になっているのかなと思います。でも、ここまでのスピード感が速いのか遅いのかというところで言うと難しいですね。

内田怜央:でも、2年前に今の状況は想定してなかったかもしれないですね。

関:そもそも2年前はどうやったらライブハウスでライブができるのかもよくわかってなかったからね。

─Kroiの初ライブはどこのハコだったんですか?

長谷部悠生:新宿red clothですね。

内田:俺と長谷部が前にやっていたバンドのつながりで仲のいい人がred clothにいて。前のバンドでオファーをもらったタイミングでKroiを結成したので、じゃあこのままKroiとして出演しようとなって。

関:それが2018年の2月です。その時点でKroiとしてのオリジナル曲は1曲もなかったんですよ。俺と益田がやっていたバンドの曲と、こっち(内田と長谷部)でやっていたバンドの曲を1曲ずつ、あとはカバー曲を2曲やって、計4曲のライブをやったんです。


─ちなみにカバーは何を?

関:スチャダラパーとDaft Punkですね。

─Daft Punkは「Get Lucky」とか?

内田:まさに「Get Lucky」ですね(笑)。

関:当時はもう一人サンプラーのメンバーがいて。彼がいたときは電子音が入ったバンドの方向性を探っていこうと思っていたんです。FKJの音楽性に憧れがあったりして。テクノっぽい感じがありつつ踊れるという方向性にもっていきたかったんですけど、早々にそのサンプラーのやつが脱退して(笑)。そいつはもともと(内田と長谷部のバンドの)ベースだったんですけど、「俺はサンプラーをやりたい」って言ったタイミングで長谷部が俺にインスタのDMで「ベースがいなくなるから弾いてほしい」という連絡をくれて、Kroi結成のきっかけになったんですよね。

長谷部:俺と関はそれまで直接会ったことはなかったんですけど、お互いインスタに演奏動画を上げていて。「この人、上手いな」とずっと思っていてハッシュタグから知り合ったような関係なんです。それでいいベースがいるから声をかけてみようと思って。

関:そのときドラムの益田と俺はバンドをやっていたので、「ドラムも一緒だったらいいよ」って返したら、「今のドラムもサポートメンバーだからお願いします」ということで話が合致したんです。そう思うと、かなりドラマチックな展開かもしれないですね(笑)。
それでとりあえず一回スタジオに入ろうとなって。あのときはなんのコピーをやったんだっけ?

内田:(Jamiroquaiの)「Space Cowboy」をやったよね。

─それはかなり納得ですね。

関:そのときのスタジオでは音楽的な相性がいいかはわからなかったんですけど、そのあとにみんなで飯食いに行って好きな音楽の話をしていたときに不思議とルーツだったり今まで聴いてきた音楽が重なったんですよ。それで、「これはいいな」と思いました。

長谷部:怜央がそのとき「ここまで好きなアーティストが同じ人を探すのはなかなか難しい」と言っていて。

関:それもあって集まった最初の日にバンド名を決めようとなったんですけど、じつは益田と一緒にやっていたバンド名案の一つに出ていたのがKroiだったんですよ。

益田:一度は却下されて(笑)。

関:でも、新しく組もうとしているこのバンドにはKroiという名前がハマるなと思って。再度益田が提案してくれたときに「やっぱりこれいいね」ってなりました。

いろんな色を混ぜると「黒」になる

─ブラック・ミュージックの影響もそうだし、あと、いろんな色を混ぜると黒になるという意味があるという。

関:そう言うとカッコいいんですけど、じつは裏話としては色云々に関してはあと付けです(笑)。
ブラック・ミュージックという方向性に関してはもとからあったテーマでしたけど、特定のジャンルで固めたくないという話をしているうちに色の話が出てきて。それで「このダブルミーニングをバンド名の由来にしよう」ってなったのかな。最初に集まった日にバンド名とライブをやろうと決めたのも大きかったですね。こいつ(長谷部)がめっちゃ突っ走ってライブを決めたんですよ。益田は「ちょっと突っ走りすぎなんじゃないか」って言ってたんですけど(笑)。

益田:曲がないのにライブを決めるのはヤバいだろと思って(笑)。

内田:でも、今思えば俺らはあのときが一番焦ってたんだよね。高校のときから元サンプラーや社会人の人と一緒にバンドをやっていたけど、全然お客さんが付かなくて。このままじゃいけないって焦ってた。

長谷部:そうだね。

千葉大樹:焦りがあったってことはプロになりたかったということ?

内田:そう!

長谷部:最初からそのつもりでバンドをやってたから。

内田:俺は小学生のころからドラムレッスンに通っていたんですけど、そこでけっこう上手い子みたいな扱いをされてきて。


千葉:もてはやされていたんだ(笑)。

内田:そう(笑)、もてはやされて小学生のときから中学2年生くらいになったら普通にテレビに出られるんだろうなと思っていて。それで高校1年生くらいになったときに「あれ? 俺は何やってんだろ」みたいな感じになって。そこからガッツリ、バンドをやるってなったんです。

─Kroiとしてred clothで最初にやったライブの感触はどうだったんですか?

関:正直、そこまでみんな手応えを感じたというのはなくて。で、そのあとred cloth側から「キャンセルが出ちゃったから出演してほしい」と言われて、もう一回出たんですよ。ピンチヒッターという感じだったので、2、3曲しかやらなかったんですけど、そのときにオリジナル曲を2曲やって。それは今やってない曲と、Kroiとして最初に制作して1stシングルとしてリリースした「Suck a Lemmon」だったんです。

─「Suck a Lemmon」は音源として今聴くと、内田くんの声も若いし、めちゃくちゃ初々しいですよね。

内田:そうなんですよね(笑)。

関:その2曲を持ち込んで「出れんの!?サマソニ!? 2018」に応募して、3600組のうち最終の30組まで残ったのでちょっと調子に乗っちゃったんです。でも、最終審査で鼻を折られて2カ月くらいバンドで何もしない時期がありましたね。


─そこから軌道修正できたきっかけは?

内田:いろんなライブハウスを調べ始めたんですよね。

関:「渋谷LUSHとかに出てみたいね」って話ていたら、たまたま渋谷LUSHからオファーが来たんです。「出れサマ」の最終審査をチェックしてオファーをもらって。そこで火がついて。そのライブを皮切りにこちらからもいろんなライブハウスにメールを送るようになったんです。なかなかいい出会いはなかったんですけど、LUSHに関しては最初からめちゃくちゃかわいがってもらってます。

内田:LUSHくらいから本当に心から楽しいライブができるようになった気がします。

YouTuberのカルチャーとKroiの意外な接点

─僕が初めてKroiのライブを観たのは昨年8月だったんですね。場所は下北沢GARAGEで。そのときはもうバンドの核心があらわになっているパフォーマンスをしていたし、大きく飛躍するだろうなと思いました。そこから「SUMMER SONIC 2019」の出演も実現して。そして、千葉くんがバンドに合流するんですけど、もともと千葉くんとKroiのマネジャーの安藤氏はずっと共同生活をしてるんですよね。


千葉:そうですね。安藤がKroiと出会う前から僕は安藤とつながっていて。5、6年の付き合いになりますね。僕はもともと小さいころからピアノを習っていた流れで作曲をしていて、もっと言うと8年前くらい、高校生のときに地元の岩手の高校の友だちとYouTuberもやってたんですよ。安藤は僕のYouTubeを観ていたファンだったんです(笑)。

─それもすごい出会いだな(笑)。

千葉:僕、YouTuberとしては、はじめしゃちょーとかと同期なんですよね(笑)。安藤は地元が横浜なんですけど、僕のYou Tubeを観てくれたのをきっかけにお互いSNSでフォローし合っていて。大学入学を機に僕は上京して、室井雅也というシンガソングライターのアレンジをずっとやっていたんです。そこに安藤が後乗りで室井のマネージメントをやるようになって。

─そこで縁がつながっていって、2019年8月リリースの1st EP「Polyester」の制作時にバンドと千葉くんは出会った。

関:そうですね。サンプラーだったメンバーが抜けたときにシーケンスを入れた音楽性をやる必要はないと思ったということと、ライブをするからにはメンバー全員の演奏をちゃんと生音で聴かせたいという思いがあったんです。そんなときに「Polyester」のレコーディングのタイミングで(千葉と)知り合って。マネジャーのアンディ(安藤)の同居人である彼が鍵盤を弾けるだけではなくアレンジやミックス、グラフィックデザインもできるという話は聞いていたので。それで、同作のミックスを手がけてもらうと同時に鍵盤も入れてもらったんです。そこからライブにも出てもらうようになって。それが去年の9月ごろですね。

千葉:Kroiの過去の音源を聴いたときに音作りやレコーディングに関してもう少しこうしたほうがいいなと思うところがあって。そのときすでに「Fire Brain」(2019年12月リリースの2ndシングル)のデモを聴かせてもらっていてすごくカッコいいなと思っていたし、最初は裏方目線的な方向の意欲が湧いたんですよね。

内田:最初は(千葉が)ポップスが好きな人だと思っていたんですけど、じつはフュージョンとかも聴くし、マイケル・ジャクソンとかも大好きで。それもあって一緒にやりたいと思うようになったんです。

千葉:小さいころ親のカーステで聴くのはマイケルだったけど、ポップスも聴くし、日本のアイドルの曲も好きだったりして。でも、自分ではEDMのトラックを作ってたり、昔からKroiっぽいジャンルの曲もすごく聴いていたので、もし自分がメンバーとして加入するならフリーキーなアドリブが乗るようなサウンドをやりたかったというのはあります。正直、王道のポップスをやるバンドだったらメンバーになってなかったと思います。ミックスも僕は技術的にすごく上手いわけではないけど、バンドの色はしっかり出せるので。

「音楽」だけで終わらない存在に

─ミックスとマスタリング、さらにデザインまで手がけられるメンバーがいるのはものすごく強いですよね。このセルフプロデュース力もKroiの大きな武器であるのは間違いないわけで。

内田:千葉さんが入ってからバンドのクリエイティブをメンバーだけで完結できないとダメだと強く思うようになって。これだけいろいろな音楽がすぐに聴けるような時代の中で、ミックスも含めてバンドの色が出るようにしなきゃと思ってます。
関:結成したときから音楽だけをするバンドでは終わらない”Kroiという存在”でありたいと言っていて。それこそ楽器が弾けるメンバーと同列にカメラ担当のメンバーがいるみたいに、一つの「クリエイティブチーム」のようなスタンスでいたいなって。結果的にアンディだったり千葉が入ってくれたことで、MVのディレクターやカメラマン、いろんなクリエイターがKroiに興味を持って集まってくれている。そのチーム感は今後も大事にしていきたいですね。

内田:Kroiの今の音楽性があるのも、こういうチームになっているのも、すべて偶発的ではあると思うんです。でも、我々はそこにルーツがあるものが面白いと思っているので。自分たちが聴いて影響を受けてアウトプットしたものに誰かが刺激を受けて、そこからその人がいろんなジャンルやカルチャーを遡ってディグる作業みたいなことに醍醐味があると思うんです。

関:ミクスチャー感というところで言うと、怜央から上がってくるデモを聴いて個人的に思うのは、吸収した音楽のエッセンスを中途半端に入れてないんですよね。ロックの要素もファンクの要素もそう。それが本質的なミクスチャー感にたどり着いてる要因なのかもしれない。

─現時点でデモはすべて内田くんがクリエイトしているということですけど、幼いころからドラムを叩いてきたグルーヴ感が、ヴォーカリストとしてのスタイルやラップのフロウ、ステージ上のパフォーマンスにも大きく影響しているのではないかと思うんですね。

内田:ドラムの先生が僕をゴスペルドラマーにしたかったらしくて(笑)。パワフルなドラムを叩くガキンチョでした。ファンクやフュージョンなどいろんなドラムを叩かされていたので、その時点でいろんな音楽のグルーヴに触れていましたね。デモもビートから作ることが多くて。

益田:デモの時点でリズム遊びがすごいんですよ。しかもビートの種類が豊富だから、叩いていて飽きなくて面白い。

新曲「HORN」が描く「幻想」とは?

─そして、新曲「HORN」について。アフロビートにも接近するようなパーカッシブなリズムアプローチが抜けのいい歌を疾走させていて、Kroi特有のグルーヴの濃度を保ったままポピュラリティを拡張していると思います。テンポは速いけれど、単に”速い曲”という印象で終わらないなと。

内田:「HORN」はすごいスピード感で完成した曲なんです。デモをみんなで聴きながら次に録る曲を決めるミーティングがあったんですけど、その朝に現状上がってるデモだけでは少ないんじゃないかと思い始めて、ストックしてあったデモを大量に送ったんです。結果的にミーティングで上位に残ったデモのほとんどがその日の朝に送ったもので。「HORN」のデモはその中でもさらに上位に入ったものでした。コロナの自粛期間中に曲を作りたかったのにどうしてもできなくて、ちょっと外に出られるようになったタイミングでやっとできた曲なんです。そのときにいっぱい曲を作ったので、「HORN」もいつできたのか覚えてないんです(笑)。でも、パーカッションを入れたいというイメージは最初からありました。

関:デモが上がってから1カ月しないで完成までもっていきましたね。

長谷部:今まで聴いたデモの中でも新しい感じがありました。一聴すると明るい曲調ではあるし、ポジティブな感触があるじゃないですか。それが新鮮でしたね。

関:リズムパターンも今まではファンクな要素が強めだったんですけど、「HORN」は曲として終始スムーズな疾走感があって突き抜けていく感じがありますよね。あと、今回はソロというソロがない。そういう意味でも新鮮さがあると思います。

益田:Kroi史上最速の曲なんですよね。BPM137で、90とか70台の曲もあるから、テンポの速さに慣れるのが最初は大変で。

内田:でも、速く聴こえないというのはすごく大事なポイントだと思っていて。身体を揺らしたときに「あれ、今までと違う」と感じてもらえると思う。

千葉:ドラムのコンプ感とかで速いビートに聴こえたらノリが軽いなと思って。そこはミックスでも意識してるところですね。

─リリックに関してはどうでしょう? 内田くんのリリックには往々にして現代社会に対するシニカルなまなざしがあり、それが受け手の意志によってポジティブにもネガティブにも変容する筆致を持ってると思います。

内田:「HORN」も最終的にはネガティブな着地をしているんです。”幻想”をイメージしてリリックを書いたんですけど、「本当につらいことがあったら幻想の中に行っちゃえ」と歌ってる。ハッピーエンドで終わりたくないんですよね。基本的に。自分たちの曲で元気になってもらえるのはすごくうれしいんですけど、深みを持たせたい。聴いた人が「これは明るい曲なの? 暗い曲なの?」って考えてもらうくらいがちょうどいいなって。やっぱり作品だけでは終わらせたくない。それが作詞をするうえでも美学になっていると思います。

─最後に、近いうちにバンドとして成し遂げたいことってなんですか?

内田:やっぱりワンマンライブかな? Kroiはライブバンドなので。

関:そうだね。まだワンマンをやったことがないので、早いうちに実現させてちゃんと成功させたいですね。せっかくのワンマンなので会場にもこだわって、今はコロナでこういう状況ですけど、しっかりお客さんも入れられる状況で開催したいです。今はそこに向けての準備期間でもあるのかなって。

千葉:それまでにいい曲をいっぱい作っていきたいです。

<INFORMATION>

Kroiが語る、「ネオミクスチャー感」を司るグルーヴの背景

 「HORN」
Kroi
配信中

無料配信ライブ
Kroi STREAMING LIVE "BOX"
2020年11月4日(水)23:15~
https://live.line.me/channels/52/upcoming/15113277
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