グラミー賞で7部門受賞、世界32カ国で1位を獲得したU2『All That You Cant Leave Behind』の20周年記念リマスター盤が1CD、2LP、2CDデラックス、5CDスーパー・デラックス・ボックス・セットなど各フォーマットでリリースされた。ギタリストのジ・エッジが、バンドと世界中のファンを再び結びつけた名作の制作過程を振り返る。


【動画を見る】2001年、ボストンでの「ビューティフル・デイ」「エレヴェイション」ライブ映像

2000年発表のアルバム『All That You Cant Leave Behind』の制作にまず着手した段階で、U2には証明しなければならないことが山積みだった。テクノロジーの実験を全面に打ち出した1997年の『POP』は昔からのファンを遠ざけてしまう結果となっていたのみならず、真の意味でのヒット曲を生み出すことにも失敗していた。「ポップマート」のスタジアムツアーは技術的な面では一つの大勝利ともいえたが、とりわけ北米地域では大量の売れ残りチケットを出していた。批評家たちは”失敗(フロップ)マート”と揶揄したくなる衝動を抑えらずにいたものだ。

当時はエミネムやブリンク182、コーン、ブリトニー・スピアーズといったMTVの人気番組『トータル・リクエスト・ライブ』などに取り上げられやすいアーティストたちがトップ40を席捲していた時代でもあった。音楽的にはこれらのアーティストの間に共通項はほとんど見当たらないのだが、10代のキッズを魅了していた。フォード在任期(74年~77年)に結成されたロックバンドたちにとっては、そんな時代に自身の立つべき足場を見つけようとするなど、ほとんど滑稽の域でしかなかった。

U2『All That You Can't Leave Behind』20周年、ジ・エッジが振り返る完全復活の裏側

ジ・エッジ(Photo by Kevin Mazur/WireImage)

それが一変したのは2000年10月に「ビューティフル・デイ」がヒットし、続いてU2が『All That You Cant Leave Behind』を発表した時のことだ。プロデューサーにバンドの年来の盟友であるブライアン・イーノとダニエル・ラノワの二人を立て、収録曲には「ウォーク・オン」「エヴェレーション」「スタック・イン・ア・モーメント」といった、サウンド上の実験ではなく歌の構造やサビの方により重きを置いたトラックを並べた。同作は百万単位の売り上げを記録し、さらにはグラミーにおいても複数の受賞をはたすなど、それこそ信じられないくらいの推進力となってU2を2000年代へと押し出した。

バンドはこの『All That You Cant Leave Behind』の発売20周年を祝うべく10月30日に収録数全51曲を誇るスーパー・デラックス・ボックス・セットをリリースした。これは2000年に同作が出たのと同じ日付だ。
同ボックスセットには、シングルのB面曲にアルバムのアウトテイク、複数のリミックスヴァージョンのほか、2001年のワールドツアーのボストン公演の模様が完全版で収録されている。

カリフォルニアの自宅でローリングストーン誌の電話取材に応じたジ・エッジが、『All That You Cant Leave Behind』の制作当時を振り返ったほか、来たるU2の新作の最新情報もわずかだが明かしてくれた。

再起動には自然なタイミングだった

ー現在はどんなふうにお過ごしですか? 今のところロックダウン下の生活にも十分適応はできている感じでしょうか?

ジ・エッジ:ああ、半分冬眠しているとでもいった状態かな。仕事のことでいえば、音楽のアイディアに関しては何かしら書き留めておくことを自分に課している。そもそもどこに出向く予定もなかったからね。だからロックダウンと言われても、それほど衝撃ではなかったことも事実だ。ある種の人々と簡単に会えない点は不満の募る事態ではあるけれどね。それに、毎度毎度自宅で食事をしなければならないことにもやや飽きてくる。でもその辺りを除いてしまえば俺自身は好調だし、むしろ創造的な時間を過ごせていると言わなければならないだろうね。

外に出て行く仕事で生活を支えている人々の心情については察して余りあるよ。もし今自分たちがツアー中だったり、そうでなくてもその計画がある状態だったとしたら全然違っていたとも思うしね。たまたま俺たちがこういう時間の過ごし方をしようとしていた時期に、まさにこの状況が重なったということではある。


ー貴方がたには幸運なタイミングだったという訳ですね。直近のツアーが終了したのが、ちょうど公演の類が不可能になってしまう数週間前でしたものね、辛うじて予定を消化し終えていた、というところでしょうか。

ジ・エッジ:我々のマネージメントは実に優秀なんだ。もっとも、よもやここまでとは俺も知らなかったがね。

ー『All That You Cant Leave Behind』の話に入りましょう。1998年初頭に「ポップマート・ツアー」が終了になった段階で、バンド全体の精神的状況というのはいったいどんなものでしたか? 個人的にはあのアルバムもツアーも大好きだったのですが、でも、おそらくはご自身が考えていた通りには進まなかったこともまた本当だったのではないでしょうか。

ジ・エッジ:「ポップマート・ツアー」を突き詰めて考えたうえで、イチかバチかでもああいう形でやってみようと決めた時、つまりは「Zoo TV」よりも大規模なものにしようということだが、その段階では、俺たちはみんなある種の解放感を覚えてもいた。もちろん当時はそれまでやったことのないスケールだったからね。だから、ようやく全日程を終えた時には、全員で目と目を見合わせてこう思い合ったものだよ。「よし、考えていた通りにやり終えたぞ」。

初日までには徹底的にリハーサルを重ねた。もちろんそんなことが初めてだった訳でもないが、すべてが観客の前ではたしてどうなるものかを見極めておかなくちゃならなかったからね。
公演を舞台の上に持ち込むことにはいつだってハッとさせられる部分がある。それに、毎晩のように、ああ、もう少し上手くやれたところがあったなとも思わされるもんだよ。もうちょっと力強く表現できたな、とか、そういうことだ。でもツアーが終わる頃にはすべての試みが満足のいくステージに繋がったと思えるようになっていた。あのツアーの映像には俺自身ものすごく誇りに思っている。

だから、まずは何よりも肩の荷を下ろせたような感じだった。でも同時に、千年紀の終わりが近づいているんだなということが頭にあったのも本当だ。当時の俺たちにはすごく重要なことだった。何か刻みつけなくちゃという気持ちになっていた。だからある意味では、再起動して自分たちがバンドとしてやろうとしていた一切を見つめなおすには実に自然なタイミングだったんだと思うよ。

再発見したロックンロールの本質

ー『ザ・ベスト・オブU2 1980-1990』が発売になった1998年の終わり頃、前触れもなく突然に、ラジオで「スウィーテスト・シング」がヒットしていたと記憶しています。曲さえ間違っていなければ、人々にはまたU2を受け容れる準備があるという証明に見えていたようにも思えるのですが。


ジ・エッジ:かも知れないね。だから俺たちも、一番大事なのは人々の想像力に訴求することなんだと気がついたんだ。一つには、ロックンロールというのは常に驚きや新たな考え方を提示しなければならないものだという面がある。あのヒットに勇気をもらえたことは本当だ。

あるいは「ポップマート・ツアー」で俺たちは、つい自分たちでは手に負えない何かにまで手を出してしまい、それゆえもう二度と元の場所には戻れないんだという考えにつきまとわれているように見えていたかも知れない。でも実体は真逆だ。人々は俺たちがやっていることに興味津々でいてくれた。そこで起きていたのは、好ましいカオスとでもいうべき事態だったんだ。自分たち自身と観客との間にある一定のバランスを維持しようとする力学によって生じるような渾沌だ。

目的をあまりに高く置き過ぎると、得てしてときおり忘れものをしてしまう。『POP』を振り返ればおそらく俺たちは、あそこに一曲も、人々と繋がれる曲というのを押し込むことができなかったんだ。それはたぶん、曲作りそのものがサウンド的な実験の後塵を拝するような位置におかれてしまっていたせいだ。
実験の部分を喜んでくれていた人もいた。だが俺たちも、いずれは曲作りの方に重きを置いたものを届けなければならなくなるだろうという事実には気がついていたんだ。

そして『All That You Cant Leave Behind』へと突入した。新たな千年紀の始まりだという意識が頭の中の大部分を占めていたものだ。タイトルが全部だよ。”置いてはいけないもののすべて”さ。これは、残していってはいけないものだけ、という意味にも取れる。つまりは本質的なものごとだ。当時の様々な意見がすっかり昔のものとなった今、この作品が残したものというのはいったいなんだと思う? 俺たちはだから、歌そのものだと理解してるんだ。

「バンドの化学反応」と「音色の可能性」

ーレコーディングの初期の段階で、このアルバムは何かすごいものになりつつある、自分たちはそういうものを作っているんだといった理解が訪れる、ある意味突き抜けたような瞬間があったりもしたのでしょうか?

ジ・エッジ:「スタック・イン・ア・モーメント」の全体がまとまったのはかなり早い時期だった。取っ掛かりは「ポップマート・ツアー」中に俺がいじくっていたモチーフだ。ブライアン(・イーノ)とダニー(ダニエル・ラノワ)に加わってもらうより前にもうすでに、俺とボノとで仕上げていたんだ。
こいつが手持ちにあったことは好都合だった。もう一つ、「カイト」もすでに一応はバンドで仕上げていた。あのサウンドはすごいなと自分たちでも思えていた。

収録曲のほとんどは、スタジオで全員でああでもないこうでもないとやるうちに次第に形になっていった。ブライアンとダニーとは、レコーディングはもちろんのこと、こういったいわば、スタジオ自体が曲作りの一つの手段になるような制作のやり方に関しても達人なんだ。曲のアイディアが降りてくるという事態はこうした制作課程の中で起きる。手触りや響きがちょっと面白いな、なんて思いながらフレーズなりリフなりを弾いているうちに湧いてくる。

面白いなと思うのは、こういうのが結局ありきたりの場所に落ち着いてしまったりはほとんどしないことだ。伝統的なソングライティングというものには、すでにすっかり踏み固められてしまった、紋切り型のイメージの轍を踏んでしまいかねないという厄介な問題がつきまとう。ところがまず響きから入ると、予測されやすいような道筋をいきなりすっ飛ばしてしまうことができるんだ。そうやって、まだ誰も手をつけていない斬新なものへとたどり着ける。こういう方法は俺らのそもそもの出発点でもある。

『POP』ではまず、物事をできうる限り解体してしまうところからアイディアを持ってきていた。だからこの課程においては自分たちが、アルバムとして完成した作品自体よりもさらに先へ行ってしまっていたような場面も実はあった。『POP』の制作中のある段階で、俺たち自身、どうも自分たちは、ロックンロールのバンドがこう在るべきと思われているその肝心な一面を失いつつあるんじゃないかということには気がついたんだ。それでほんの少しだけ引き返すことにした。

『All That You Cant Leave Behind』では作品全体でバンドの化学反応というものを目一杯まで見せたいと考えていた。でもそうしようとすると、今度はまるっきり真逆の問題に乗り上げてしまうことがままあった。ロックンロールのバンドがなんだかどれも同じように聴こえてしまいがちだという点だ。ギターにベースにドラムという編成では、音色の可能性というのは、少なくはないがかなり限定される。だからこそブライアンとダニーがいてくれて助かったんだ。ブライアンは響きに対するセンスが素晴らしく、それらを編み上げることに関しては達人だ。とりわけシンセサイザーには精通している。これが俺たちの演奏と拮抗して、音に決定的な箔をつけてくれるんだ。すべての音がバンドのものでありながら、同時に独特であるということが可能になった。

イーノとラノワの貢献、「ビューティフル・デイ」制作秘話

ーブライアンとダニエルとはかなり違う個性の持ち主ですよね? レコーディングのスタイルも大分異なっている。二人がどんなふうに一緒にやってバンドから最高のものを引きだしていったのかといった辺りをうかがうことはできますか?

ジ・エッジ:イーノはまあ、すっかり完成されたミュージシャンという訳では決してない。だからスタジオでのレコーディング作業となると、彼の力量というのは、方向性の提示とそれから今まさに何か新しい、地殻変動じみたことが起きつつあるぞという手応えを強固にしてくれるような形でまず働く。こういうことを彼自身が「オブリーク・ストラテジーズ」のカードをまとめたやつの中に入れ込んでいるよ。俺たちとの現場では使わなかったが、ほかのアーティストとの仕事ではだいぶ使っているみたいだね。あれはなんだかタロットカードの一種みたいでさ、そもそもはこうしたセッションが、たとえば誰かの演奏が小っちゃくまとまってしまったり、さもなければ全体の音が覇気なくすっかり予測の範囲内に収まっちまっているような状況で、何か新しい手段を講じなくちゃならないような時のために考案されたものなんだ。

こういった実験や現状の把握の中から、スタジオの中における創造性とか、あるいはミュージシャン同士が協力するとはどういうことかといった明快な理解が彼の中にできあがっていったんだと思うよ。スタジオの現場で創造的な精神ってやつを刺激し導いていくことに関してブライアンはエキスパートだ。つまり大抵の場合、彼は早い時間からスタジオ入りして、何かしらいじくっているということでもある。そしてそういうのを、その日の糸口として我々に示すんだ。こちらもそこに乗っかっていく。すると幾らもしないうちに、全員が新しい曲にそれぞれの居場所を見つけ出しているんだ。

ーそういうことが曲へと繋がった具体的な例というのは今思い浮かびますか?

ジ・エッジ:俺も大好きな曲なんだが「ニューヨーク」がそうだ。取っ掛かりは、彼がラリーのプレイの中から見つけてきたあるパターンのループだった。それを繰り返しかけているうちに、彼がまずあの短いキーボードのパターンを思いついた。朝8時にはもうスタジオに全員が揃っていて、そして一人ずつ、そのドラムと鍵盤の繰り返しのパターンに乗っかる形で演奏を重ねていったんだ。あの曲はそんな具合にしてできあがった。あれこそはブライアンが筋書きを描いてみせる格好の例だよ。こっちはもはや住み慣れた場所にいることなど許されなくなって、新しいものに飛び込まざるを得なくなる。

一方のダニーは俺が思うに、音楽を深いところで感じ取り、そのことによってある種理屈抜きの力を持ったサウンドを生み出していくよう周りを引っ張っていくタイプだ。それがたぶん、彼がプロデューサーとしての実績を積み上げているだけでなく、一人の音楽ファンでもあり続ける一番の拠り所なんだと思う。だからダニーの感性というのは、きっちりと潜在的な力を持っているような音へと向かう。俺ら自身そういう場所で生きていこうとしている訳だが、近くにダニーのような存在がいて、歌のそうした側面や、その手の力を有した響きの一部分に焦点を合わせ、強調してくれることは本当にありがたい。また彼は優れたミュージシャンでもあって、いつだってギターもマラカスもペダルスティールも喜んで引き受けてくれるし、コーラスも担当してくれる。あのレコードでもたくさんやってもらってる。

こうやって話しているうちに、ダニーと「ビューティフル・デイ」をやった時のことを思い出したよ。俺たちでボノの代わりに「ビューティフル・デイ」のコーラスを埋めたんだ。彼はメロディーのアイディアをしっかり自分のものにしていたし、歌詞もばっちり決まってた。だけどスタジオを出ようとした時だった。コーラスの部分が聴こえてきたんだが、どうにも生々し過ぎて響いた。そこで俺はマイクの一本を手にし、高音のバックコーラスを自分で歌ってつけ足した。俺は基本ミニマリストだから、この時も最小限の音符でコーラスを仕上げてやろうと考えていた。

そこでダニーも何かしら聴き取ったんだな。不意にセカンドマイクを掴んだかと思うと、俺のコーラスにさらに声を重ねてきた。でも彼のラインはひどく入り組んでいて、まるで滝みたいだったよ。結局はこの二つの声が、あのボノの主旋律に拮抗する美しい対位旋律(カウンターポイント)として仕上がったんだ。

これこそはあの曲が必要としていた最後の鍵だった。まあだから、ブライアンとダニーと仕事をする時は大体こんな感じだよ。レコーディング期間中はバンドの五番目と六番目のメンバーにもなってくれている。互いに発想を維持し、刺激し合う、ある意味では実に有機的な関係性だ。こういう部分が肝心なんだ。いつもなんとかして作り上げようと悪戦苦闘しているものだよ。

アメリカ同時多発テロへのリアクション

ー最近またこのアルバムを改めて聴きなおして、多くの曲の歌詞に表れているダークな部分に衝撃を受けました。たとえば「ビューティフル・デイ」の主人公は心底ひどい一日を過ごしていますよね。「スタック・イン・ア・モーメント」に描かれている人物は自殺することを考えています。「ニューヨーク」は妻を裏切ったことで自分の世界が崩れ落ちてしまうという歌です。だからこそ、これらとの対比で「ワイルド・ハニー」の明るさが際立っているのかなとも感じました。

ジ・エッジ:その通りだろうね。当時の俺たち自身にもあの「ワイルド・ハニー」はほかの一切と大きく矛盾しているように思えていたものだよ。あまりに明るくまばゆくて、そのうえ甘ったるいもんだから、一時は収録曲から外そうかという寸前にまでいった。でもあの曲にはほとんど愚かさにも等しいほどの無邪気さがある。次に「ピース・オン・アース」が続いて出てきた時に、これが非常に重要になった。あっちはたぶんU2がここまで書いてきた中でも最も荒廃した曲の一つだからね(笑)。これは俺にも多少の責任があるな。あの歌詞を書き始めたのは実は俺なんでね。

でも俺たちは、アルバムの中に矛盾する要素を入れ込むといったことで思い悩んだりはしない。なんていうか、そういった矛盾の極限というか、そういう領域にこそ目指しているものがあったりするんだ。そういうものをただ一曲の中で表現することは不可能だが、でも相反するもの同士の孕む緊張感の中にならば立ち現れてくれることがある。むしろその方が容易だったりする。それこそがあの「ワイルド・ハニー」が、結果として本作において重要な位置を占めることになった理由だろうね。

U2『All That You Can't Leave Behind』20周年、ジ・エッジが振り返る完全復活の裏側

Photo by Anton Corbijn

ー貴方がたがこのアルバムを作っていたタイミングというのも非常に興味深いですよね。レコーディングが始まったのは90年代でした。発表はまさにブッシュ対ゴアの票の数えなおしが行われようというほんの数日前のことでした。その後ツアーに出られた訳ですが、その最後の公演に挑もうかというところで9.11が起きました。世界は貴方がたの足元で、目覚ましく変革していたんです。

ジ・エッジ:うん。確かにこのアルバムの発表後にはそうした物事がたくさん起きた。多くはツアーの最中だ。結局は9.11の後でスーパーボウルの舞台に立つようなことにもなった。そこで舞台監督と話し合い、9.11の犠牲者らの名前をスクリーンに映して追悼しようと決めた。とても意味のある時間になったよ。

その後のニューヨークでは、本当の意味で浄化と呼べるようなステージをやることもできた。9.11の初動対応に当たった人々が舞台に上がり、テロで命を落としてしまった同僚たちのことを話してくれたんだ。心底胸をかきむしられるような体験だった。同時に音楽の力というものを思い出させてももらったよ。人々が感情を言葉にし、それと向き合い、受け止めて、内化していくその手助けができるんだと改めてわかった。そんな役目を担えることには身が引き締まる思いがしたし、感動もした。

確かに俺たち自身もまるでジェットコースターに乗せられてでもいるかのようだった。でも作品はそんな加圧試験のすべてに耐え抜いてくれた。悪くない気分だったよ。大抵の場合は一室に六人で顔をつきあわせてみたいなやり方で曲を作り、それを世界に向けて放つ。でも一旦世に出てしまえば歌たちはそれぞれに自身の命を得ていくものだ。その曲がどういう形で使われるのかはこちらにはわからないし、表になってどんな価値を持つのかも同様だ。だからこうした曲のうちの幾つかがその時代に大きな意味を持ち、人々と強く強く結びついてくれていたりするのがわかった時にはもう、本当に言葉が出ないほど唖然としてしまうよ。

リイシューの意義と次回作の展望

ーここだけの話ですが、2年後には『POP』に発売25周年がやってきますよね? 同作のボックスセットという可能性はありますか?

ジ・エッジ:いい質問だ(笑)。うむ。今俺たちはこんな具合に昔のアルバムを自分で再評価する時間というものを楽しんでいる。だから可能性を排除しようというつもりもない。まだそういう計画は俺の耳には入ってきてこそいないが、今回のような手続きが楽しいことは本当だし、結果も成功しているといえそうだ。もう少しこうしたことをやるべきなのかも知れないね。考えてみよう。

今回の一枚が俺たちにとっても創造性の一つの頂点となったのは、スタジオに入る前の段階で積み重ねてきたもののおかげだったと思っている。『All That You Cant Leave Behind』のアウトテイクの幾つかには、自分でもはっとさせられた。こうした曲たちというのはとかく忘れ去られてしまいがちでね。ライヴの演目に加えられることもなければラジオでかかることもないから。でも、当時に立ち返って改めて聴いてみると、こんなふうにも思うんだ。「お、なんだ。もう一枚アルバムができそうじゃないか。これでアルバムを作っておくべきだったな」。

まるでファンの一人になったみたいにこうした作品に触れられることは実に楽しい。どうやって作ったのかとか、何から出発したんだっけかといったことを自分でもすっかり忘れているからそうなれる。一切、私心なく向き合えた。こいつは本当に面白い。だから、どうなるかはわからないよ。

今回初CD化された未発表曲「レヴィテイト」

ー最後の質問です。次回作についてはどんな状況なのでしょう?

ジ・エッジ:わかってると思うが、俺はいつだってU2の曲のアイディアを考え続けている。アイディアならデカい鞄に目一杯というくらいにある。中には大分煮詰めたものもあるし、まあ半分くらいは仕上がったかなというものもある。今のところは具体的な計画はまだない。だけど、現段階で俺は書きためることを楽しんでいる。ほかにできることもそうそうはないからね。創造的な部分にどっぷりと浸かった、いい時間を過ごさせてもらっているよ。

まだ真っ白なキャンバスって状態かな。でもこういう段階もなかなかいいもんだ。これらがいったいどういう形になるんだろうといったことをさほど真剣に心配しなくてもいいからね。ただ想像力と戯れていればそれでいい。そうするといいアイディアも山と浮かんできてくれる。でも、それらがどうなるかは今のところやっぱりわからないし、こういうものがアルバムとしての形をいつ自分自身で描き出し始めるのかも、まだ正直さっぱりなんだ。

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From Rolling Stone US.

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リリース詳細:https://www.universal-music.co.jp/u2/discography/
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