2021年最初の一大センセーションを巻き起こしたのは、今年2月に18歳の誕生日を迎えたばかりの新人、オリヴィア・ロドリゴのデビュー曲「drivers license」だった。
今年1月のリリース直後からストリーミングで爆発的な再生回数を叩き出し、(クリスマスソングを除く)Spotifyにおける一日のストリーミング回数の記録を二度にわたって更新。アメリカではデビュー曲が初登場1位から8週連続トップを守り続けた史上初のアーティストにもなっている。Spotifyのグローバルヒット担当者が「これほどの影響力を持った新人アーティストのデビューを過去に見たことがない」と目を丸くするのも無理はない。今や「drivers license」は完全に社会現象なのだ。
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もっとも、オリヴィアは純然たる「新人」というわけではない。2016年からディズニーチャンネルで放送されたシットコム『やりすぎ配信!ビザードバーク』、2019年にディズニープラスで配信がスタートした人気ドラマのリメイク版『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』で主演を務めるなど、いわゆる「ディズニーアイドル」としてのキャリアがある。ここで築いた人気が基盤になっているのは間違いない。
ただ、「drivers license」が同じディズニー出身であるブリトニー・スピアーズやマイリー・サイラスなどのデビュー曲を遥かに超える社会現象化したのは、何よりオリヴィア自身のソングライティング能力に拠るところが大きいだろう。オリヴィアは「世界一のテイラー・スウィフトのファン」を自認しているが、このドラマティックなパワーバラッドはテイラーが発明したリリックの手法を完全に血肉化している。
「テイラーを聴いて育った世代」ならではのアプローチ
この曲で描かれているのは、運転免許を取ったばかりの主人公(オリヴィアも2020年夏に免許取得)が一人で郊外まで車を飛ばし、免許取得を一緒に楽しみにしていたはずのボーイフレンドが今はもう隣にいないことを嘆く様子。特に注目されたのは、「あのブロンドの女の子と一緒なんだろうな」「彼女は私よりずっと年上」と元カレの浮気を臭わせる描写で、すぐさまファンの間で考察が過熱した。
リリックの中に交際相手やその浮気相手、もしくは不仲を噂される人物などについての思わせぶりな描写を織り込み、リスナーのワイドショー的な好奇心を掻き立てて耳目を集めるという手法は、2010年代のテイラーがもっとも得意としたスタイル。Z世代は「テイラーを聴いて育った世代」とも言えるわけだが、デビュー曲の時点で当たり前のようにテイラーの作詞術を前提に踏まえ、それを非常に高い完成度でやってみせるオリヴィアは、やはり新世代的というべきだろう。
また、The Guardianでローラ・スネイプスが指摘するように、この曲は2010年代の女性シンガーのヒット曲に多く見られたエンパワーメント的な要素が希薄で、むしろ主人公が出口の見えない悲しみに浸っているというのも注目すべき点だろう。これは、見方によっては「保守的」で「反動的」と捉えることもできる。だが同時に、幼い頃から政治的混乱、気候変動、経済不況、そして終わりの見えないパンデミックを経験し続けているZ世代にとって、「出口なき悲しみ」は自らのリアルな皮膚感覚を表現した結果ということもできるはずだ。
2010年代ポップにおける最良の成果のひとつを継承しながらも、新世代的な感覚でそれを更新したオリヴィア・ロドリゴは、2020年代の新たなアイコンと呼ぶにふさわしい。
Edited by The Sign Magazine
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