最近はノミネーションが発表されるたびにリスナーやメディアやアーティストから批判や不満が噴出するのが恒例となっている。だが、本当はこの事態をどのように受け止めるべきなのだろうか?
ここ数年、グラミー賞のノミネーションが発表されるたびに、リスナーやメディアからの批判が噴出することが恒例となっている。昨年はザ・ウィークエンドが大ヒットを飛ばしながらも、ノミネーション数0だったためボイコットを宣言。それ以前からも性差別や人種差別的な傾向が問題視され、批判は絶えなかった。もちろん理不尽な差別は一刻も早く是正されるべきだ。ただ差別の問題を差し引いても、グラミーが熱心な音楽リスナーの感覚からズレていることは何も今始まったことではない。そもそもグラミーは極めて保守的で権威主義的な賞である。2010年代に入るまでは鼻にも掛けないというスタンスのリスナーやアーティストも多かったはずだ。
ところが、2010年代はグラミー賞に再び人々の注目が集まるようになった。それは今振り返れば、2010年代半ばが商業性と芸術性が両立したポップ音楽の理想的な時代だったことも関係しているだろう。その年のもっとも先進的な作品がもっとも権威のある賞にノミネートされる――誰もがそれを期待することが許された数年間が奇跡的に存在したのである。だが、その状況も徐々に変わってきた。
最多ノミネートはジョン・バティステで11部門
ただ、グラミー賞も過去数年の批判を踏まえて変わろうとはしている。今年度の一番大きな変化は、ノミネーション選定時のブラックボックスだった秘密委員会の撤廃。ザ・ウィークエンドがノミネート数0となったとき、特に問題視されたのが秘密委員会の存在だった。その代わり、今年度からは1万人を超えるグラミー賞会員の直接投票で候補が決まることになった。主要部門のノミネート枠も8組から10組に変更して門戸を広げている。
ではその結果はどうなったのだろうか? 最多ノミネートはジョン・バティステで11部門、ドージャ・キャットとジャスティン・ビーバーとH.E.R.が8部門、そしてビリー・アイリッシュとオリヴィア・ロドリゴが7部門と続く。
ビリーやオリヴィアやドージャは順当だが、ジョン・バティステの圧倒的なノミネート数には疑問の声も多い。バティステは映画『ソウルフルワールド』の劇中音楽を担当し、(グラミー賞授賞式が生中継される)CBSのトークショー番組でハウスバンドのリーダーを務める人物。音楽的には多才だが、同時に無難なアーティストだとも言える。
ほかにも批判が多いのは、グラミー無冠のアバが40年ぶりの新作で主要部門にノミネートされたこと、BTSがあれだけ全米大ヒットを飛ばしながら今年も主要部門にはノミネートすらされなかったこと、昨年は女性のノミネートが多くて称賛されたロック関係の部門がどれも大御所の男性アーティストばかりに戻ってしまったこと、などだろうか。
確かにどれも苦言を呈したくなるのはわかる。
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Edited by The Sign Magazine