「大人になる」とはどういうことなのか。20歳という節目について、映秀。は「できることが増える反面、いろんなことに責任が伴ってきますよね。社会からの期待、信頼、信用。そういうものを自分で背負うようになる。嬉しい反面、ちょっと怖い部分もあるかな」と胸中を明かす。ちょうど1年前の誕生日、3月17日に1stアルバム『第壱楽章』をリリースしたあと、8ヶ月の短いスパンで2ndアルバム『第弐楽章 -青藍-』を発表し、翌12月には人生初のワンマンツアー「This is EISYU」を完走。Z世代の大型新人としてデビューを飾った彼は、”明日じゃなくて 今日を生きろ/未来じゃなくて 今を生きろ”という「東京散歩」の歌詞さながら、10代最後の日々を猛スピードで駆け抜けた。
「(中身の)詰まった1年間でしたけど、何をしていたのか全然覚えてない(笑)。今までの人生もそうなんですよ。明日のことを考える余裕がないくらい、この瞬間を全力で生きてきたので。
ツアー「This is EISYU」12月18日のZepp Haneda公演で披露された「東京散歩」
自由を謳歌するサウンド、美しい詩情を備えた歌詞、息を呑むほどエモーショナルな歌声。音楽の申し子というべき才気をアピールしながら、映秀。はそれぞれの曲に成長と変化、葛藤と生き様を刻んできた。20歳の誕生日にリリースされる「縁(えにし)」にも、成長の跡がいくつもうかがえる。過去曲でいえば「Good-bye Good-night」の系譜に連なるバラードには、怒涛の2021年を経て、「もっと素直になろうと思った」という現在の心境が反映されている。
「これから初めて僕を知る人たちに、自分にとって身近な音楽、何回も聴きたくなるような音楽だと感じてほしくて。この前、玉置浩二さんのライブを観ながら感激したのが、(曲を)聴いた瞬間に光景が思い浮かぶんですよ。そこから歌詞を知らなくても風景を想像させて、感動できるような曲を作るには、素直な歌詞が大切なんだと気づいたんです。それって簡単そうでかなり難しい。本気で考え抜きました」
ある人は「縁」を恋愛ソングと解釈するだろう。もしくは親友との絆をたしかめたり、家族に感謝を伝えたくなる人もいるかもしれない。この曲の歌詞はそんなふうに、それぞれの立場や人生経験に応じて、歌詞中の「僕」に自分を投影しながら、大切な「君」の存在を思い浮かべることができる。
そんな歌詞と見事にシンクロしている、壮大なサウンドスケープにも包容力が感じられる。この曲の音楽性については「ディズニーや魔法」をイメージしていたそうで、マジカルな高揚感とともに、R&Bを基調とした王道的なソングライティングが実践されている。めまぐるしい情報量も映秀。の持ち味だが、”縁”では情感豊かな歌声がストレートに届けられるのも特徴的で、どんなシチューションで聴いても言葉とメロディがまっすぐ胸に刺さるだろう。かといって、アレンジが平凡というわけではない。特定のジャンルに縛られない独創性は、むしろこれまで以上に冴えている。
アレンジの要となっているのはピアノの響き。「ボイシング(コードの構成音の重ね方)はジャズだけど、プレイはクラシック」と映秀。が描いた理想のヴィジョンは、坂本龍一とロバート・グラスパーの間を縫うような演奏に結実した。水のように流れるしなやかな旋律は、ベースやドラムから固める正攻法のレコーディングではなく、ピアノから先に着手したことで生まれたという。
J・ディラを参照した打ち込みビートが支える最初のヴァースでは、リズムを丁寧に乗りこなし、抑制されたテンションで言葉を運ぶヴォーカル・ワークに注目したい。
「これまでは(レコーディング中に)歌詞の解釈とか伝えてこなかったけど、今回はメンバーとしっかり話して、『ここはどういう表現をしてほしい』とか明確に伝えるようにしました。だから、みんなも自分自身の曲として向き合ってくれたと思う。僕が20歳になるタイミングで、ほぼ同い年の友達であるメンバーとこの曲を作ったことは、すごく大きな意味があるんじゃないかな」
「えにし」への大きな感謝
そして、この曲にはもう一つ、ファンであれば必ず気づく重要なポイントがある。映秀。の「。」とは彼を支える仲間やファンを表すもので、本人は「。」を「えにし」と呼んでいる。つまり、BTSにおける「ARMY」と同じように、「えにし」とは映秀。ファンを指す名称で、それをそのまま曲名に掲げたのが「縁」というわけだ。そのことを踏まえると、”僕の事を信じてくれて ありがとう”という歌詞も意味合いが変わってくる。
自分の音楽を愛するファンに感謝を伝えたラブレター。そんな曲を作ろうと考えたのは、先述したワンマンツアーで感動的な発見があったからだった。
「それまでは大きな繋がりとして『えにし』を感じていたけど、ライヴを経験したことで、一人ひとりが応援してくれてるのを初めて実感できたんです。だから、今までは『みんな』に向けて歌ってきたけど、今回は『あなた』に向けた曲を作ろうと思って。”自信折れてしまっても/涙焼かれてしまっても/君だけは信じてくれた”と恥ずかしいくらいシンプルに歌ったのも、僕の音楽を信じてくれた人に対して、ストレートに想いを伝えたいと思ったから。クネクネ回りくどく言うのも失礼だと思って(笑)」
「縁」にも”意味のない事に意味を見つけ/僕らだけの名前を付けよう”という一節があるように、映秀。の音楽活動には「人のきっかけになりたい」という一貫したテーマがある。それまで当たり前だと思い込んできたことを、ふと立ち止まって考え直すきっかけを与えるーーそんな音楽を作るのが彼の目標だった。ところが、「縁」ではその立場が逆転している。ネットの弾き語り動画をきっかけにデビューした映秀。は、ツアーを通じて「生」の楽しさを知り、フロアに集った”えにし”から「きっかけ」を与えられた。その経験を通じて、彼は多くを学んだようだ。
「”不幸続きが止まぬなら/びしょ濡れになるまで付き合うよ”というくだりで、最初は『傘をさしてあげるよ』みたいなことを書こうと思ったんです。でも、自分はそういうスタイルではないよなって(笑)。それよりも一緒に迷って、一緒にびしょ濡れになって……。これまでは『僕はこう生きてるよ、みんなはどうする?』ということを歌ってきたけど、こんな映秀。がいてもいいのかなって」
これから出会う人も、これまで愛してきた人も、「縁」を聴くと映秀。をより身近に感じられるようになるはずだ。大人になる節目を迎えて、彼はまた変わろうとしている。どんな20代を歩んでいくのか、これからも目が離せない。

映秀。
「縁」
配信サイト一覧:https://Eisyu.lnk.to/Enishi
映秀。「縁」リリース記念YouTube生配信
3月17日(木)20時~
トーク&プレミアライブ映像公開
https://youtu.be/5JyHGzsX5-g