昨年の今頃はブラーのメンバー4人の誰一人として、自分たちが近い将来に再び集結してアルバムを作るなどとは、夢にも思っていなかった。やがて彼らのもとに、2023年の夏にウェンブリー・スタジアムでコンサートをしないかという話が舞い込んできた。「断る理由がないだろう」と、ドラマーのデイヴ・ロウントゥリー(59歳)は言う。「英国を代表する最高の会場だ。90年代後半の絶頂期にあった時、僕たちはウェンブリーでプレーしてなかったしね」
20年前に初めて分裂したメンバーが再び結集するまで、4人は全く別の道を歩んでいた。
今後ブラーが解体することは、もうないだろう。2009年以降バンドは、国内外で再結成コンサートを何度も繰り返し、ファンを喜ばせてきた。
4人の旧友が再会したのは、2022年12月のロンドンだった。
この投稿をInstagramで見るBlur(@blurofficial)がシェアした投稿2023年7月8日、ウェンブリー・スタジアム公演のライブ写真
2023年7月に9万人収容のサッカースタジアムで行った2日間のライブを皮切りに、ほぼ10年振りとなるツアーが実現する。
「全く予期していなかったことが起きた」とアレックスは言う。「いつの間にか妊娠していて、スーパーマーケットの駐車場で突然産気づいたようなものだ。そして産まれてきたのが”あぁ立派な男の子だ!”といった感じさ」。
スタジオで生まれたマジック
2022年12月に行われた手探りのミーティングから1カ月後、4人はロンドンにあるデーモンのスタジオに集結した。
「スタジオに入って音を出した瞬間に、マジックが起きた」とアレックスも認める。「当初は、ボーカルもギターもお互いに遠慮するんじゃないかと思っていた。
2023年1月になってスタジオ入りした日にアレックスが確認したところ、おそらく4曲分のベーシックトラックがレコーディングされていた。その内の1曲が、「I fucked up/Im not the first to do it」と歌う、切れ味の良いデヴィッド・ボウイ風のロック曲「St. Charles Square」だ。「デーモンと2人でヘッドバンギングしてノリノリだった」とベースのアレックスは振り返る。「なんてすごい曲だ」と感動したという。
1stシングル「The Narcissist」のオープンでエモーショナルなトーンもまた、アレックスを感動させた。「デーモンのソングライターとしての才能は、どんどん進化している。もちろん、ミュージシャンとしてもね」とアレックスは言う。「今回のアルバムでデーモンは、才能を最大限に発揮した。テクニック的なものではなく、ただ純粋で豊かな表現力を感じる」。
レコーディングセッションは、スムーズに進行した。「君がテニスの経験があるかどうか知らないが、僕はテニスが大好きなんだ」とデイヴは言う。「ラケットの直径が、ものすごく大きく感じる時があるのさ。めちゃくちゃにボールを打っても、素晴らしいショットが決まる。今回のアルバムは、正にそんな感じだった。何をやっても上手く行ったよ」。
アレックスに言わせれば、ブラーにとって珍しいことではないという。彼は、エレクトロニック系プロデューサーであるウィリアム・オービットと組んだ、1998年のアルバム『13』を例に挙げた。同アルバムでバンドは、初めての試みとしてエレクトロニックやエクスペリメンタルにも挑戦し、成功を勝ち取った。「本当に暑い夏の日だった。西ロンドンにあったデーモンのスタジオにはエアコンがなくてね。マドンナの『Ray of Light』に携わっていたウィリアムは、おそらく直前までカリフォルニアの立派なスタジオで作業していたのだろう。ところがロンドンに来たウィリアムは、狭いスタジオの隅に追いやられて縮こまっていた。デーモンが組んだコード進行に沿って僕たちがプレイし始めると、ウィリアムは目を丸くしていた。”君たちはいったい、いつの間にあんなアレンジを考え出したんだ?”とウィリアムが言うから、”10年間ずっとやってきたことで、僕たちにとっては自然なことさ”と答えたんだ」。
ウェンブリーでのコンサートを間近に控え、レコーディングのデッドラインも迫っていた。デイヴは、1993年のアルバム『Modern Life Is Rubbish』が完成するまでの状況を思い返す。同アルバムで成功を収めたブラーは、ブリットポップ・ムーブメントの先駆けとなった。「当時はレコード会社から、今回とは違うタイプのプレッシャーがあった」と振り返る。「でも、僕たちがいい作品を作らなきゃならないという点では、昔も今も変わらない。上手く乗り切るか、プレッシャーに負けて失敗するかのどちらかだ」。
アレックスは、当時をまた違った目線で見ていた。「『Modern Life Is Rubbish』以来の、最小構成によるバンドだ。次のアルバム『Parklife』からは、ブラスやストリングス、バックコーラス、オーケストラ、パーカッションなどを加えた大所帯になった。全く馬鹿げていた」とアレックスは言う。「今回は無駄を削ぎ落として、必要最小限の構成にした。おかげでブラーらしいサウンドとフィーリングが実現できた」。
ツアーの展望「新たな一面を見せられるだろう」
ニューアルバム『The Ballad of Darren』には、バンドの歴史をバックグラウンドにした曲も収録されている。デーモンが2003年に作ったソロ曲のデモバージョンを基にしたオープニングトラック「The Ballad」は、バンドのセキュリティ責任者を長く務めたダレン・”スモッギー”・エヴァンスが大いに貢献した作品だ。「かなり前にデーモンが書きかけて、未完成のまま放置されていた」とデイヴは証言する。「スモッギーが、未完成だが素晴らしい曲があったことを記憶していた。ある時スモッギーがデーモンに、あの曲をぜひ完成させるべきだと直談判したのさ。その結果が、”The Ballad of Darren(ダレンのバラード)”さ。」
レコーディングの主要パートを終えたメンバーは、それぞれ別の生活へと戻っていった。「デーモンは、イングランド西部のデヴォン州にある自宅へ引きこもった。人里離れた静かな田舎で、とても落ち着く場所だ」とアレックスは言う。「彼はのんびりとくつろぎながら、ボーカルに磨きをかけているのさ」。
デイヴは「デーモンを差し置いて歌詞の内容について語るのはやめておくが」と前置きした上で、「個人的な感想では、かなりパーソナルな内容で、デーモンの本領が発揮されていると思う」と続けた。
バンドのリズムを支えるアレックスとデイヴは、それぞれがくつろげる場所からオンラインでのインタビューに応じてくれた。アレックスはオックスフォードシャーに所有する農場で、バンド活動の合間にさまざまなチーズを作っている。「引退後に農場暮らしをするミュージシャンも多い。長年のツアー生活の反動だと思う。どこかに根を下ろして、少しゆっくりすることも必要だ」。
バンドでベースを担当するアレックスは、この頃気分が良い。ブラーが再結成した上に、自分たちが期待した以上の新作が生まれているからだ。「これまで一緒にやってきた時間は、何事にも変え難い貴重なものだ」とアレックスは言う。「でも僕ら自身が誇れるアルバムをリリースできることで、これからのツアーでは全く新たな一面を見せられるだろう。単に昔を懐かしむだけのコンサートにはならない」。
ウェンブリーでのコンサート後の年内は、ヨーロッパ、日本、南米をツアーで回る。2015年にマディソン・スクエア・ガーデンとハリウッド・ボウルでそれぞれ1回ずつ印象的なコンサートを開催した北米に関しては、もうしばらく待つ必要がありそうだ。
「馴染みの曲の中には、コンサート前にリハーサルすらしないものもある。何度も繰り返して新鮮さを失いたくないからね」とアレックスは言う。「またあの頃のサウンドを出せるのが、本当に楽しみだ」。
From Rolling Stone US.
※Rolling Stone Japanはデーモン・アルバーンへの独自インタビューを実施、後日アップ予定。
ブラー
『The Ballad of Darren』
2023年7月21日(金)リリース
国内盤CDボーナス・トラック収録
予約:https://blur.lnk.to/TBOD
限定グッズ購入:https://store.wmg.jp/collections/blur/
SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)~20日(日)
東京:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ/大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※全券種ソールドアウト、ブラーは19日・東京/20日・大阪に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/