UKの伝説的バンド、ブラー(blur)が2015年以来となるアルバム制作のために再集結。バンドのリズムセクションを担当する2人のメンバーは、自分たちでも驚くほど楽しめているようだ。
今夏のサマーソニックでヘッドライナーを務める彼らの最新インタビュー。

昨年の今頃はブラーのメンバー4人の誰一人として、自分たちが近い将来に再び集結してアルバムを作るなどとは、夢にも思っていなかった。やがて彼らのもとに、2023年の夏にウェンブリー・スタジアムでコンサートをしないかという話が舞い込んできた。「断る理由がないだろう」と、ドラマーのデイヴ・ロウントゥリー(59歳)は言う。「英国を代表する最高の会場だ。90年代後半の絶頂期にあった時、僕たちはウェンブリーでプレーしてなかったしね」

20年前に初めて分裂したメンバーが再び結集するまで、4人は全く別の道を歩んでいた。
シンガーのデーモン・アルバーン(55歳)は、ゴリラズの一員として2023年春のコーチェラ・フェスティバルに参加した。ギタリストのグレアム・コクソン(54歳)は最近出版した自叙伝の中で、自身のミュージシャンとしてのキャリアや依存症の過去について語った。ベースのアレックス・ジェームス(54歳)は、イングランド郊外に所有する酪農場で、食と音楽の祭典を毎年開催している。そしてデイヴ・ロウントゥリーといえば、長年にわたり地方で政治活動に携わったあと、2023年にソロアルバムをリリースした。

今後ブラーが解体することは、もうないだろう。2009年以降バンドは、国内外で再結成コンサートを何度も繰り返し、ファンを喜ばせてきた。
現在の彼らは、過去の絶頂期よりもファンに愛される存在であるのは間違いない。しかしアルバムに関して言えば、再結成から2022年までの間に辛うじて1枚リリースしたのみだった。2015年にリリースした『The Magic Whip』は、香港でのコンサートの合間にスタジオでレコーディングした音源をもとに、グレアムが能力を駆使して奇跡的にまとめ上げたアルバムだ。「8年か。こんなにも長く別々でいたことはなかった」とアレックスは言う。

4人の旧友が再会したのは、2022年12月のロンドンだった。
当初4人は、ウェンブリーのステージに1度立つのがやっとだろうと感じていた。「僕たちは全員が、”とりあえず、4人が一緒に同じ部屋にいて耐えられるかどうか、様子を見てみよう”という感じだった」とアレックスが明かす。彼は最初のミーティングの後で、デイヴと言葉を交わしている。「(デイヴ・)ロウントゥリーは文字通り青ざめていた。彼は、”まさかこんなことになろうとは思わなかったぜ”という感じだった」とアレックスは振り返った。

この投稿をInstagramで見るBlur(@blurofficial)がシェアした投稿2023年7月8日、ウェンブリー・スタジアム公演のライブ写真

2023年7月に9万人収容のサッカースタジアムで行った2日間のライブを皮切りに、ほぼ10年振りとなるツアーが実現する。
さらに7月21日には、ニューアルバム『The Ballad of Darren』がリリースされる。正に奇跡としか言いようがない。

「全く予期していなかったことが起きた」とアレックスは言う。「いつの間にか妊娠していて、スーパーマーケットの駐車場で突然産気づいたようなものだ。そして産まれてきたのが”あぁ立派な男の子だ!”といった感じさ」。

スタジオで生まれたマジック

2022年12月に行われた手探りのミーティングから1カ月後、4人はロンドンにあるデーモンのスタジオに集結した。
プロデューサーには、アークティック・モンキーズやジェシー・ウェアを手掛けたジェームス・フォードを迎え、夏へ向けて新たな作品を生み出せるかを試した。「皆が歳を重ねて丸くなり、お互いの敵対心などとっくに水に流した、などと思ったら大間違いだった」とデイヴは苦笑いする。「僕たちはお互いに信頼し合っているが、同時にお互いが我慢ならない存在でもある。でも正直なところ、今年の初めからずっと笑いが絶えないんだ」。

「スタジオに入って音を出した瞬間に、マジックが起きた」とアレックスも認める。「当初は、ボーカルもギターもお互いに遠慮するんじゃないかと思っていた。
そうしなければ、それぞれが引き立たないって感じでね。でも僕から見れば、ブラーは気楽で居心地が良くて楽しい場所だ。どれだけの時が流れても、ここには4人がいて、僕たちの音楽がある。35年前に初めてリハーサルした時と、何も変わってはいない」。

2023年1月になってスタジオ入りした日にアレックスが確認したところ、おそらく4曲分のベーシックトラックがレコーディングされていた。その内の1曲が、「I fucked up/Im not the first to do it」と歌う、切れ味の良いデヴィッド・ボウイ風のロック曲「St. Charles Square」だ。「デーモンと2人でヘッドバンギングしてノリノリだった」とベースのアレックスは振り返る。「なんてすごい曲だ」と感動したという。

1stシングル「The Narcissist」のオープンでエモーショナルなトーンもまた、アレックスを感動させた。「デーモンのソングライターとしての才能は、どんどん進化している。もちろん、ミュージシャンとしてもね」とアレックスは言う。「今回のアルバムでデーモンは、才能を最大限に発揮した。テクニック的なものではなく、ただ純粋で豊かな表現力を感じる」。

レコーディングセッションは、スムーズに進行した。「君がテニスの経験があるかどうか知らないが、僕はテニスが大好きなんだ」とデイヴは言う。「ラケットの直径が、ものすごく大きく感じる時があるのさ。めちゃくちゃにボールを打っても、素晴らしいショットが決まる。今回のアルバムは、正にそんな感じだった。何をやっても上手く行ったよ」。

アレックスに言わせれば、ブラーにとって珍しいことではないという。彼は、エレクトロニック系プロデューサーであるウィリアム・オービットと組んだ、1998年のアルバム『13』を例に挙げた。同アルバムでバンドは、初めての試みとしてエレクトロニックやエクスペリメンタルにも挑戦し、成功を勝ち取った。「本当に暑い夏の日だった。西ロンドンにあったデーモンのスタジオにはエアコンがなくてね。マドンナの『Ray of Light』に携わっていたウィリアムは、おそらく直前までカリフォルニアの立派なスタジオで作業していたのだろう。ところがロンドンに来たウィリアムは、狭いスタジオの隅に追いやられて縮こまっていた。デーモンが組んだコード進行に沿って僕たちがプレイし始めると、ウィリアムは目を丸くしていた。”君たちはいったい、いつの間にあんなアレンジを考え出したんだ?”とウィリアムが言うから、”10年間ずっとやってきたことで、僕たちにとっては自然なことさ”と答えたんだ」。

ウェンブリーでのコンサートを間近に控え、レコーディングのデッドラインも迫っていた。デイヴは、1993年のアルバム『Modern Life Is Rubbish』が完成するまでの状況を思い返す。同アルバムで成功を収めたブラーは、ブリットポップ・ムーブメントの先駆けとなった。「当時はレコード会社から、今回とは違うタイプのプレッシャーがあった」と振り返る。「でも、僕たちがいい作品を作らなきゃならないという点では、昔も今も変わらない。上手く乗り切るか、プレッシャーに負けて失敗するかのどちらかだ」。

アレックスは、当時をまた違った目線で見ていた。「『Modern Life Is Rubbish』以来の、最小構成によるバンドだ。次のアルバム『Parklife』からは、ブラスやストリングス、バックコーラス、オーケストラ、パーカッションなどを加えた大所帯になった。全く馬鹿げていた」とアレックスは言う。「今回は無駄を削ぎ落として、必要最小限の構成にした。おかげでブラーらしいサウンドとフィーリングが実現できた」。

ツアーの展望「新たな一面を見せられるだろう」

ニューアルバム『The Ballad of Darren』には、バンドの歴史をバックグラウンドにした曲も収録されている。デーモンが2003年に作ったソロ曲のデモバージョンを基にしたオープニングトラック「The Ballad」は、バンドのセキュリティ責任者を長く務めたダレン・”スモッギー”・エヴァンスが大いに貢献した作品だ。「かなり前にデーモンが書きかけて、未完成のまま放置されていた」とデイヴは証言する。「スモッギーが、未完成だが素晴らしい曲があったことを記憶していた。ある時スモッギーがデーモンに、あの曲をぜひ完成させるべきだと直談判したのさ。その結果が、”The Ballad of Darren(ダレンのバラード)”さ。」

レコーディングの主要パートを終えたメンバーは、それぞれ別の生活へと戻っていった。「デーモンは、イングランド西部のデヴォン州にある自宅へ引きこもった。人里離れた静かな田舎で、とても落ち着く場所だ」とアレックスは言う。「彼はのんびりとくつろぎながら、ボーカルに磨きをかけているのさ」。

デイヴは「デーモンを差し置いて歌詞の内容について語るのはやめておくが」と前置きした上で、「個人的な感想では、かなりパーソナルな内容で、デーモンの本領が発揮されていると思う」と続けた。

バンドのリズムを支えるアレックスとデイヴは、それぞれがくつろげる場所からオンラインでのインタビューに応じてくれた。アレックスはオックスフォードシャーに所有する農場で、バンド活動の合間にさまざまなチーズを作っている。「引退後に農場暮らしをするミュージシャンも多い。長年のツアー生活の反動だと思う。どこかに根を下ろして、少しゆっくりすることも必要だ」。

バンドでベースを担当するアレックスは、この頃気分が良い。ブラーが再結成した上に、自分たちが期待した以上の新作が生まれているからだ。「これまで一緒にやってきた時間は、何事にも変え難い貴重なものだ」とアレックスは言う。「でも僕ら自身が誇れるアルバムをリリースできることで、これからのツアーでは全く新たな一面を見せられるだろう。単に昔を懐かしむだけのコンサートにはならない」。

ウェンブリーでのコンサート後の年内は、ヨーロッパ、日本、南米をツアーで回る。2015年にマディソン・スクエア・ガーデンとハリウッド・ボウルでそれぞれ1回ずつ印象的なコンサートを開催した北米に関しては、もうしばらく待つ必要がありそうだ。

「馴染みの曲の中には、コンサート前にリハーサルすらしないものもある。何度も繰り返して新鮮さを失いたくないからね」とアレックスは言う。「またあの頃のサウンドを出せるのが、本当に楽しみだ」。

From Rolling Stone US.

※Rolling Stone Japanはデーモン・アルバーンへの独自インタビューを実施、後日アップ予定。

ブラーが明かす「全く予定外だった」再集結の裏側

ブラー
『The Ballad of Darren』
2023年7月21日(金)リリース
国内盤CDボーナス・トラック収録
予約:https://blur.lnk.to/TBOD

限定グッズ購入:https://store.wmg.jp/collections/blur/

SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)~20日(日)
東京:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ/大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※全券種ソールドアウト、ブラーは19日・東京/20日・大阪に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/