浮遊感のあるエレクトロニック・サウンドの「Whatʼs a Pop?」では曲作りにおけるたゆまぬ探求心が描かれると同時に、生みの苦しみも描かれる。神サイはなぜ音楽を鳴らし、柳田周作(Vo・G)はなぜ歌を歌うのか。Yaffleや亀田誠治、村山☆潤といった面々を新たにアレンジャーに迎え、様々なサウンド・デザインに果敢にトライしながらも、音楽活動における根源的な思いが詰まったアルバムについて、4人に訊いた。
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ーファーストフルアルバム『事象の地平線』は20曲入り2枚組のアルバムでした。セカンドフルアルバム『心海』は13曲収録ですが、どんなイメージから制作したんですか?
柳田周作(Vo・G):コンスタントに新曲をリリースしてきて、いざアルバムを作ろうということになった時に核になったのは2曲目の「Whatʼs a Pop?」という曲でした。1曲目のインスト曲「Into the deep」と同じトラックでデモを作っていて、次にツアーをやるとしたら「Into the deep」で始めたいと思ったんです。だったら、このインストから始めるコンセプチュアルなフルアルバムができそうだなと思いました。
―『事象の地平線』のインタビューのタイミングで「ミスチルの『深海』みたいなアルバムを作る話が出ていた」と話していましたが、タイトルの『心海』は『深海』を意識されたんでしょうか?
柳田:そうですね(笑)。セカンドアルバムで早くも、漢字違いで『心海』と付けてしまいました。『深海』は桜井(和寿)さんのダークな部分がすごく出ていて、僕は人間味を強く感じました。神サイの強みって、完璧じゃない人間がやっているところなのかなと思っていて。リスナーと等身大というか。
―まさに心の海に潜っていったようなアルバムですが、タイトルとリンクさせたんでしょうか?
柳田:そうですね。曲順を決める時に気付いたのですが、3曲ずつ喜怒哀楽に分けられるんですよ。最後の「告白」はあとがきみたいなイメージなんですが、「Into the deep」から3曲目の「カラー・リリィの恋文」までが”喜”、「Division」から「修羅の港」までが”怒”、「僕にあって君にないもの」から「朝靄に溶ける」がまでが”哀”、「PopcornnMagic!」から「夜間飛行」が”楽”。偶然そういう振り分け方ができました。それで、自分の中の浮き沈みの激しい心情を表すとしたら、『心海』というタイトルが相応しいなと思いました。これまでは歌詞を書くのにすごく時間がかかったんですが、今回はなるべくリアルタイムで落とし込むようにしたんですよね。鮮度の良い状態でパッキングしたというか。例えば、ワンコーラスだけ作って歌詞のフル尺を後回しにするのをなるべく避けて、描き切ってしまいたかった。その方が鮮度が高い曲になると思いました。
「カラー・リリィの恋文」MV
「修羅の港」MV
「朝靄に溶ける」MV
桐木岳貢(B):振り返ると、すごくピュアな気持ちで制作に向き合えた気がします。自分でも気づかない感情を探っていったというか。今年に入ったぐらいから、「自分が何をやりたいのか」とか「なんでここにいるのか」ということを考えることがすごく多かったんです。このアルバムの進化はそういう自分の心境にもぴたっと当てはまるものでした。
―自分自身について深く考えるようになったきっかけがあったんですか?
桐木:単純に「このままじゃダメだ」って思ったことが大きかったかもしれないです。自分を変えなきゃバンドが先に進めないと思った。そこからいろんなライブを見たり、いろんな人と話したりして、自分の本当の気持ちが知れました。
―こちらからすると神サイは順調にステップアップしている印象もありますが。
桐木:確かにいろいろな方から「調子いいね」と言ってはもらえるんですが、バンド内ではよく「全然まだまだだよね」という話をしてます。
柳田:僕らに対して情熱を持って期待してくれてる人が多い分、その恩をまだ全然返せてないと思ってます。
―そういう気持ちがあった上で、『心海』にはどんな風に向き合ったんでしょう?
吉田喜一(G):アルバムの制作後半は、「あるものを取り壊す」ということを念頭に置いていたこともあって、このアルバムで今持ってるものを壊そうという気持ちでガンガントライができました。前作とは違う感覚がありましたね。
黒川:めっちゃ良いアルバムができたことが自信になりました。前作は自分としては精神的に落ち込んでいる時期に作ったアルバムで。その闇から脱却するために、自分の中で一個ずつ積み上げていったものがあって、それがアルバムという形になった気がしています。「告白」は特にお気に入りですね。自分はこのバンドのメンバーですけど、リスナーとしての気持ちを忘れたくないと考えながらミックスした音源を一番最初に聞いた時に、自分は歌が好きなんやなって思いました。
―「告白」はどうせみんないなくなるけど音楽は残るんだ、ということを歌ってるように聞こえました。
柳田:確かに。インディー時代の「illumination」という曲では、僕らが残す音楽を星に例えていて、今見えてる星はキラキラ輝いているけど、実際にはとっくの昔に消滅してて、その消滅する瞬間の爆発する光がめちゃくちゃ遅れてこちら側に届いてる。音楽っていうのはその曲を作ったミュージシャンが死んでしまった後も残り続けるので、「こんな幸せな職業はないだろう」と思って作った曲なんです。そのスピリットは未だに変わってないですね。「告白」は、生活には孤独や憂鬱といったネガティブなことばかりが付きまとうけど、振り返ってみれば周りにはメンバーやチームやファンのみんながいる。めちゃくちゃ愛されているっていうことを思い出すようにして作りました。
―「Whatʼs a Pop?」は神サイのポップ論みたいなものが描かれています。ポップでファンタジックなサウンドですが、どんなイメージがあったんでしょう?
柳田:エレクトロって生楽器には出せない魅力があるので、それを神サイの世界観で表現したいなと思いました。音源はドラムは打ち込みですけど、ライブでは生ドラムが加わって、おそらくギターがもっと前に出てきた時に、より神サイらしくなる。僕たちはライブと音源のアレンジの差が激しくて二度楽しめるようなバンドなので、特に「Whatʼs a Pop?」はツアーでどう化けるかが楽しみですね。
―曲作りの探究心が歌われながらも「インクももう限界みたい」と苦しさも描かれています。曲作りは楽しさと苦しさ、どちらが強いんでしょう?
柳田:「苦しいな」って思う割合の方が大きいんですが、そんなことどうでもよくなるぐらい、闇を抜け出した瞬間に何にも代え難い幸せを感じます。それを求めて曲を作り続けてるんだと思います。
―他の楽曲でも悲しさや苦しさは描かれながらも、サウンドはとてもポップなところに神サイの美学を感じました。
桐木:最近、「自分が一番幸福を感じる時っていつだろう?」って考えてみたんですが、おいしいごはんを食べてる時でも女の子と遊んでる時でもなくて、音楽活動で限界地点を超えたところから限界地点を見下ろせた時がときが幸せマックスなんですよね。でもそれは1~2日くらいしか続かなくて、すぐにまた「自分はダメだ」っていう気持ちが訪れる。その繰り返しなので、俺は一生音楽をやらないとダメなんだなと思いました。
黒川亮介(Dr):桐木が言ったように、楽器やってる人には限界地点があって、そこを突破した時の喜びもあるし、そこに向かっていく辛さもあります。限界地点を一回でも超える経験ができると、辛さも耐えられるんだと思うんですよね。だから、目標を決めて、そこに向けて頑張るっていうことを僕は最近はやってます。
吉田:桐木が言う「音楽を一生やるんだろうな」っていう感覚はすごくわかります。僕はモノづくりが好きで、絵を描くことも好きなんです。でも一番はギターが好きという気持ちが大きくて、一番長く付き合っているものでもあります。それと同じように、メンバーみんな表現することが好きで、ずっとやめないんだろうなって今回のアルバムを作ってて思いました。
―「スピリタス・レイク」や「PopcornnMagic!」は特にこれまでの神サイにはなかったアプローチですよね。
吉田:本当そうですね。
―これまでにない曲が多くありながら、「Division」は神サイの王道をアップデートしたような印象がありました。
柳田:神サイって、例えば「Whatʼs a Pop?」とか生楽器以外の音もふんだんにちりばめているアレンジが多い中で、「Division」は硬派なロックというか、生楽器の音だけで構築することにこだわりました。小難しいことはせずに、ストイックなロック曲というイメージですね。
―歌詞では”言葉”というのが大きなキーワードになっていますが、それはRPGゲーム「FREDERICA」の主題歌というところが大きかったんでしょうか?
柳田:そうですね、「FREDERICA」は国王が言葉を奪ってしまって、言葉のない世界で物語が進行していくんです。今はSNSで誰かが言葉で人を攻撃していることを見るのも多い時代なので、せめてこの曲が響いた人から優しい人間になっていってほしいなと思いました。「六畳の電波塔」で歌っていることにも近くて、「同じ人間同士、なんでそんなに傷つけあうんだろう?」という疑問を込めた曲です。
―「六畳の電波塔」には「うたで世界を救いたい」という歌詞もありますが、バンド活動をする上で、そういう気持ちを実感されたりするのでしょうか?
柳田:バンドを続けてきたから芽生えた感情だと思います。音楽をやっていなかったら自分も誰かと同じように人を攻撃していたかもしれない。たくさんの人から愛をもらっているからそういう風に思えるようになったんだと思います。
―結成当初だったら書けなかった曲だと思いますか?
柳田:そうですね。「世界なんてくそくらえ」とか「どうでもいいわ」と思ってましたから(笑)。
―(笑)。本当にさまざまなアプローチの曲が入っているアルバムですが、それは意識したんでしょうか?
柳田:例えばロックチューンを作ろうと思えば比較的簡単に作れると思うんですが、新録曲ではなるべく挑戦したかったんですよね。いろんなアレンジャーさんやプロデューサーさんと一緒に作品を作れるチャンスがあるんだったら、自分の知らない世界に飛び込んで、いろいろな音楽のエッセンスを吸収したかった。亀田(誠治)さんやYaffleさん、村山☆潤さんといったいつかご一緒したかった人と新たにご一緒できて、夢が叶いまくったアルバムだなって思います。次のアルバムではもっとチャレンジしたい気持ちが増すと思うんですよ。だから今のうちから、「次はこういう人とやりたい」とか、例えば「こういう海外のアーティストと一緒に曲が作りたい」とか考えてます。その次の夢を叶えるためにも、このテンションの高い曲たちが詰まったアルバムがたくさんの人に響いてくれたら嬉しいですね。
―先ほど黒川さんが「歌が好き」と言っていたことにも繋がりますが、バンドサウンドにこだわらず、自由に音楽を探求しているムードが溢れていますよね。
柳田:黒川も相当器が広いと思うんですよね。これだけ打ち込みが多いのを「いいよ」って言ってくれるドラマーもなかなかいないと思うので、すごく感謝してます。音源ではなくライブで完結するというゴールをしっかり共有できているというのも大きいと思います。
黒川:デモは柳田が作っているので、「そのアプローチは違うよ」と思ったとしても、その意見は楽曲が呼ぶ方向に行かないと思うんです。ドラムはライブでたくさん叩けるので音源で叩かなくても全然気にならないですね。僕としてはライブで自分のドラムを表現するのが一番楽しいです。
―10月からはホールツアーが始まりますが、どんなツアーにしたいですか?
柳田:「ライブで完結する」っていうことを言いましたが、アルバムの曲に各々の楽器のアレンジを加わえていきたいと思ってるので、ワクワクすることでいっぱいですね。オープニングの画はなんとなく浮かんでて、「Into the deep 」でセッションみたいな感じで始まって、「Whatʼs a Pop?」で飛ばしまくって物語が展開していく。そんなことを今は考えてます。
桐木:いろいろなライブアレンジの可能性があるアルバムだと思うので、今までライブに来てくれてた人も初めて来た人も楽しませる自信がありますね。
吉田:ライブはレコーディングとはまた違う自分の中での答えを見つけつつ、来てくれるお客さんのことを第一に考えて、セトリなりアレンジなりを考えていきます。良いツアーにしたいですね。
<リリース情報>
神はサイコロを振らない
2nd Full Album『心海』
2023年9月27日リリース
<CD>全13曲収録
1. Into the deep (Instrumental)
2. Whats a Pop?
3. カラー・リリィの恋文
4. Division
5. 六畳の電波塔
6. 修羅の巷
7. 僕にあって君にないもの
8. スピリタス・レイク
9. 朝靄に溶ける
10. Popcorn 'n' Magic!
11. キラキラ
12. 夜間飛行
13. 告白
https://kamisai.lnk.to/2nd_alPR
<ライブ情報>
Extra Live 2023 ”Advance to「心海パラドックス」”
2023年9月23日(土)香川:festhalle
2023年9月26日(火)福岡:FUKUOKA BEAT STATION
PIA MUSIC COMPLEX 2023
2023年9月30日(土)新木場・若洲公園
Takao Rock! 2023 - 打狗祭 -
2023年10月7日(土)8(日)9(月)台湾・高雄流行音楽センター
3日間のうちいずれか1日に出演
Live Tour 2023「心海パラドックス」
2023年10月28日(土)大阪:オリックス劇場
2023年11月4日(土) 北海道:札幌道新ホール
2023年11月11日(土)福岡:福岡市民会館
2023年11月18日(土)宮城:仙台電力ホール
2023年11月23日(木・祝) 岡山:岡山芸術創造劇場ハレノワ
2023年11月25日(土)新潟:新潟市音楽文化会館
2023年12月1日(金) 愛知:日本特殊陶業市民会館フォレストホール
2023年12月17日(日) 東京:東京国際フォーラム ホールA