アジアのみならず欧米でも着実にファンベースを築き上げてきた彼らは、自身初となる南米公演も完売させるなど、さらなる成果を上げつつ前進を続けてきた。それでもなお制作からマネジメントまで自らの手で行なうエレファントジムは、アジアのインディーバンドの模範のような存在だ。4thアルバム『WORLD』を携えた計60公演にも及ぶ世界ツアー真っ最中の3人に、この10年の話を訊いた。
2018年のライブ映像
toeからの影響、キャリアのハイライト
―改めて皆さんを紹介したいので、結成当初の話から聞かせてください。2012年にバンドを始めるにあたって、ポストロックやマスロックをやろうと思ったのはなぜでしょう?
Tu:ドラムの僕とギターのTellは高校の軽音楽部で出会いました。Tellは僕の1つ上の先輩で、ベースのKTとTellは兄妹です。当時はそれぞれ別の友達とバンドを組んでいたのですが、高校時代にマスロックというジャンルに夢中になった私たちは意気投合し、後に台北の大学で日本のtoeをロールモデルとしたバンドをやることにしました。
―具体的にtoeのどんなところから影響を受けたのでしょうか?
Tu:toeの影響は大きいです。実は私たちは小さい頃からクラシック音楽を習ってきたという共通点がありますが、初めて聴いたtoeの音楽はそれまで接してきたどんなクラシックやポップミュージックとも違うリズムで驚きました。数えてみると5拍子だったんです。
KT:Spotifyがなかった当時の私たちがtoeに触れたきっかけは、Tellが持っていたtoeの曲「I Dance Alone」の音楽ファイルでした。音楽にはこんな遊び方があるんだ!と感動しました。そこからハマってYouTubeでライブ動画を観てみると、Tシャツにジーパンというカジュアルな格好に驚きました。ステージ上で着飾らずにありのままの自分を表現する姿勢がカッコよくて感銘を受けました。
―1stアルバム『角度 -Angle-』(2015年)は、toeの美濃隆章さんに直接連絡してミックスを依頼したそうですね。発表から9年が経ちますが、このアルバムについて今振り返ってみたとき、どんなことを思いますか?
Tell:改めて聴くと録音や自分のギターのチョーキングなどに粗さを感じる部分が多く、今の自分ならこうしないだろうと思う箇所もあります。ただ、この作品は勇敢だったと思う。何も分からないのに思い切って憧れの美濃さんにミックスを頼んだ勇気も誇りに思います。toeのDIY精神は今でも僕たちの活動に影響を与えているし、今でも共演するたびに色んな学びがあります。
―Elephant Gymはスリーピースのインストバンドとして結成され、2ndアルバム『Underwater』(2018年)からは日本と台湾のシンガー/ラッパーとのコラボが始まり、より複雑なプロダクションになっていきますね。
Tu:この10年で音楽ソフトを駆使するようになったり、演奏スキルも上がったり、楽曲の起承転結を心得たりと、色々な進歩があります。専門的な知識によってより複雑な音楽制作ができるようになりました。
2ndアルバム『Underwater』と3rdアルバム『Dreams』(2022年)
―確かに、最新アルバム『WORLD』(2023年)ではオーケストラやホーンセクションを導入しているように、作品を追うごとに音楽性の幅も広がったように思います。
Tu:はい。複雑になった分、丁寧にアレンジしているので、近年の作品はより面白いと思います。知識を増やしたあとに、何をすべきかが分かるんです。ただ、例えばライブで「Finger」や「Galaxy」といった初期の曲を演奏すると、この時期の直感的でエモーショナルな良さも実感します。技術の向上とともに、そういった要素を失っていないかは常に気にかけています。
「Galaxy」2019年のパフォーマンス映像
―10年間のターニングポイントはいつでしょう?
Tell:音楽で食べていくと決心した2016年ですね。その年のEP『工作 WORK』は、音楽が私たちの仕事であるという意味なんです。台湾では台北が音楽シーンの中心ですが、僕たちは大学卒業後に故郷の高雄に戻り、学生時代にライブで稼いだお金で自分たちのスタジオを建てるという夢を叶えました。
世界ツアーの収穫、相思相愛の来日公演
―20カ国以上の国と地域を巡る世界ツアーが1年近く続いていますが、そのように巨大なプロジェクトがあるにもかかわらず、インディペンデントでの活動を続けてきたのはなぜでしょうか?
Tell:台湾のポップスの多くは中華系のマーケットを強く意識しますが、僕たちは活動当初から、音楽という共通言語を通して世界中の人々との交流を夢見ていた。それが大手レコード会社に所属しないと決めた大きな理由の一つです。その理想が結実したのが今回の世界ツアーだと思います。また、様々な国や地域から文化的刺激をギフトとしていただいているから飽きることなく続けられているのだと思います。
Tu:活動当初から創作以外の事務的な仕事も含めて全て自ら関わってきたからこそ、自分たちが目指す世界観を作ってこれたと思います。
―世界ツアーで印象に残っていることはありますか。
KT:私はモンゴルですね。「Playtime Festival」(7月開催)でのパフォーマンスは成功して、ファンの方々も情熱的でしたし、雄大な自然にも驚かされました。
Tell:3月のメキシコ公演は初めての南米でしたが、チケットが完売して驚きました。言葉が通じない南米のファン500~600人が、僕たちの曲を自分の声が聴こえなくなるほどの大きな声で大合唱してくれました。
この投稿をInstagramで見る大象體操(Elephant Gym)(@elephant_gym_official)がシェアした投稿モンゴル「Playtime Festival」出演時の様子、写真2枚目では雄大な自然が広がる
―日本のバンドも台湾やアジアに行く機会が最近増えています。アジアの音楽シーンは、これからどのように連携していくのがよいと思いますか。
Tell:特に東アジアの台湾、日本、韓国はコロナ後により一層頻繁に交流を行っています。少し前に台湾のSunset Rollercoasterと韓国のHYUKOHのコラボアルバムが出ましたが、私たちも4thアルバム『WORLD』で日本の亀田誠治さんやTENDREさんをお招きしたりと、さらに交流を深めています。インターネットや交通の利便性のおかげで、みんなが本当に繋がっていると感じます。さらにアジアで重要なのが東南アジアです。ツアーでベトナム、フィリピン、インドネシアを訪れた際、それらの国々のバンドや音楽シーンがエネルギッシュなことに驚きました。
Tu:日本だけでなくアジアとの連携は、音楽シーンだけでなく、領域横断的にいろんなクリエイターや人々と協力することで、新しいものが生み出せるのではないかと思います。
Elephant GymとTENDREのコラボ曲「Feather」
―私の台湾の友人が投票のためだけに一時帰国したことがあって驚いたのですが、台湾の方々は政治への意識が高く、世界に目線が向いているように感じます。これにはどんな背景があるのでしょう?
Tell:台湾は複雑な歴史的・地政学的背景を持った小さな島だからこそ、外の世界への強い興味を持ち、海外経験を通じて自己のアイデンティティを形成する傾向があると思います。
それに、結局のところメディアから伝わる他国の情報は一面的です。実際に海外に足を運ぶことで他の地域のことがわかる。世界ツアーで様々な国や地域を回るなかで、同じ人間でも地域によって個人の自由を重視したり、集団行動に美学を見出したりと、価値観が異なることを肌で感じました。
また、台湾はまだまだ比較的物価が低いからこそ、若者が自分のやりたいことに挑戦する余裕があります。こういった様々な要因が組み合わさって、台湾の人たちの国際的な意識や政治への関心の高さに繋がっているのだろうと思います。
―Elephant GymやSunset Rollercoasterを始めとした台湾のバンドは欧米でも活躍していますが、欧米には台湾の音楽関係者のネットワークのようなものがあるのでしょうか?
Tell:Sunset Rollercoasterとはアメリカでのマネージャーが同じなんです。欧米でのコラボレーターや会場施設などに関する情報交換をしています。台湾のアーティストが世界で飛躍的に活躍するのはまだまだこれからだと思います。なので、バンド活動での経験は個人のものではなく、共通体験としてシェアしていく必要があると思います。もし台湾の若いバンドが日本やアメリカで演奏したいと思ったら僕たちに質問をしてくるでしょうし、立場が逆でも同じことをするはずです。僕たちは自分たちが知っていることや手伝えることは惜しみなく分かち合い、共に成長し合える交流を望んでいます。
2024年のパフォーマンス映像
―10月にはビルボードライブ横浜と朝霧JAMへの出演が決まっています。今回のツアーでの来日公演は1月・4月に続いて今年3度目ですが、これまでもチケットが完売したり、入場規制がかかったりと大盛況でした。特にビルボードライブでは今までのElephant Gymとは違った側面も観られるのではないでしょうか。
Tell:1回目、2回目を聴いて、3回目にも来てくれるファンもいると思います。なので、ビルボードライブでは普段あまり演奏しない作品をお届けしたいです。今回のビルボードライブ公演を「The Hidden World」と呼んでいるのはそのような意味が込められています。また、ビルボードライブでは台湾高雄市のブラスバンド、高雄市管樂團(KCWO)と一緒に演奏します。これはとてもレアなコラボレーションです。
この公演には僕の両親を招待しています。つまり、日本のビルボードライブ公演は親にも聴いてもらいたいほど力を入れて準備しているので、楽しみにしていてくださいね!
Elephant Gym ”The Hidden World” Billboard Live
2024年10月14日(月)ビルボードライブ横浜
時間:1st Stage 開場 15:30 開演 16:30 / 2nd Stage 開場 18:30 開演 19:30
料金:Service Area : ¥7,000~ / Casual Area : ¥6,500~
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「朝霧JAM'24 (Its a beautiful day~Camp in ASAGIRI JAM'24)」
2024年10月12日(土)・13日(日)富士山麓 朝霧アリーナ
※Elephant Gymは10月13日出演
公式サイト:https://asagirijam.jp
【アジア勢の公演が目白押し、ビルボードライブ注目公演】
YONLAPA
at Billboard Live YOKOHAMA 2024
タイの「今」を象徴するメロウな4人組
タイ第二の都市チェンマイ出身の4人組インディポップ・バンド、YONLAPAがビルボードライブに初登場を果たす。ボーカルのNoinaがシンガー・ソングライターとして活動を始め、その後メンバーが加わりバンド形態に。コロナ禍以降におけるタイのインディ・シーンで頭角を現し、2023年に1stアルバム『LINGERING GLOAMING』をリリース。過去のジャパン・ツアーではnever young beachやDYGL、STUTSやDENIMS、MONO NO AWAREらと共演。2024年に青山月見ル君想フで行われた東京公演2daysをソールドアウトさせるなど、日本国内での確かな人気を証明してみせた。アジア各国でユニークなインディ音楽が注目を集めるなか、新鋭4人組の貴重なクラブ公演をお見逃しなく。
2024年10月23日(水)ビルボードライブ横浜
時間:1st Stage 開場 16:30 開演 17:30 / 2nd Stage 開場 19:30 開演 20:30
料金:Service Area : ¥6,900~ / Casual Area : ¥6,400~
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MONO NO AWARE
Billboard Live Tour 2024
勢いに乗る4人組バンドが特別編成で登場
玉置周啓(Vo, Gt)、加藤成順(Gt)、竹田綾子(Ba)、柳澤豊(Dr)からなる、MONO NO AWAREの東阪ビルボードライブ・ツアーが実現。今年6月にはニューアルバム『ザ・ビュッフェ』を発表し、ポップの土俵にいながらも多彩なバックグラウンドを匂わすサウンド、期待を裏切るメロディライン、言葉遊びに長けた歌詞を紡ぎ、ジャンルの枠に囚われない自由な音を奏でる彼ら。本公演はサポートに清水直哉を迎えてピアノなどの鍵盤楽器を入れた特別編成でのパフォーマンスとなる。ライブバンドとして進化し続ける4人組の貴重なクラブ公演は見逃せない。
2024年10月22日(火)ビルボードライブ東京
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2024年10月24日(木)ビルボードライブ大阪
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時間:1st Stage 開場 17:00 開演 18:00 / 2nd Stage 開場 20:00 開演 21:00
料金:Service Area : ¥6,000~ / Casual Area : ¥5,500~
ADOY×Whyte
at Billboard Live YOKOHAMA 2024
ADOY
Whyte
アジアの今を担う2組のスプリット公演
アジアの音楽シーンを牽引する気鋭の2組が一挙来日。韓国の4人組シンセポップ・バンド、ADOYはK-POPとは一線を画す「K-INDIE」の活況を象徴する存在。80年代のエッセンスを感じさせるメロウな浮遊感を漂わせつつ、幅広いリスナーの耳を捉える洗練されたポップサウンドが支持を集めている。一方、台湾の新星R&Bシンガー、Whyte(壞特 ?te)はジャズやソウルをルーツに持ち、同じく台湾出身のElephant Gymによる4thアルバム『WORLD』への参加も記憶に新しい。スモーキーで温かい歌声と心地よいサウンドの組み合わせは、親密なクラブ空間に映えること間違いなし。
※1stステージ:Whyte/2ndステージ:ADOYが出演
2024年10月28日(月)ビルボードライブ横浜
時間:1st Stage 開場 16:30 開演 17:30 / 2nd Stage 開場 19:30 開演 20:30
料金:Service Area : ¥8,000~ / Casual Area : ¥7,500~
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