プロデューサーでありDJであるgrooveman Spotのニューアルバムが先日リリースされた。通算8枚目にして13年ぶりのボーカルメインアルバムであり、最強のタッグ、トークボクサーのKzyboostを中心にラッパーのDaichi Yamamotoや、Aki EllaやMoMoといった実力派シンガーが参加した意欲作。
そんなgrooveman spotとジャジースポートを主宰するプロデューサー、Masaya Fantasistaの対談が実現した。新作についてはもちろん、30年来の親交をもつ2人がルーツにある90年代ヒップホップと現代の音楽シーンにもたらすグルーブの秘密や、”ゆずれない”スタンスについて語りあかした。

Masaya Fantasista(以下、マサヤ):『Lie-Sense』を聴いてみて、アルバムを通しての統一感があって、自分のカラーみたいなものが「はっきり出てるな」というのは感じたのね。ヒップホップから出てきた DJ の中では日本でおそらく一番器用で、何でも作れる人があえてここまでR&B というか、スロージャムみたいなところにフォーカスしてやってる。それは自分のやることは「これなんだ」っていう強い何かがあったからなのかな。

grooveman Spot(以下、グルーブマン):最近、ここ一番で、歌で心を動かされるんですよね。
よくゴスペルの YouTube とか見て泣いたりとかしてるんですけど(笑)、 アレサ・フランクリン聴いて泣いたりとか。もちろん歌にフォーカスしている部分はここ何年かあって、日本で活動されている人もよくチェックしています。そんな歌をメインに、「近年のLAのサウンドだ」とおもってる自分の勝手なイメージが全体的に落とし込まれている。それで「ああいう雰囲気になってるのかな」と思うんですよね。LAと歌、その融合かな。

Get Off (feat. Daichi Yamamoto & Kzyboost)

マサヤ: LAなんだ。
もともとどんな音楽をリリースしていても、コウちゃんは本当にそういうのが好きで、ジャム&ルイスを崇拝してたりとか、僕は知っているから「ここが好きなんだな」というのは感じていたんだけど。『Paradox』以降ビートテープシリーズを出してたよね。わりかしちょっとトラック寄りの表現をしていた中で、ここ最近は歌の感じになってきていて、DJ しているフィールドを見てても、そういうところが多くなってきてる気がする。やっぱり好きってことなのかな。

グルーブマン: 一番かって言われると難しいんですけど、暗黒なテクノも好きだし、暗いテクノが好きな人は、R&Bとか、歌が好きじゃないという誤解というか偏見があるじゃないですか。暗い音楽があるから、明るい音楽が存在するわけで、もとは一緒ですよね。
僕みたいな人間は「たくさん世の中にいるだろうな」と思うし、実は気づかないところでそういう暗黒面も入れてるんですよ。1曲に対してちょっとずつ。1%とか。例えば変な音を入れてみるとか。

マサヤ:びっくり系だね!

グルーブマン:そう。びっくり!そういうのって僕の中で大事で、きれいすぎるのも好きじゃないし、光と闇を混ぜたのが好きだし自分らしいとおもう。


マサヤ:うん。歌ものだけじゃなくて、歌ものの中にも『Paradox』の中で表現していた暗黒の要素も散りばめているということだよね。

grooveman Spot 4th Album "PARADOX"

グルーブマン: そうです。常に考えていますね。こんな綺麗な音色なのにベースがえぐいとかキックがでかいとか。

マサヤ:(笑)。
ビートはそんな感じだよね。

グルーブマン:そういう自分で「いい」と思っているものが、自分のサウンドになるんだとしたらそこは「信じてやりたいかな」と思うんですよね。

マサヤ: 『Paradox』がいまだに俺、大好きでさ。ドツボなんだよね。

グルーブマン:あれを超えられないんですよ。

マサヤ:やっぱり?(笑)

グルーブマン:なんでかっていうと3.11(東日本大震災)の頃、僕はそれまで11年も東京にいて、地元の仙台に帰ったんですけど、あの時いろんなものがフラットになってました。
すごくピュアに音楽を吸収して「やりたいこと全部やってみよう」という時期だったんです。それが全部、アルバムで表現できたんですよ。人生の中でもああいうタイミングってなかなかなくて、そう何回もあるわけじゃない。あれを今やろうと思ってもできないんですよ。

grooveman Spotが語る、90年代をルーツにした低音ドラムサウンドの美学


マサヤ:あの時(東日本大震災の当時)ってやっぱり悩んでてさ。「東京はやっぱり無理かも」って精神的にも混沌としていたように見えた。ストレスもいっぱい抱えてた、と思うんだよね。それがリアルに落とし込まれてて、「ああいう形になったのかな」と思ってて。仙台に戻ってもう12年か。今できないというのは逆にすごく充実していて、愛に溢れていて、周りを信じて仲間を信じて、みたいなマインドになれてるのかなって勝手に思ってはいた。

グルーブマン:それも絶対ありますよね。絶対。ストレスがない生き方ってどうしたらいいんだろうって結構考えてるんで、「絶対ない」とか100%無理なんですけど。でも回避したり逃げたりすることって「別に悪いことじゃない」と思っていて、短い人生の中で嫌なことは誰もやりたくないじゃないですか。やりたくなければ、やんなきゃいいし。いま世の中に得意なことを伸ばす考え方ってあるじゃないですか。僕はそっちの考え方がすごく好きなので、たぶん自分なりにストレスを抱えず生きていく上で「どうしよう」という中で生まれている音楽ですよね。だからちょっとチルな柔らかな感じだったりもあるし、それだけじゃない強い思い、「この野郎」みたいな思いも(笑)、常にあるんでそういうのも入ってるって事ですよね。

マサヤ:じゃあファットなドラムにその辺が入っていると考えていいのかな。

グルーブマン:(笑)。そうっすよね。ヒップホップを10代から聴いてる人間として、やっぱ何に打たれたかと言ったら、ああいう低音のドラムサウンドだったりする。若い頃はそれに衝撃を受けたんで、いつまでたってもそこは治らないというか。変わらないですね。

マサヤ: 譲れないよね(笑)。 

グルーブマン: 昨日も DJ WATARAIさんと話していて結局、ドラムの話しかしてなかったんですよ(笑)。

マサヤ: 今回の制作にあたって機材とかはどんな環境だったの?

グルーブマン:基本メインはPro Toolsを使っていて、サブでLogicそれとMaschine。 あとは昔と変わらないですけど、シンセサイザーだったり。

マサヤ:MPCは使ってないの?

グルーブマン:あんまり使ってないかな。もう使いたいドラムとかは素材をサンプリングしてアーカイブしてあります。それをマシンで動かすみたいな感じで、時間を短縮しているんですよね。まぁ、マサヤさんは分かると思うんだけど、やっぱり長年ハードにこだわっていたから。高いヴィンテージ・シンセを買ったりとか。

マサヤ:全部、アナログ・シンセにこだわったりね(笑)。MIDIでやったの?

グルーブマン:MIDIですね。 僕は頑張って鍵盤弾いてますけど、楽譜も分からなければ (コードの)A も C も分からないんで、MIDIで作曲することは多いですね。昔ならもっととんでもないやり方もしてましたけど、デジタルでMIDIを動かすことの便利さを知ったのは、ここ5年ぐらいかな。だいぶ重宝してますし出来ること、出来ないことがそこで分かってきますし。

マサヤ:ドラムなんかは、そういう自分のライブラリーのサンプリングが中心なのは分かるんだけど、それ以外の要素でサンプリング素材の比重はぐっと減ったのかな。

グルーブマン:ほぼ全曲、サンプリング素材は使用してますよ。

マサヤ:使っているんだね。

グルーブマン:昔と出し方は違いますよ。分かりやすくいうと80、90年代に DJ プレミアがやったような、素材を細かくして組み替えるような手法です。それの現代版だと思ってます。そうなるとアイデアですよね。アカペラだってドラムだって抽出できちゃいますからね。すごい世の中ですよ。

grooveman Spotが語る、90年代をルーツにした低音ドラムサウンドの美学


マサヤ:サンプリングはしているけれど、権利問題に引っかかることはしていないし、面白い音を生み出すために加工している感じだもんね。昔だとさ、サンプリング素材がある上に音を重ねていって、最後にサンプリング素材を取ったりしてたよね。今回はサンプリング素材を足したいなと思って、足しているのか。やっぱりサンプリング素材ありきで曲作りがスタートしているのか、どっちなんだろう。

グルーブマン:そこはサンプリング素材ありき、で。

マサヤ:そうなんだ。いいね。やっぱりヒップホップ・プロデューサーだね。

グルーブマン:やっぱりサンプリングを長くやってると、サンプリングがスタートというのは抜けないですね。普段、聴いてる音楽だって「あ、この曲のこの部分リフいいな」とか、「このイントロのこういう感じ取り入れようかな」とか、常にそういうインスピレーションから始まるんで。僕はゼロから作るような、楽譜と見つめあって、ピアノから作曲するとかそういうのじゃまったくないんで、常にサンプリングの脳みそが動いてる感じですね。

マサヤ: 自分で弾くところから始まって、でもそのネタは脳内サンプリングだったり、オマージュ的なところから始まったり、ってことだよね。

グルーブマン:そうですね。基本そうですね。やっぱりヒップホップの感じですよね。

マサヤ:これだけスイートな作品になっていてもビートの際立ちとか、ベースの際立ちとか、シャカシャカいってるところにもプライドを強く感じたね。

グルーブマン:自分の感覚っすよね。こういうのって今まであるからやっても面白くないから、こういう感じにこれを足したら「今までにないよね」とかが一番好きですね。要はシグネチャーじゃないけど、自分の判子みたいに「これグルスポっぽいね」みたいに言われたら嬉しいなって(笑)。そこを意識してますね。

マサヤ: うん。そのこだわりを感じたね。グルスポ節っていうか。

グルーブマン:そこを分かってもらったら、めちゃくちゃ嬉しいっすね。だから人に合わせたりとかするのは、あまり必要ないのかもしれない。そういった意味で自分の自主レーベルの名前、スコトーマ・ミュージックもスコトーマって医学用語で「盲点」って意味なんですけど、心理学的に言えば、人間は興味を持ってるものしか見えてないんですよね。他は知識もなければ興味もない。その固定されたイメージとかも、邪魔をしてるらしいんですよ。ありそうだけど、この感じはあんまりないよね、みたいな。それ重要だと思うんですよね。そういうマイノリティマインドっていうかな。もっと必要ですよ。

マサヤ:うん。よく分かりましたね。「意識はしてない」ってことだよね。

グルーブマン:うん。自然と人がそんなにやってないところに行くっていうか。DJだって、みんながかけてる曲をちょっとかけたくない感じってあるじゃないですか(笑)。

マサヤ: 俺は意識してないんだけどね。「俺が好きなものは流行らないんだな」っていうのがね(笑)。ポジティブに、なんだけどね。そういうポジティブな諦めを常に持っている。

グルーブマン:それは僕もいまだにありますね。「これめちゃくちゃポップにできちゃったな」って思ってる曲でも、いざポップの世界に出してみるとスーパー地味すぎて、俺がポップだと思ってたもの「全然ポップじゃないんだ」っていう(笑)。それってマサヤさんの自分が好きなものが全然受けないっていうのと一緒で。自分が好きな音楽って「全然 根本的に違うんだな」と思って。逆に「そこがいいんだ」と思うんですけど。今回の『Lie-Sense』は一番自分の中で、みんなが聴きやすいと思うんですけどね。

grooveman Spotが語る、90年代をルーツにした低音ドラムサウンドの美学


マサヤ:そう思うよ。ポップスっていうのも音のジャンルじゃないと思っていて、ポピュラリティを獲得した音楽がポップスだから、「これがポップスになればいいな」って俺は思った。

グルーブマン:それは本当に常に思っていて、直訳すれば「一般的な」って意味もあるじゃないですか。リスナーの半分は「大衆向けの音楽」っていうような意識もありますよね。アメリカでポップスって言われるものが、日本の中のポップスではないわけだし、日本には独特のポップスの文化があるし、ただ共通して言えるのはボーカルが聴きやすくなければいけないっていうのはあると思いますよね。多分。

マサヤ:そこがポピュラリティだよね。

グルーブマン:ですよね。僕はあんまりボーカルが大きすぎる曲は得意じゃなくて、バランスよく音が出てないと。そこはやっぱりダンスミュージックが好きなんで。

マサヤ:ポップスになりうる可能性のあるサウンドなんだけど、日本のポップスにはないドラムのサウンドだったり、鳴りだったり、ベースだったりとかそういうところに意地っていうか、プライドだったり、魂が込められてるなって思った。「これがポップスだって評価される水準まで 日本の音楽も行ったらいいな」って思ったんだよね。こんなにこだわったドラムサウンドで音楽を作る人って、まぁいない。聴いていて普通の人は分からないだろうけど、やっぱり DJ WATARAIさんは反応しちゃうよね。よぅし!コウちゃんがやってくれたぜって。

グルーブマン:そうですよね。意識としてはすごく重要で、折れないとこですよね。

マサヤ:だからポップスへの挑戦状じゃないけど、チャレンジみたいなのは今まで以上に感じたかな。ポップスしか知らない人たちに「このビートをくらえ!」みたいな(笑)。普通の人たちはただ「かっこいいな」で良いわけだから。ワタさんとかだったら、このビートのオリジナルとかを想像して楽しむんだろうけど。そもそもこうやって音楽を発表してDJ をしたり、人と繋がってること。自分のアーティスト活動で表現したいことや求めていることは、どこにあるのかな。この先のビジョンも含めて自分の存在価値を「どう置いていくか」みたいな。

グルーブマン:本当に欲だらけですね。欲がなくなったら「人間じゃない」と思ってるんですけど(笑)。欲というか、まだ成長したいですよね。音楽家としてもだし、経験としてもだし。だから僕は全然まだ死ねないし、もっともっとやりたいことを1つずつ消化していきたい。これからの展望というのはあるようでないというか、常に同じ感覚なんです。
マサヤ:自分が成長したいっていうことか。

グルーブマン:常にそうですね。終わりもないし完璧もないし、常にサバイバルって言っちゃったら恰好つけすぎですけど、自分と戦っていかないと。納得するためにやってるわけじゃないですよね。もっと感じたいですよね。「うわっ」と。「良いのできた」って毎回、自分で思えるようにしたい。自分の音楽が一番初めに聞きたくなるようになりたいじゃないですか、やっぱり。だからまだ足んないっすね。他の人の音楽から聴いちゃいますね。

grooveman Spotが語る、90年代をルーツにした低音ドラムサウンドの美学


マサヤ:自分の音楽を通して、世の中に対して何かを伝えたいとか還元したい、とか「世の中をこうして行きたくて音楽で表現してる」というか、そういう目線の話を訊けたらいいな。

グルーブマン:それはあります。ちょっとありきたりかもしれませんけど、「今日もアルバム 聞いて元気出た」って病院で点滴を打ってる人のストーリーとかが毎回あるんですよ。そういうのを見ると、その人のために音楽で「少しでも癒されたりしてもらえたら」とかってあるじゃないですか。自分の今やっている音楽が「人の為になってる」ということが一番大事なんで、むしろそこしかないですね。自分が辛い時に聴いて、嫌なこと忘れたってこともありましたし、結構「そこがすべてかな」と思います。

マサヤ:自分の音楽が少しでも誰かのプラスになるって事だよね。

グルーブマン:世の中を変えるとか、そんな大きい目的はなく1人でもいいからってところが僕は大事ですね。自分が音楽に救われてるので、それはそうしたいですよね。泣きますよ。 僕は感情が動かされちゃって、いまだに泣くんで。自分の音楽作りながらKzyboost君のリードシンセで泣いちゃってますからね(笑)。なんだこれって。

マサヤ:俺は「そっちが先じゃない感じがいい」と思っていて、自分がもっと成長したい、自分が真っ先に聴く音楽を作りたいとかが、ベースにあった上でそれで救われる人がいれば いいなっていう。

グルーブマン:救うための音楽じゃないっていうね。自分がしていることにみんなが共感してくれると良いですよね。そっちの方なんだろうなって。別に自分が意識して作っているわけではない。「いいな」と思ってやっているって。

マサヤ:これからも期待してます。ありがとうございました。

グルーブマン:ありがとうございました。

grooveman spot
DJ / ビートメイカー / プロデューサー。1993年からのクラブDJとしてヒップホップ、ソウル、ファンク、ジャズ、ハウス、テクノ、和物、シティポップをターンテーブルから発信し、自身の作品にも落とし込んでいる。2012年に東日本大震災を機に出身地である仙台に居を移した。grooveman spot以外にも、MC U-ZipplainとのユニットENBULLや、sauce81とのユニット77 KARAT GOLDとしても活動している。2020年4月自主レーベル「Scotoma Music」を立ち上げた。最新作は『Lie-Sense』。

Masaya Fantasista
Jazzy Sport主宰。プロデューサーやDJ、レーベルのA&Rとして活動する一方、サッカーやフットサル、山岳スポーツシーンにおいてスポーツと音楽の接点を拡げるクリエイティブアスリートとして活動してきた。映像作家としての顔ももち、LVMHグループ等、クライアントワークも多い。最近では長野県小県郡長和町に移住し、非営利団体「Jazzy dog Life」として保護犬を中心にしたボランティア活動やドッグパーク運営なども行う。
https://www.jazzysport.com/
https://www.jazzydog-japan.com/

grooveman Spotが語る、90年代をルーツにした低音ドラムサウンドの美学

Artist : grooveman Spot
Title : Lie-Sense
Lebal : Scotoma Music
Release Date : 2023.7.31