【写真を見る】50組以上が出演した「THE HOPE」ライブ写真
ジャパニーズマゲニーズのステージに紅桜が現れ、喝采を浴びる。MCでは国への強い批判が語られ、その盛り上がりのまま舐達麻が登場。「OUTLAW」でAwichが出現しメロウなフックを歌う。長い夏を超えようやく吹き始めた秋風がなびく中、海沿いのお台場会場では夕暮れ前の心地よい空気に包まれ、皆が思い思いにヒップホップを楽しんでいる――。多くの名場面があった中で、この15時台のスロットは今回のフェスのハイライトだったのではないか。

ジャパニーズマゲニーズ+紅桜(Photo by Yusuke Baba(Beyond the Lenz))

舐達麻(Photo by Yusuke Oishi (MARCOMONK))

Awich(Photo by Yusuke Baba(Beyond the Lenz))
昨年の代々木体育館からお台場に会場を移し二回目の開催となったTHE HOPEは、一日で三万人の来場者を集め、大盛況に終わった。これだけヒップホップのフェス/イベントが乱立するとそれぞれ独自のカラーが見えてくるし、背景にある思想の違いもうっすらと伝わってくる。会場の中や帰路でも、いわゆる二大フェスと称されつつあるPOP YOURSとの比較を話す声がちらほら聞こえてきた。出演者が多く重複している両フェスながら、ここまでカラーの違いが出るのも面白い。
THE HOPEは、ラインナップからも分かる通り、AK-69が中心となって牽引する東海ヒップホップの文脈が色濃い。彼は昨年、このフェス名の由来を「(東海地方のレジェンドである)TOKONA-XはHOPEの煙草が好きだった。今でも俺は彼の墓にHOPEを持っていく」と明かしていた。

ANARCHY(Photo by Yusuke Oishi (MARCOMONK))

AK-69(Photo by Daiki Miura)
ミックステープ的な「THE HOPE」のパフォーマンス形式
出演者だけではなく、パフォーマンスの形式も独特だ。ステージに次から次へラッパーが現れては退いていくのだが、一組の持ち時間が10分~15分と短く、単日のフェスとは思えないボリュームで60組以上のアーティストが凝縮されている。思想やテーマをコンセプチュアルに打ち出し、オルタナティブなラッパーや女性ラッパーも積極的に起用し緻密な施策を打ち出してくるPOP YOURSの傾向がアルバム的だとしたら、THE HOPEはミックステープ的と言えるかもしれない。その分、前者の方がヒップホップの多様性を感じられるし、後者の方がよりヒップホップのリアルなコア部分を体感できる。
だからこそ、この日ならではのTHE HOPEらしい特徴も見られた。まず一つ目は歴史へのまなざし。ヒップホップ生誕50年という節目についてMCで触れるラッパーが多くいた。ジャパニーズマゲニーズは50周年を祝ったうえで、「皆がいるから文化になりました、カルチャーになりました。このままヒップホップ続けていけるやつ両手見せて!」と言い、「俺らはヒップホップをリスペクトしてるんで、こういう音で歌ったらどうなるかと思って持ってきました。

PUNPEE(Photo by Yusuke Oishi (MARCOMONK))
二つ目は、異色のコラボ/あるいはサプライズの演出。とにかく追いきれないくらいに次々と全国津々浦々、広い世代のラッパーが出てくるのがTHE HOPEの魅力の一つだが、ゆえにこの場でしか実現しない共演も見られる。DJ RYOWがプレイしたTOKONA-X参加の「WHO ARE U?」では名古屋の”E”qual,AK-69に加えて紅桜までもが絡むステージが実現。そして、すっかりSOCKS & DJ RYOWの代表曲となりつつある「Osanpo」ではなんとR-指定と般若が現れ、さすがのスキルを見せつけた。DJ TATSUKIは「TOKYO KIDS」でMony HorseとIOだけでなく、Zeebraと般若もフィーチャー。近年の日本語ラップ有数の名曲をレジェンドバージョンで届けた。延々と続く濃厚なゲスト陣を見ていると、今のヒップホップシーンが有するタレントの豊富さに驚かざるを得ない。
また、ちゃんみなについては本フェスへの出演自体がサプライズだったと言えるだろう。元々ラップバトル出身ながら、近年は「あいつはヒップホップじゃないヒップホップとか聞き飽きたよDoctor」「ヒップホップとかヒットソングより表現したかった」(「Im a Pop」より)と歌い、あえてヒップホップシーンから距離を置いているような印象があった。

RIEHATA with Rht.(Photo by Yusuke Kitamura)

ちゃんみな(Photo by Yusuke Oishi (MARCOMONK))
サウンドの傾向
サウンドの傾向についても触れたい。現在のトレンドを如実に反映し、この日は軽快でダンサブルなビートが終始多かった。どのラッパーも一曲はジャージー・クラブやジャージー・ドリル、あるいはトランシ―な楽曲で会場を揺らしていたのではないだろうか。デイタイムはralphの「DOSHABURI」とLANAの各曲、日が落ちてからは¥ellow BucksがC.O.S.A.を呼び披露した「What?」がジャージー系ビートによる最大の熱気だったように思う。この立地ならではの海風と軽やかなリズムの相性が非常に良く、ヒップホップフェスながら、どこか重くなりすぎない清涼感が漂う。引っ張るような低音の鳴りが軽減され細かく刻まれるようになったことで、他ジャンルのリスナーも聴きやすくなっているようにも感じる。

ralph(Photo by Daiki Miura)

LANA(Photo by Masanori Naruse)
楽曲面では、BAD HOPの素晴らしいステージにも触れたい。masasucks、伊澤一葉(ともにthe HIATUS)とKenken、金子ノブアキ(ともにRIZE)というフジロックで好評だったバンドセット編成は、ヘッドライナーにふさわしいカラフルな演奏効果を果たしていた。一日中DJセットが続いた中だからこそ、最後にバンドで変化をつける工夫が効く。特に、ギターによってBAD HOPのエモラップとしての側面がより際立ち、楽曲の情緒的な表情を引き立てることに成功していた。

BAD HOP(Photo by Yusuke Kitamura)
会場の空気を掌握し魅了したBAD HOPの演奏が終わると同時に、出演キャンセルとなっていた百足&韻マンの曲「君のまま」が流れ、花火が打ち上がりフェスは幕を閉じた。近年のヒップホップ・ゲームにおいて、大規模フェスが与える影響力はますます強まっている。多くの場でヘッドライナーを務めてきたBAD HOPが不在になることで、来年以降はややゲームの様相が変化するに違いない。恐らく、東海ヒップホップシーンとAwich~YENTOWN率いるシーンを二つの筆頭としながら、ralphやTohjiといった若手も一気にヘッドライナー近辺に抜擢されスロットを搔き乱す可能性がある。その中で、THE HOPEはコアの側からヒップホップを見つめ、内側を起点に定義・刷新していく態度を今後も採っていくだろう。だからこそポリティカルな面でのアプローチにも期待感が高まるし、生々しくリアリティを帯びたフェスとして、早くも来年が待ち遠しい。
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