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ーミュージシャンを集めてセッションをやるというアイデアは、「Already Over」が完成してから思いついたことですか?
その通りだよ。「Already Over」は僕がすべての楽器をプレイして、レコーディングをした。これを世界中のみんなとどう共有しようかと考えた時に、ベストのやり方はおそらくライブで披露することだろうなとは思ったんだ。でも今ツアーをやりたいとは思わないし、そのためにバンドのメンバーを集めたいとも思わなかった。それで思い浮かんだアイデアが、いくつかの都市に行って、地元のアーティストを集めたバンドを作るということだった。しかも有名なバンドのギタリストとかドラマーとかじゃなく、普通にギタリスト、ドラマーとして知られてる人たちとやりたかった。このセッションは5つの都市でやろうと考えていて、オーストラリアのシドニーでやったセッションはすでに公開中で、次はアメリカのロサンゼルスを予定してる(注:この取材の翌日に公開となった)。
ーコロナ禍では音楽を絡めたNFTやAIを使った音楽制作など、最新テクノロジーを使った音楽のあり方を模索していましたが、今年4月にインタビューをした時は、自分自身の中から生まれてくる音楽が面白くなってきたと語っていましたよね。
どちらも追求したいんだけどね。
ー「Already Over」はまさに自分自身の中から生まれてくる音楽という感じですが。
「Already Over」がああいうサウンドになったのは、ギターを弾きながら歌ってる時にインスピレーションが降りてきたからなんだ。僕はそうやって曲を作ることもあれば、トラック作りから始めることもある。僕はトラック作りの方が多いんだけど、この曲も含めて何曲かはトラック作りとかレコーディングをする前に降りてきたんだ。
ー曲が生まれた時はどのような雰囲気でした?
何も特別なものはないよ(笑)。ただ壁とか天井を見つめてただけだね。それで実際に曲が出来た時に、自分が好きなものって、実は昔の南カリフォルニアのパンクだってことに気がついたんだ。キッズの時によくラジオでかかってたような曲さ。ブリンク182、ラグワゴン、グリーン・デイ、オフスプリング、NOFXといったバンドだよ。
ーこの曲にはリンキン・パークのDNAも入っていると思いました。
僕もそう思うよ。でもそこには『メテオラ』の20周年記念アルバムからの影響があるかもしれない。この記念盤をまとめるのに、昔のデモとかをたくさん聴いたからね。そこには少しノスタルジーがあるんだけど、その気持ちがこの曲を生み出して、こういうサウンドになったわけではないと思うよ。
ーこの曲はある特別なギターから生まれたらしいですね。
特別なギターではないんだけど、フェンダー・カスタムショップのストラトキャスターだ。白いストラトで、僕が弾いてるのを見たことがあるはずだ。
ーこのギターから生まれた名曲はあります?
リンキン・パークの『Minutes to Midnight』、『A Thousand Suns』ではけっこう使ってるよ。それ以来、どのアルバムでもこのギターは使ってる。『One More Light』でも使ってるんだ。ギターは他にもいろいろ持ってるんだけど、このギターで作った曲は多いね。このギターには良いエネルギーがあるんだ。「Bleed It Out」、「What Ive Done」、「One More Light」、「Nobody Can Save Me」もこのギターから生まれたんだ。
ー「Already Over」のセッションは第1弾として、まずシドニーでやったものが公開されました。セッションに参加したミュージシャンは元々知り合いだったのですか?
これはセッション全体について言えるんだけど、全員、会ったことがない人たちなんだ。オンラインで知り合った人もいれば、他の人から推薦された人もいる。例えば、日本でやるセッションの場合、僕から日本のレーベルのチームにリクエストして、人を探してもらって、僕がその中から選んで決めてる。これは一回限りのセッションでやるところが面白いし、チャレンジなわけだから、あまりハードルを高くしてないんだ。僕はこのセッションを普通にセッションとして楽しんでるし、ステジオに集まってみんなで音を出す以上のことは期待していない。

Photo by Toshiya Ohno
ーシドニーのセッションでは、「Already Over」をプレイした後に、リンキン・パークの「Bleed It Out」をプレイしましたよね。あれは元々予定していたものですか? それともその場で思いついたのですか?
アイデアとして、メンバーにはもう一つチャレンジをしてほしかったんだ。みんなあの曲を知ってたから、2~3テイクで撮影が終わったよ。早かったね。「Already Over」よりはゆるい感じだったかな。
ーシドニーとロサンゼルスでやってみて、ローカルごとの違いは感じました?
スゴく感じたね。土地ごとにカルチャーが違うから当然なんだけど。育った時に聴いた音楽は演奏に影響するんだ。例えば、ロサンゼルスは昔ほどロックの街じゃなくなったよね。今はいろいろなものがミックスして、音楽のメルティングポットになってる。
ー日本でのセッションはいつやるんですか?
明日なんだ。他の都市よりも参加するアーティストの数は少なくて、一人ひとりがテクニカルなんだ。僕よりもテクニカルだから、そこは大いに活かしたいね。他の都市だと、メンバーの中に1~2人だけスゴくテクニカルなメンバーがいる一方で、僕みたいに音楽を感覚でとらえるタイプがいることが多い。でも日本のセッションのメンバーは全員がテクニカルで、同時に感覚も鋭いんだ。特別な機会をもらえたと思ってるよ。この前もある人と、異なるカルチャーの異なるタイプのミュージシャンについて、面白い話をしたんだ。僕が聴いて育った音楽はヒップホップ、ファンク、ソウル、ロックンロールになるから、僕がやるとビートが後に来る感覚になるし、ソウルフルなグルーヴが得意となる。でも他のミュージシャンだと、頭からきちんとビートに合わせたり、ビートに食い気味になったりするんだ。フガジとかを聴くと、ビートが食いまくってるよね。
ーEPの『The Crimson Chapter』には8トラックが収録されていて、「Already Over」は原曲だけでなく、リミックスが5バージョンもありますよね。フォート・マイナー名義のリミックスもありますが、フォート・マイナーはアルバムを出さないのですか? 『The Rising Tide』から18年経ちましたよね。
確かにね。2015年に「Welcome」という新曲を1曲出したきりだからね。今後どうなるかはわからないよ。今の僕はいろんな音楽の実験にトライしてるし、新しい人たちにどんどん会って、新しいクリエイティブを進めて、いろいろなことを学んでる。去年の終わりには僕の中のアーティスト・モードが復活したから、自分の作品作りをやってたんだ。今はそこからの目線で、この先どこに行くのかを楽しみにしてるところだ。
ーリミックスの中では、「Already Over (Part 2)」がハードで、ビートに中毒性があってカッコ良かったですね。
ありがとう! あのリミックスはスゴく硬質で機械的だよね。まるでインダストリアル・ミュージックみたいだ。昔、ミニストリー、スキニー・パピー、ナイン・インチ・ネイルズが好きだったんだよ。
ー今取り組んでいることについても教えてください。
今僕がツアーに出たくない理由として、スタジオ制作がスゴく楽しいからというのがある。一日のほとんどはスタジオにいて、新しい音楽を作ってるんだ。これがどう形になっていくのかは、これからのお楽しみだね。どんどん発表していけたらと思うよ。今は『The Crimson Chapter』の反応が素晴らしいから、そこから何がどうつながっていくのか、見守っていきたいところだ。明日は東京のセッションをやるんだけど、これはたぶんセッション・シリーズの最終回になる予定なんだ。
<INFORMATION>

『Already Over Sessions EP』
マイク・シノダ
配信中
https://mikeshinodajpn.lnk.to/aos
1. Already Over (feat. Stand Atlantic, Between You & Me, & Polaris)Live in Sydney
2. Already Over (Live in Los Angels)
3. Already Over (Live in London)
4. Already Over (feat.DAMONA)Live in Berlin
5. Already Over (Live in Tokyo)
6. Already Over (A Cappella)
7. Already Over (Instrumental)
8. Already Over