音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。2020年結成のロックバンドが叫ぶのは「自由」と「解放」。ライブを重ねることで確実に成長・進化を見せてきた彼ら。オーディエンスと数多く共有してきたからこそ、より切れ味を増してきた楽曲の数々。等身大のリアルを叩きつける4人のこだわりとは?

Coffee & Cigarettes 55 | シンガーズハイ

 ジャンルに縛られない音楽性を武器に、反骨精神に満ちた歌詞と刃物のようなメロディで若者のリアルを描く次世代バンド、シンガーズハイ。昨年リリースした6曲入りの3rdミニアルバム『Serotonin』と、その後の対バンツアーやリリースツアーを経た彼らには一体どのような変化があったのだろうか。

 「『Serotonin』の楽曲が、ライブとともに育っていった感覚がありますね」そう語るのは、みつ(Ba)。アルバムが音源として形になった時点での完成度とは別に、実際にツアーで何度も披露することで、楽曲がより自分たちのものになっていく実感を得たという。「演奏を重ねることで楽曲の印象が変わったり、セットリストの流れを考えたりすることで新たな側面も見えてきました」と、ほりたいが(Gt)も言う。「特に対バンツアーとワンマンツアーでは、その変化を強く感じました。セトリにおける曲順や、既存曲とのバランスなどを考えながら、お客さんにどう届けるかをメンバー間でよく話し合いましたし、ライブを重ねるごとに新たな気づきもありましたね」シンガーズハイの、すべての楽曲で作詞作曲を手がける内山ショート(Vo,Gt)によれば、『Serotonin』の楽曲はどれも、これまで以上にパーソナルな感情を大切にしながら作ったという。「それをライブで演奏して、お客さんと共有していくうちに、どんどん『みんなの歌』になっていった感覚もありました。
楽曲が自分たちの手を離れ、ライブを通じてお客さんとの間で育っていく。そうしたプロセスも、今回のツアーを通じて強く実感できた部分です」



 ツアーで訪れた25カ所の会場それぞれに違う雰囲気があり、同じ曲でもその場の空気やオーディエンスの反応によってバンドのグルーヴも変化する。りゅーいち(Dr)もまた、「ツアーを通じてすごくいい経験になったし、一皮むけた感覚がありました」と自分たちの変化と成長を振り返った。シンガーズハイの多様な音楽性は、メンバーそれぞれの異なるバックグラウンドによるところが大きい。ほりのルーツはBzを筆頭にハードロック中心だったが、最近はアイドルソングもよく聴くという。
「アイドルって、一つのグループの中でも幅広いジャンルの楽曲をやるじゃないですか。しかもメロディがキャッチーで飽きずに聴けるのがすごいなって。そういう部分を少しでも自分の引き出しに取り入れられたら面白いなと思っています」

 みつもまた、シンガーズハイの活動を続けていくなかで音楽の嗜好が変化してきた。「学生の頃はポップスやパンク等の偏った音楽ばかり聴いてましたが、バンドを組んでからアイルランド等の日米以外のフォークやカントリー音楽にも目を向けるようになりました。NewDadというバンドが好きです」りゅーいちは、SNSを通じて新しい音楽に触れることが多いそうだ。「TikTokやInstagramのショート動画で流れてくる海外のバンドが面白くて。例えばHighFadeなど視覚的なインパクトもあるし、演奏のテクニックやグルーヴ感がすごい。
特にライブ映像は、余計な演出がないからこそ純粋に音楽だけで勝負している感じがして、それがめちゃくちゃかっこいいなと」

 そんな中、内山は再びボーカロイド楽曲への関心が高まっているという。「人間の声ではないぶん、歌い手のキャラクターや感情に影響されず、純粋に楽曲そのものを受け取ることができる。そこがボカロを面白いと感じるポイントですね。最近は、昔聴いていたボーカロイド楽曲のプレイリストを作り直したり、好きなボカロP......たとえばじんさんの新作をチェックしたりしています」彼らはプライベートの時間も、それぞれのスタイルで楽しんでいる。りゅーいちは草野球にハマっており、現在は2つのチームに所属。「もともと体を動かすのは好きだったので、初心者だけどやってみようと思って。道具もちゃんと揃えて形から入りました(笑)」その一方でみつは、猫と過ごす時間が最大の癒しと語る。「音楽が仕事になりつつあるからこそ、別の夢中になれるものが欲しかったんです」最近はインテリアにもこだわり、ペルシャ絨毯と猫に囲まれた空間でのんびり過ごすのが至福の時間だ。ほりは、アンティーク家具やスパイスカレー巡りが趣味。「センスのよい家具や小物を扱っているお店が近所にあるので、仕事終わりにふらっと寄り、『あ、新しいの入ってるな、どうしよう』と悩んだりする時間が楽しくて(笑)。カレー屋さんもいろいろ回りましたが、月に2回しか営業しない高円寺の『neco食堂』のカレーとプリンの組み合わせが忘れられないんですよね」と語る。

若者のリアルを描く次世代バンド、シンガーズハイが叫ぶ「自由」と「開放」とは

左から、ほりたいが(Gt)、内山ショート(V,Gt)、みつ(Ba)、りゅーいち(Dr)

 引っ越しを機に、近所の飲食店巡りを楽しむようになったのは内山。
行きつけの居酒屋の大将と仲良くなり、常連客の家に遊びに行くこともあるなど、街のコミュニティに自然と溶け込んでいった。「音楽の世界って関係性が狭くなりがちだから、こういう街のつながりが気持ちを楽にしてくれるんです」そんな彼らにとって、タバコもコミュニケーションのきっかけになっているようだ。りゅーいちは、「喫煙所での会話は大きいですね。先輩や後輩ミュージシャンとタバコを吸いながら話すことで距離が縮まることも多くて」と話す。ほりも、あるライブイベントの喫煙所で04 Limited Sazabysのメンバーと居合わせたエピソードを振り返った。「シンガーズハイはそのときオープニングアクトだったんですが、喫煙所でフォーリミのメンバーに会ったら『ライブ見たよ!』と声をかけてくださって。『めっちゃ良かったけど、もうちょいこういうところがあったら面白いかもね』とアドバイスまでくださったんです。その言葉が『Serotonin』の制作や、ライブのやり方を変えるきっかけにもなったんですよね」

 また、内山は東京に引っ越してきたばかりの頃、「タバコ時間」を通じて自然と先輩と話せるようになったエピソードを披露。「学生時代は同年代としか話さなかったけど、タバコを吸うようになって年上の人とも自然にコミュニケーションが取れるようになったんです」そう話すとほりも、「そういえばPAさんや照明さんと、タバコをきっかけに話す機会が増えました」と続け、スタッフとの世代を超えた信頼関係を築くのにタバコが一役買っていることを明かしてくれた。

 そんなシンガーズハイの4人。これから迎えるライブやフェス、イベントに向けてどのような心境でいるのだろうか。

「これまでは『恐縮ながら出演させてもらいます』というスタンスでしたが、最近は『シンガーズハイを認めてもらえて、呼んでもらえた』という実感が出てきています。
だからこそ、しっかり結果を残していきたいですね」と内山。「フェス出演も増えて、しかも新人枠ではなく、より大きなステージに立つ機会が増えていてます」とみつも語り、「いつまでも『新人スタンス』ではいられないですよね」と自身の成長を実感している様子だ。「止まることなく、行けるところまで行きたい。本当に、やれることは全部やりたい」と、力強く語るのはりゅーいち。「去年は呼ばれるイベントが多かったけど、今年はさらに自分たちの音楽を武器にして、もっと強くなりたい。対バンを通じて得るものも多いので、どんなライブでもしっかり吸収していきたいですね」

 さらに内山は、「去年はフェスを中心に『初めてシンガーズハイを見る人にどう自分たちの魅力を伝えるか』を意識していました」と振り返る。「どうすれば一発で僕たちの良さが伝わるかを試行錯誤した年でしたが、今年はそれに加え、これまで応援してくれた人たちにも『また進化してるな』と思ってもらえるようなライブを作りたい」と新たな目標を掲げた。「音楽って、どうしても2~3年のサイクルで聴く人の流れが変わるもの。しばらく僕らを見ていなかった人が、久しぶりにフェスの現場で僕らのライブを見て『こんなふうに変わったんだ』と思ってもらえたら嬉しいですね」ツアーを通じて楽曲が「育つ」感覚を掴み、バンドとしての手応えを深めたシンガーズハイ。『Serotonin』とそのリリースツアーを経て次のフェーズへと移行する彼らが、今後どのような音を鳴らすのか。その成長をこれからも見守り続けたい。

シンガーズハイ
2020年結成。
2022年、TikTokをきっかけに「ノールス」が注目を集め、バイラルチャートでは約1カ月間もの間トップ10にランクイン。2024年8月からは、3rdミニアルバム『Serotonin』を引っ提げ全国25カ所を廻るツアーを行った。

Sunburst tour 2025
5月2日(金)Zepp Nagoya
5月3日(土・祝)Zepp Osaka Bayside
5月9日(金)Zepp Divercity TOKYO
https://singershigh.tokyo/news/detail/38269
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