FOWは米ニューヨークで、アダム・シュレシンジャーとクリス・コリングウッドによって結成されたパワーポップバンド。1996年のデビュー以来、キャッチーなメロディとウィットに富んだ歌詞で日本のファンからも愛されてきた。2003年来日時にアジカンがオープニングアクトを務めたことをきっかけに、アダムのスタジオでのレコーディング、「TOUR 酔杯2006-2007」へのゲスト出演、「NANO-MUGEN FES. 2012」出演など、両者は長年親交を深めてきた。
FOWが活動再開をアナウンスしたのは今年2月。新たに開設されたBlueskyアカウントを通じて、アダムの後任ベーシストとしてEve 6のマックス・コリンズが参加することを明らかにした。バンドの代理人によれば、アダムの遺族もこの再結成を快く受け入れており、彼が遺した珠玉の楽曲群が再び演奏されることに賛同しているという。
アダムは2020年4月、新型コロナウイルスによる合併症によって52歳で逝去。その直後、バンドは7年ぶりに再集結し、ニュージャージー州のコロナ救済基金のための配信ライブに参加した。そして2025年、いよいよFOWは2013年以来となる正式なライブに臨む。本国アメリカでは、5月24日(現地時間)にフロリダ州で開催されるウィーザーとの共演ライブを皮切りに、7月にはウィスコンシン州の「Summerfest 2025」、9月にはメリーランド州の「Oceans Calling Festival」への出演が決定済み。つまり再始動後まもなく日本に帰ってくるわけで、特別な意味を持つステージとなるはずだ。
アダムの死後、長年の盟友であるクリスはこのように語っている。
FOWの再始動を祝福するとともに、アダム・シュレシンジャーの偉大な功績に思いを馳せながら、彼が手がけたバンドの代表曲を振り返っていこう。

アダム・シュレシンジャー、2007年撮影(Jason Merritt/FilmMagic)
「Sick Day」(1996年:1st『Fountains of Wayne』収録)
ファウンテインズ・オブ・ウェインのデビュー・アルバムからのハイライト「Sick Day」は、マンハッタンへと続くPATHトレインに揺られながら、派遣社員の退屈な日々をやり過ごすニュージャージーの女性に捧げられた、メランコリックで美しいオードだ。”コーヒーとクリームを手に、都会の風景に溶け込む”彼女の姿を描いたこの曲は、大学を卒業したばかりで、まだ本格的なキャリアにも踏み出していない、あの奇妙に宙ぶらりんな時期を描いた、史上最高のポップソングかもしれない。
何も必要に感じられず、すべてが手に届きそうで、でもどこか茶番めいていて、自分にはちょっと違う気がする——そんな青春の余白のような時間。壊れたコピー機も、隣のキュービクルの”働きアリ志願者”も、すべてが完璧に描写されている。1996年のあの安らかで豊かな日々から、私たちがどれだけ遠くへ転がり落ちたかを思えば、いまこの曲を聴くのは少しつらい。そして〈我らをペン・ステーションへ導かせたまうな(lead us not into Penn Station)〉という一節には、皮肉と哀しみがより強くのしかかる。
「Utopia Parkway」(1999年:2nd『Utopia Parkway』収録)
クリス作の「Radiation Vibe」でオルタナ・ヒットを飛ばしてから3年——ファウンテインズ・オブ・ウェインは、郊外に漂う倦怠と行き止まりの感覚を描いたコンセプト・アルバムで戻ってきた。その描写力は、キンクスの名作群に匹敵するほどだ。タイトル曲「Utopia Parkway」は、クイーンズに実在する通りの名をそのまま拝借したもので、アルバム全体のテーマを象徴する楽曲となっている。
語り手は、チャンスはいつも次の区画にあると信じている、カバー・バンドの男。
「Red Dragon Tattoo」(1999年:2nd『Utopia Parkway』収録)
「Little Red Light」など、よりハードにロックする曲もあるが、Fountains of Wayneがここまで推進力のあるナンバーを残したことはそう多くない。アルバム『Utopia Parkway』のハイライトでもあるこの曲は、気になる女の子の気を引こうと、存在すら気づかれていないのにNトレインでコニー・アイランドまで行ってしまう男の奮闘を描いている。
〈僕が生まれてないふり、もうやめてくれない?/これでもちょっとはKornのあいつに似てきたろ?〉といった痛々しいリリックに代表されるように、FOWの失恋ソングの多くと同様、この物語も明るい結末には向かわなさそうだ。曲のラストでは〈染めてもいい男にはなったかな、君にふさわしい男にはなれたかな?〉と問いかけて幕を閉じる。それでも、聴き手にとっては抗いがたい名曲といえるだろう。
「It Must Be Summer」(1999年:2nd『Utopia Parkway』収録)
2ndアルバムのラストにひっそりと収められた、実に見事なパワーポップ系失恋ソング──「It Must Be Summer」は、たとえこの先ヒットを出せなかったとしても、Fountains of Wayneをカルト的名盤の座に押し上げただろうと思える一曲だ。
語り手は、もうとっくにいなくなってしまった誰かに未練たっぷり。
「Stacys Mom」(2003年:3rd『Welcome Interstate Managers』収録)
ステイシー本人に、別に問題があったわけじゃない。ヴァン・ヘイレンのTシャツを着て、ハート型のサングラスをかけ、プールサイドでのんびり過ごすのが好きな普通の女の子だった。ただひとつの例外を除いて——彼女の”ママ”が、圧倒的に魅力的だったという点を除いては。
FOWは2003年の『Welcome Interstate Managers』以前にすでに2枚のアルバムをリリースしていたが、彼らを一躍メインストリームに押し上げたのは、間違いなくこのギターが炸裂するアンセム「Stacys Mom」だった。カーズの「My Best Friends Girl」を遠慮なくオマージュし、それを捻れたティーンエイジャーの妄想へと昇華させたこの曲で、彼らは一気に注目を集めた。
アイコニックなミュージックビデオでは、スーパーモデルのレイチェル・ハンターが”ママ役”を熱演。真っ赤なコンバーチブルでステイシーを迎えに来た彼女に、男子たちが涎を垂らして見惚れる姿が描かれる。
あれから何年経っても、「Stacys Mom」はFOWの代表曲として君臨し続けている。ステイシーが今どこでどうしているのかはわからないけれど、願わくば、もっとまともなパートナーを見つけていてほしい。
「Hackensack」(2003年:3rd『Welcome Interstate Managers』収録)
高校時代の同級生がいつの間にか有名人になっていた——そんな相手に今も執着し続ける、夢見がちな”どこにでもいる”ジャージーの男を描いたこの曲は、聴いていると背筋の奥がぞわっとするほど切ない。それでいて、〈テレビ画面の中で/クリストファー・ウォーケンと/話してる君を見たんだ〉なんてラインも入ってくる。『Welcome Interstate Managers』に収録された、数ある哀愁系スライス・オブ・ライフの中でも屈指の出来映えだ。
そしてこの曲のパンチラインのように感じられるのが、2009年にケイティ・ペリーがMTV Unpluggedの再始動版で、なぜかこの曲を驚くほど忠実にカバーしたという事実だ。その理由はいまだ謎のままである。
「Bright Future in Sales」(2003年:3rd『Welcome Interstate Managers』収録)
コメディと哀愁の融合は、どんな表現手法においても難易度が高い。
「Fire Island」(2003年:3rd『Welcome Interstate Managers』収録)
「FOWの曲でニュージャージーが出てきたり、高校時代の話だったりしたら、それはたいていアダムの曲だよ」——バンドの2大ソングライターの違いを説明しようとしたファンに対して、クリス・コリングウッドがかつてそう語ったことがある。『Welcome Interstate Managers』収録の「Fire Island」も、まさに”高校時代ソング”に分類される一曲だ。郊外に暮らすティーンエイジャーが、ベビーシッターを卒業したばかりの年頃になり、両親が週末にファイア・アイランドへ旅行に出かけた隙にパーティーを開こうと目論む——そんなノスタルジックなピアノ・バラードである。
多くの高校時代をテーマにした曲と同様に、シュレシンジャーの歌詞は、思春期と大人の狭間にある甘くて危うい時間を見事に捉えている。1番では未成年の飲酒、無謀な運転、夜の水泳といったスリルが描かれ、2番では一転して、音楽を大音量でかけたり、〈ソファの上で飛び跳ねて/羽が全部出てくるまで〉遊び倒すという、無邪気な夢が語られる。
「Maureen」(2005年;シングルB面集『Out-of-State Plates』収録)
FOWのカタログの中でも、特に痛快でクセになる一曲。このエネルギッシュなパワーポップ・チューンは、恋の不安をアクセル全開で駆け抜けるようなスピード感で描いてみせる。語り手は、いわゆる”友達止まり”の立場に甘んじながら、気になる彼女と会い続けている。でも彼女はといえば、他の男との関係をこと細かに語ってくるのだ——本人いわく、「君がどうしても話したがる、そのグラフィックな描写」を、延々と聞かされるはめに。
「Yolanda Hayes」(2007年:4th『Traffic and Weather』収録)
『Traffic and Weather』はFOWの作品群の中でも見過ごされがちだが、この曲でアダムはビートルズ愛を全開にしている。「Getting Better」を彷彿とさせるギターに、ポール・マッカートニー風のメロディを完璧に模したバラード。
その題材はというと、地元のDMV(運転免許センター)の窓口係に恋してしまった男の物語だ。〈蛍光灯の下でもちゃんと可愛い/夜、家に帰った彼女はどんなふうなんだろう〉と妄想を膨らませる彼。バンドが2000年代に生み出した名曲の多くと同様、まるで「どんなに退屈なシチュエーションでも名曲が書ける」と誰かに賭けを挑んだかのような設定だ。今回はめずらしくハッピーエンド。列に並んで順番がまわってきたとき、ヨランダが彼に微笑んだ……ように彼には見えた。それが真実かどうかはさておき、次に免許の更新に行くとき、この曲の黄金のようなサビがふと頭をよぎったとしても、きっと悪くない。
「I-95」(2007年:4th『Traffic and Weather』収録)
FOWは、人生の平凡さと格闘する”普通の人々”を描くのが抜群に上手かった。そして、アメリカ東海岸の高速道路を9時間かけて走る——という、これ以上ないほど退屈なシチュエーションを題材にしたこの曲も、その例外ではない。道中、主人公が目にするのは、バーニーのDVDや「Virginia is for Lovers」と書かれたTシャツを売るサービスエリアの土産店、バンを運転する年配の男性、そして雑音まじりのラジオから聴こえるバスドラムのような音——そんな風景が、FOWならではのポップカルチャー的ディテールで淡々と綴られていく。
しかし曲の途中で明かされるのは、彼がなぜそんな長旅に耐えているのかという理由。会いに行く相手がいるのだ。そしてその人のもとへ向かえるなら、何度でもこの道を走りたい——そう思っている。スローモーションのように展開するこのバラードは、細部にまで文学的な描写が行き届き、70年代のAMラジオ的ノスタルジーがふわりとかかっている。そして何より、オルタナ・ロック史上もっとも愛すべきラブソングのひとつであることは間違いない。
「The Summer Place」(2011年:5th『Sky Full of Holes』収録)
『Sky Full of Holes』の冒頭を飾るこの曲は、アコースティック・ギターの陽気なストロークがビーチの風のように吹き抜ける、まさにFOW流のサマー・チューン。そのサウンドには、アメリカの名曲「Sister Golden Hair」ばりの70年代的なノスタルジーが香り立ち、バンドはそのレトロで王道なムードを見事に着こなしている。しかしそこから自然に、エルヴィス・コステロ(『This Years Model』期)を思わせるような、軽快でウィットに富んだ社会批評へと転じるのが彼ららしい。
歌詞で描かれるのは、子どもの頃から毎年通っていたファイア・アイランドやケープ・コッドのような夏の別荘に、ある女性が中年になった今もやってくる、という物語だ。語りは彼女のうんざりした中年の視点と、子ども時代の「退屈だけど少しだけマシだった思い出」の間を行き来する。万引きがバレた日、マジックマッシュルームを食べて救急搬送された日——そんな過去の冒険(という名のトラブル)が断片的に描かれる。バンドはこう歌う。〈夏の家では、傷は癒えても/記憶は一生消えない〉——シーグラムのウイスキーも、燦々とした太陽も、人生の失望から私たちを救ってくれる一時的な鎮静剤にすぎない、とでも言うように。
それでもこの曲を特別なものにしているのは、迷える富裕層を描くときによくある冷笑や皮肉が一切ないこと。同情の余地があるかどうかすら曖昧な登場人物に、これほど愛らしくキャッチーな一曲を贈れるバンドは、そう多くない。
「Richie and Ruben」(2011年:5th『Sky Full of Holes』収録)
『Sky Full of Holes』には、アダムが得意としたほろ苦い短編小説のような楽曲がぎっしりと詰まっている。「Action Hero」では、退屈な日常に飽きた中年の父親が”もっと刺激的な人生”を夢想する様子が描かれるが、それは同時に、より商業的な音楽スタイルを模倣してきたシュレシンジャー自身の”サイドキャリア”を暗示するメタファーでもある。
一方の「Richie and Ruben」は、行動力だけは一人前で、冷静な判断力には欠ける2人の起業家を描いた皮肉まじりのコミカルな物語だ。彼らが立ち上げたブティック「Debris」では、〈漂白剤と黒い汚れで最初からシミだらけ/ビリビリに破れたシャツが11万円〉という代物が売られていたらしく、〈ちょっと高すぎじゃない?〉と語り手は呆れている。彼らの失敗談は短いフレーズで鮮やかに描かれており、その巧みさゆえに、何度か聴かないと気づかないかもしれない本当のオチが隠されている。それは、この物語が全知全能の客観的な語り手ではなく、何度も彼らのダメなアイデアに投資してしまった”友人”の視点で語られているということ。
結局、リッチーとルーベンは、この曲そのものと同じくらい魅力的だったのだ。
Sky Full of Holes Fountains of Wayne
From Rolling Stone US.
★FOWの人気曲をさらに振り返る

ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN FES. 2025 in Yokohama
2025年5月31日(土)/6月1日(日)
Kアリーナ横浜(神奈川県)
開場:9:00/開演:11:00/終演:20:30(予定)
出演アーティスト(※主催者以下 アルファベット順)
■ 5月31日(土)出演
ASIAN KUNG-FU GENERATION(JP)
ELLEGARDEN(JP)
FOUNTAINS OF WAYNE(US)[NEW!]
HOVVDY(US)[NEW!]
NICK MOON(UK)[NEW!]
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC(JP)
ストレイテナー(JP)
VOICE OF BACEPROT(IDN)
THE YOUNG PUNX(UK)[NEW!]
■ 6月1日(日)出演
ASIAN KUNG-FU GENERATION(JP)
The Adams(IDN)
BECK(US)
FOUNTAINS OF WAYNE(US)[NEW!]
HOVVDY(US)[NEW!]
NICK MOON(UK)[NEW!]
くるり(JP)
YeYe(JP)
THE YOUNG PUNX(UK)[NEW!]
公式サイト:https://www.nano-mugenfes.com/