カトパコの「Tiny Desk Concerts」は現時点で3600万回再生を突破。同時期に公開されたビリー・アイリッシュやデュア・リパの数字を大きく上回っている
カトパコはもはや「一大現象」
まずは、カトパコの歩みをおさらいしておこう。CA7RIELことカトリエル・ゲレイロ、Paco Amorosoことウリセス・ゲリエーロは、共に1993年生まれ。苗字が1文字違い=出席番号が隣という偶然も手伝い、小学校で出会って以来のマブである。当初はプログレ×ファンクを基調にしたバンド「Astor」として活動したものの、成功には恵まれず。カトは左頬に「7」のタトゥーを刻み、ラッパーとして再スタートを切ると、そこにパコも加わって快進撃が始まった(という前歴は、ワム!と少し近い気もする)。2018年にデュオとしてデビューすると、トラップの枠にとらわれない奔放なスタイルでヒット曲を連発。その後、コロナ禍でのソロ活動を挟んで、2024年にリリースした初のフルアルバム『BAÑO MARÍA』で大きく飛躍した。
2024年8月、『BAÑO MARÍA』を引っ提げて地元ブエノスアイレスで開催された凱旋公演には15000人の観客が集結。当日の模様を収めたライブ作品『BAÑO MARÍA (En Vivo - Buenos Aires)』のフル映像
母国アルゼンチンではすでに国民的アーティストとしての地位を築きつつあった彼らだが、さらなる追い風となったのがTiny Deskによるバズ。
会場に到着すると、Tiny Deskでパコが着用していた青い毛皮のフードをかぶった観客や、スペインのアパレルブランド・BERSHKAとのコラボアイテムを着こなす人々の姿など、ファッション面での支持もうかがえた。客層の大半は20代前後と見られるが、年上のファンも少ないわけでなく、世代を超えた広がりが感じられる。
開演予定の21時をいくらか過ぎた頃。ステージ両脇に配置されたパコ(下手)とカトリエル(上手)の上半身像バルーンが膨らみ始めると、それがショーの幕開けを告げる合図となった。バンドメンバーが所定の位置に着くと、Tiny Deskやコーチェラでもオープニングを飾った「DUMBAI」の流麗なイントロが流れ出す。

Photo @manupasik
そしてついに、主役の二人が登壇。演奏がいったん止むと、カトパコは仁王立ちのまま微動だにせず、ステージ上ではこれでもかと火柱が噴き上がる。そこからの約3分間、まだ一言も発していないのに、スタンディングオベーションが鳴り止まなかったのもさすがだ。
スターの風格をまざまざと見せつけたあと、パコが絶妙なタイミングで歌い出すと、場内は「待ってました」とばかりに大合唱。〈ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥンバイ〉と誰もが口ずさめるサビが響き渡り、フロアの熱気はいきなり頂点へ達した。
#カトパコ
定番のオープニング曲で大変踊れてかっこいい「DUMBAI」のマドリードで撮ったライブ映像。出だしからいきなりやばかった。ライブレポもまもなく公開予定です。かなり気合いが入りまくった pic.twitter.com/fjbLTFTPmg— 小熊俊哉 (@kitikuma3) June 8, 2025「DUMBAI」(筆者撮影)
ライブで証明された圧倒的な実力
前半はコーチェラ同様、Tiny Deskを踏襲した着席スタイルで展開。動きを制限する演出はハンデを負うようにも思えるが、むしろテンションは加速度的に高まり、彼らの真価が際立っていく。デビュー当初から現在に至るまで、ラップシーンでは異例となるバンド編成でのライブにこだわってきたカトパコ。現在の快進撃はまぐれでもバズ頼りでもなく、紆余曲折の末に掴んだものだ。

カトリエルとパコは、”筋骨隆々”を模した全身スーツに身を包み、プロテイン容器風の巨大セットに鎮座。アルゼンチンのスラングで”強い男”を意味する最新EP『PAPOTA』の世界観を反映したもの(Photo by @manupasik)
近年のドラムンベース・リバイバルとも呼応する「BABY GANGSTA」では、肩にELPのタトゥーを入れた敏腕ドラマー、エドゥアルド・ジャルディーナ(Eduardo Giardina)が、高速ビートをいともたやすく叩きこなす。ボトムを堅牢に支えながら、随所でファンキーなフレーズを差し込むのは、Astor時代からの盟友で3連サングラスが似合うベーシスト、フェリペ・ブランディ(Felipe Brandy)だ。
カトパコことCA7RIEL & Paco Amorosoのライブが最高すぎた件を書きました。規格外の実力者がフジロックにやってくる!レポでありつつ情報・考察多めなので予習用にもぜひ
https://t.co/LWnASYxZOk…
↓は人力ドラムンベースが痛快な「BABY GANGSTA」バンドの演奏もヤバかった(話もしてます) https://t.co/ngEhxME7eW pic.twitter.com/2NTvD5HBhu— 小熊俊哉 (@kitikuma3) June 9, 2025「BABY GANGSTA」(筆者撮影)
4曲目のトラップナンバー「A MÍ NO」では、ジャズ・ピアニストとしても活躍する23歳の俊英ハビエル・ブリン(Javier Burín)が弾く洒脱なシンセが、カトパコの尖鋭的なラップと鮮やかなコントラストを描き出す。
バンドの中核を担う4人は、Tiny Deskの成功を経てオーガニック路線に舵を切った最新EP『PAPOTA』で、演奏だけでなく作編曲にも名を連ねる実力派揃い。そこにコーラス隊とホーンセクションを加えた全9名編成が、スタジオ音源とは異なる揺らぎとダイナミズムを生み出す。アンダーソン・パークやルイス・コールを思わせるジャズファンク、スナーキー・パピーにも通じるフュージョンに、ラテンやプログレも絡む”踊れる”演奏は、フジロッカーにも大いに歓迎されるはずだ。

コーチェラでのライブ写真。[バンドメンバー]左からフェリペ・ブランディ、マクシ・サジェス、エドゥアルド・ジャルディーナ(Photo by Va Nelsen)
ジャズバンドで演奏する鍵盤奏者のハビエル・ブリン(サムネイル左)
それ以上に驚かされたのが、カトリエルとパコが持つ”声の力”。トラップ由来のアドリブが冴える「MI DIOSA」から、コーチェラでもハイライトになった「A MÍ NO」におけるカトの強烈なラップとシャウト。さらにそこから、ボーカルの掛け合いが絶妙な「IMPOSTOR」とシームレスに続く流れは白眉だ。『PAPOTA』収録の「IMPOSTOR」では、〈Tiny Deskのせいでめちゃくちゃだ / 歌もラップもまともにできないのに〉というシニカルな一節も飛び出すが、どこがだよとツッコまずにいられない。ギタリストとしても一流のカトリエルは、ジャジーなソロでも観客を魅了した。
その後は、お互いのソロ曲をメドレー形式で披露。長身のカトリエルが繰り出すのは、プリンス譲りの未来的ファンク。
アルゼンチンを代表するプロデューサー、ビザラップとの共作「BZRP Music Sessions #3」から「PIRLO」へと続くバラードタイムでは、アリーナのみならずスタジアム規模の会場すら掌握できそうなスケール感が垣間見えた。やがてステージが暗転し、前半戦=Tiny Desk編が終了。ここから先は二人の独壇場だった。

バラード「PIRLO」では客先のスマホライトが美しく揺れ動いた(Photo @manupasik)
フィナーレを彩った「永遠の友情」
カトパコがステージ狭しと駆け回る後半戦は、爆発的なエネルギーで観客を巻き込みながら、最後まで一切ブレーキをかけずに突き抜ける。まずは『PAPOTA』収録の「RE FORRO」。サンバ調のグルーヴと〈ナナナナナナ〉コーラスで、フロアを一気に躍らせる。続く「La que puede, puede」は圧巻だった。原曲のダークインダストリアル風トラックが、竜巻のようなラテンジャズへと刷新され、二人のラップとバンドが限界までせめぎ合う。
カトパコことCA7RIEL & Paco Amorosoをついに生で目撃!
今見るべきアーティストNo.1と確信していたけど、まさかここまで凄いとは。世界的ブレイクスルーの真っ只中だけあり勢いが桁違い。15000人の大合唱でアリーナが揺れてた。フジロックに来るのは奇跡だね。#カトパコ
↓見ればわかる。凄すぎ pic.twitter.com/Sehn8RhNBe— 小熊俊哉 (@kitikuma3) May 29, 2025「La que puede, puede」(筆者撮影)
さらに、「SHEESH」「SUPERSÓNICO」と先鋭的なレイヴサウンドを投下したのち、再びソロパートへと突入。気づけば二人とも半裸になっており、セクシーな色気とアグレッシブな挙動で客席を魅了する。本編ラストは、「Ola mina XD」「OUKE」「Cono Hielo」という初期シングル3連発。デビュー当初のプリミティブな衝動を取り戻すかのごとく、尖りまくったラップの応酬を浴びながら、過去のインタビューでプレイボーイ・カーティやダニー・ブラウンの名を挙げていたことが頭をよぎった。

Photo @manupasik
アンコールでは、『PAPOTA』の楽曲を続けざまに披露。”マッチョな男らしさ”を茶化した「#TETAS」で、黒いブリーフ姿のボディビルダー軍団が登場すると、会場はたちまち爆笑の渦に包まれる。
最大のハイライトは「EL DÍA DEL AMIGO」だろう。〈I couldn't fucking do it without you〉(お前がいなかったらここまで来られなかった)という赤裸々なラインが象徴する、永遠の友情を誓うアンセムだ。アース・ウィンド&ファイアー風のイントロから多幸感に満ち、キャッチーなサビでは自然と拍手が巻き起こる。肩を組んで花道を歩くカトリエルとパコを見ながら、小学校で運命的に巡り合った”最強の二人”が、この大舞台にたどり着くまでのストーリーを想像し、思わず目頭が熱くなった。
カトパコ全編が素晴らしかったけど、アンコールの「EL DÍA DEL AMIGO」は特にグッときた。「友だちの日」というタイトル通り、永遠の友情を誓い合う曲。この2人だからこその奇跡的な瞬間のオンパレードで、なおかつライブバンドとしても音楽的にかなり攻めてて無敵すぎる。#カトパコ https://t.co/ngEhxMDzpo pic.twitter.com/4ssYqI2Nk5— 小熊俊哉 (@kitikuma3) May 29, 2025「EL DÍA DEL AMIGO」(筆者撮影)
そう、カトパコとは幼馴染によるブロマンスの物語でもある。そのフィナーレを飾ったのは、彼らの奔放さを体現したパーティーアンセム「EL ÚNICO」。〈Weve been f*cking the same girl〉(俺たち、同じ女の子と寝てたのか!)というフレーズがTikTokでバズったこともあり、本人たちが歌う前からこの日一番の大合唱が巻き起こる。そして、ハビエル・ブリンのシンセがファンファーレのように響き、火柱が吹き上がるなか迎えたエンディングでは、カトリエルとパコが抱擁しキスを交わす──もはや無敵である。
全24曲・約90分にわたるステージで、彼らは挑発的なラッパーであり、型破りなロックスターであり、最先端のポップアイコンであることを証明してみせた。アイドル顔負けの華と革新的なサウンドを、ここまで高次元で兼ね備えた存在がかつていただろうか。そして何より、カトパコのライブは享楽的でとことんハッピーだ。ラテンポップ不遇の日本においても、2023年のマネスキン初来日に匹敵するインパクトをもたらすのではないかと筆者は確信している。ブレイク真っ只中の今、このタイミングでフジロックに登場するのは奇跡であり、しかも地球の真裏で生まれ育った二人は「日本に行くのが夢」とまで語っている。ぜひその目で初来日を目撃してほしい。
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カトリエル&パコ・アモロソ
世界初CD化作品『PAPOTA|パポタ』
2025年7月16日リリース予定
対訳/ライナー/ボーナス・トラック付き(代表曲「ドゥンバイ」)
初回仕様限定:オリジナル・ステッカー封入
予約・購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/Papota_JPRS

FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※カトリエル&パコ・アモロソは7月26日(土)出演
公式サイト:https://fujirockfestival.com
#カトパコ
定番のオープニング曲で大変踊れてかっこいい「DUMBAI」のマドリードで撮ったライブ映像。出だしからいきなりやばかった。ライブレポもまもなく公開予定です。かなり気合いが入りまくった pic.twitter.com/fjbLTFTPmg— 小熊俊哉 (@kitikuma3) June 8, 2025「DUMBAI」(筆者撮影)カトパコことCA7RIEL & Paco Amorosoをついに生で目撃!
今見るべきアーティストNo.1と確信していたけど、まさかここまで凄いとは。世界的ブレイクスルーの真っ只中だけあり勢いが桁違い。15000人の大合唱でアリーナが揺れてた。フジロックに来るのは奇跡だね。#カトパコ
↓見ればわかる。凄すぎ pic.twitter.com/Sehn8RhNBe— 小熊俊哉 (@kitikuma3) May 29, 2025「La que puede, puede」(筆者撮影)カトパコ全編が素晴らしかったけど、アンコールの「EL DÍA DEL AMIGO」は特にグッときた。「友だちの日」というタイトル通り、永遠の友情を誓い合う曲。この2人だからこその奇跡的な瞬間のオンパレードで、なおかつライブバンドとしても音楽的にかなり攻めてて無敵すぎる。#カトパコ https://t.co/ngEhxMDzpo pic.twitter.com/4ssYqI2Nk5— 小熊俊哉 (@kitikuma3) May 29, 2025「EL DÍA DEL AMIGO」(筆者撮影)
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