
テイラー・スウィフトは、ポップ界の頂点に立ち続けてきた。真夜中のように深いブルーのスパンコールのボディスーツに身を包み、足元には虹色の紙吹雪が舞い散る。スタジアムを埋め尽くした観客を魅了し、その歓声と叫びは地震計に記録されるほどだった。彼女は自ら打ち立てたストリーミングやチャートの記録を塗り替え、直近のわずか5年でキャリア全体に匹敵するほどの楽曲を世に送り出してきた。そして、キャリアも20年近くを数える今、最高のハイヒールで舞いながら、これまで以上の芸術的・個人的な高みへと到達している。世界中が「これ以上は登れない」と思ったその先へ、彼女はさらに進んでしまったのだ。
今年の初め、彼女は自らのマスター音源を買い戻し、名実ともに”すべて”を掌中に収めた。さらにフットボール界のスター、トラヴィス・ケルシーという”同じ血を引くカウボーイ”を伴侶に選び、二人は婚約。ついにフェアリーテイルの結末を手にしたかのようだった。
もうこれ以上大きくなりようがない──誰もがそう思ったはずだ。
冒頭を飾る「The Fate of Ophelia」の、フリートウッド・マック風のドラムロールと憂いを帯びた鍵盤の響きで、テイラーが未知の領域に足を踏み入れたことは一目瞭然だ。世界はすでにシェイクスピアの『ハムレット』の結末を知っており、テイラー自身の恋物語の最新章も報道されている。しかし、スティール・ギターとオムニコードのきらめくトリルが織りなす魅惑的なメロディは、彼女がいかにして”自らの運命”を書き換えたのかを確かめるべく、聴き手を最後まで引き込んでやまない。
とりわけ注目すべきは、ポップスターである彼女が長年のプロデューサー、ジャック・アントノフと手を組むことをあえてやめ、スタジオの鬼才マックス・マーティンとシェルバックとの再会を選んだ点だ。しかし二人の復帰は、『1989』の壮大なシンセ・バンガーや『reputation』のウェアハウス的エレクトロ・グリットをそのままなぞるものではない。むしろ三人は、離れていた8年間でそれぞれが培ったものをすべて注ぎ込み、新しい道を切り拓いている。
灰色から虹色へ
当然ながら、『The Life of a Showgirl』は昨年リリースされた、あまりに個人的かつ散文的で、とことん苦悩に満ちた『The Tortured Poets Department』からの大きな転換となった。テイラーはErasツアーのブックレットにこう記している──「私が一番嫌いなのは、これまでやってきたことを繰り返すこと」。31曲にもわたり灰色がかった冗長さを帯びていた『TTPD』に対し、『The Life of a Showgirl』は虹色の輝きで満ち、12曲という凝縮された構成を持つ。
〈最後のヒットがあなたの価値よ、ベイビー〉──「Elizabeth Taylor」の華やかで雷鳴のようなグルーヴの上で、テイラーはそうウィットに富んだ一節を放つ。その精神に沿うかのように、彼女は大胆なサウンド選択を繰り出す。「Actually Romantic」はウィーザーを思わせる90年代ロックのリフを軸に構築されている。『TTPD』の「Clara Bow」に欠けていたエッジがここにはある。〈少し濡れてきちゃう(its kind of making me wet)〉といった一行をより鋭く響かせる。『1989』のワールドツアーで『Red』の楽曲をエレキギター・バージョンで披露して以来、ファンが待ち望んできたタイプの曲がついに形になった。
一方で「Father Figure」では、ジョージ・マイケルの同名曲をインターポレートしている。しかしプリンスを思わせるスネアは、スウェーデン人プロデューサーによるフル編成のストリングス・オーケストラで豊かに補強されている。このアンサンブルは、タイトル曲「The Life of a Showgirl」や「CANCELLED!」といったハイライト曲にもまったく異なる形で登場する。なかでも「Wood」ではホーン・セクションが楽曲を救っている。
「このアルバムをErasツアーと同じくらい誇りに思いたい。そして、その理由も同じであってほしい」。テイラーは、アルバム制作のためスウェーデンに滞在していた際、マックス・マーティンに語っている。スポットライトのコンセプトと圧倒的なプロダクションを備えた『The Life of a Showgirl』は、彼女のキャリアを総括する偉業の成果であり、その延長線上にある作品だ。ツアーでそうしてきたように、彼女は自らの全キャリアから要素を厳選し、最も機能するものを組み合わせている。「Honey」では『Speak Now』時代を思わせるバンジョーと『1989』のヒップホップ・ビートを下敷きに、『Midnights』風のウーリッツァーが背景で煌めく──艶やかにして挑発的な再獲得の歌となっている。
自分自身を超え続ける宿命
きらびやかな輝きに包まれたグリッタージェル・ペンのような楽曲群だからといって、彼女が得意とする緻密なストーリーテリングをおろそかにしているわけではない。敵を「おもちゃのチワワ」に例えてみせたり、自分を「悪い知らせ」と呼ぶアンチたちに感謝を捧げたり──ユーモアの冴えは健在だ。さらには、まるで股間を誇示する音楽業界の帝王のごとく、〈溺れていることに気づく前に、魚と一緒に眠ることになるわよ〉と不気味な脅しを吐き出す大胆さも見せる。自虐的なダサさの演出でも彼女は己を上回り、「This Is Why We Cant Have Nice Things」を刷新した「Wi$h Li$t」では、デザイナーズ・ブランド名がこれでもかと散りばめられ、さらには「Balenci」と省略された呼び名まで飛び出す。
新たな高みを目指す一方で、テイラーは今もなお、ギターに染み込んだ脆さを垣間見せている。
だが、テイラーは歩みを進めるごとに喪失と絶望を脱ぎ捨てていく。『The Life of a Showgirl』は、彼女に投げつけられたレンガすべてで築かれた城だ。彼女は運命を変えてほしいと膝を折って願った。そして、ここで歌われる愛がその願いを実現したのだ。人生の仕事を失った彼女は、いまや帝国を手にしている。失うすべてが次の一歩になる──それは「Opalite」のブリッジで恋人にも説く教訓だ。〈失敗は自由をもたらす〉と彼女は歌う。
『The Life of a Showgirl』のカーテンコールでは、やがて王冠を手放すことで得られる自由の誘惑さえ描かれる。ラストを飾るタイトル曲には、なんとテイラーのアンダースタディ(代役)であるサブリナ・カーペンターが大々的にフィーチャーされているのだ。26歳のシンガーはフルのヴァースを歌い、さらに加速するショーチューン風のブリッジでは憧れの人とハーモニーを重ねる。それはまるで、テイラーが次世代のショーガールにバトンを渡しながら深々と一礼しているかのように響く。
From Rolling Stone US.

テイラー・スウィフト『The Life of a Showgirl』
2025年10月3日(金)デジタル配信
2025年10月4日(土)輸入盤発売
再生・購入:https://umj.lnk.to/TS_TLOAS