エマ・リチャードソンが参加した2024年のフルライブ映像
ー最新作『The Night the Zombies Came』を発表してから、精力的にツアーを続けていますが、調子はいかがですか?
ジョーイ:とても、とても調子がいい。演奏もうまくいってる。普段がすごくいいから、ちょっとでも調子がよくないと自分では悪く感じてしまうけど、それでもレベルは並外れているよ。だって周りには、特に調子が悪いって気づかれないからね(笑)。
ーあなたにとっての「悪いレベル」は、十分レベルが高いでしょうからね(笑)。
ジョーイ:そう、そういうことだよ。まぁ、パーフェクトになることはないけどさ。
ーあなたはお酒をやめて何年にもなりますから、それも好調に繋がっているのでしょうか。
ジョーイ:ああ、そうだね。もちろん。シラフは最高だよ! 頭がすごくスッキリするし、前よりいい演奏ができているよ。

ジョーイ・サンティアゴ
ー11月の日本公演も楽しみです。今回は、エマ・リチャードソンが参加して初めての来日ということになりますね。エマは、最新アルバム『The Night the Zombies Came』の制作も始まっている状況で、新メンバーとして急きょ呼び寄せられたと聞いていますが、これまでのところレコーディングもツアーもしっかりこなしているようです。あなたから見て、彼女の良さはどんなところですか?
ジョーイ:彼女は本当にいいよ。プレイヤーとしても安定感があるし、とてもethereal(極めて優美)と呼ぶべき声をしている。うまく言い表せられないけど、いい存在感のある声なのは間違いないと思うよ。
ーエマが入ってすぐ、『Bossanova』と『Trompe le Monde』の再現ツアーをやることにしたのは、どんな理由があったのでしょうか? なんとなく世間の評価が『Surfer Rosa』と『Doolittle』に偏っているような空気もあるので、バンドとしても、そこを是正したいという気持ちはありましたか?
ジョーイ:それはあったね。この2作は見過ごされていた感があった。『Doolittle』派か『Surfer Rosa』派か、みたいなところもあったし。
ーなるほど。
ジョーイ:だから、彼女は「宿題」としてあのアルバムを覚えることになった。もちろん、今は他のアルバムからも覚えてくれたよ。最初から弾ける曲もたくさんあったしね。

エマ・リチャードソン
ー再現ツアーの音源は『Bossanova x Trompe Le Monde (Live)』として作品化もされました。ずっと演奏していなかった曲を覚え直したり、かなり大変だったと聞いていますが、久々に接した曲について新たに発見したこととか、改めて演奏するに当たって工夫した点などがあれば教えてください。
ジョーイ:そうだね、前より巧く弾けるように努力はしたよ。僕の立場から話をすると、ギターのサウンドを再現するのが大変だった。独特のニュアンスを持つサウンドが結構あったから、それをライブで再現しようと試みたんだ。アルバムのサウンドを可能な限りライブでも聴けるようにね。
ー「あれ、僕ってこんなことやってたんだ」的な再発見はありましたか?
ジョーイ:(笑)そりゃあね。トーンとか、ピックアップがしょっちゅう切り替わるんだ。それで音がメロウになったり、震える感じになったりする。1つの曲の中でね。あと、そうだなぁ……なかなかイカれたソロがいくつかあってさ。それらのソロを考えつくまでに大変な時期があったことなんかを思い出したよ。それをどうやって解決したか、ようやくいいものを思いついた時どんな気持ちがしたか、とかね。
ー「Bossanova x Trompe Le Monde」再現ツアーは、その後のセットリストにも影響を与えましたか?
ジョーイ:影響はあったと思うよ。標準的なセットに、それまでしばらくやっていなかったような曲を入れるようになったし。「The Happening」とか「All Over The World」も気に入って演っている。「Dig For Fire」も以前は全然やっていなかったけど、今はまた演奏するようになった。
ー11月の来日公演でも、これらのアルバムからのレアな曲が聴けたりするでしょうか?
ジョーイ:(笑)ああ! いくつか入れるつもりだよ!

ブラック・フランシス
ーあなた自身、『Bossanova』と『Trompe le Monde』の中で特に好きな曲はなんですか。
ジョーイ:『Bossanova』だったら、自分で演奏するのが好きなのは……「Dig For Fire」かな。やるのがちょっと怖い曲だったからというのもある。どうしてかはわからないけど、今はもう怖くないんだ。当初は大惨事になりかねない曲だったね。あと『Trompe le Monde』の「Space」。最初に聴き直した時は「一体どうやってやればいいんだ?」と思ったけど、何とかできるようになったからね。なんせ、その再現ツアーまで演奏したことが1度もなくてさ。実際、あの曲をライブでやったのは再現ツアーの時だけなんだ。
ー『Trompe le Monde』を制作していた頃のピクシーズは、メンバー間に緊張もあったそうですね。特にチャールズ(ブラック・フランシス)とキム(・ディール)の間でぎくしゃくしていたのではないかと思いますが、そういうことも今では落ち着いて思い出せるでしょうか?
ジョーイ:(少し笑う)うーん……まぁね。よくある話だよ。僕としては「ああ、僕たちにも”その時”が来ているのか……」という感じだった。

デイヴィッド・ラヴァリング
ー今回の来日を記念して、最初の4枚のアルバムが日本でリイシューされます(※詳細はこちら)。いずれも名盤なので、これまでに何回も再発されてきていますが、個人的に興味深いのは、SACDやBlu-ray Audioといった高音質メディアで、サラウンド・ミックスまで施されて再発されてきたことです。以前、4AD社長サイモン・ハリデイにインタビューした時「そういった高音質メディアでの再発は、レーベル側でなく、アーティストからの希望で行なっている」と話していました。実際にピクシーズから高音質メディアでの再発を要望したのでしょうか? メンバーで1番のオーディオマニアは誰ですか?
ジョーイ:(笑)僕は自分のことをちょっとオーディオマニアだとは思っているよ。ヴァイナルが好きなんだ。ただ、曲を聴くのにベストなのはCDだね。CDが一番いい。パンチが効いた音がするし。しかも高品質で聴けるというのはいいことだ。僕たちがスタジオでレコーディングするときに聴いているのが高品質な音だからね。

最新作でのチャレンジ、『ファイト・クラブ』について
ー最新作『The Night the Zombies Came』についても、いくつか質問します。前作『Doggerel』から、あなたの名前がライターとしてクレジットされるようになりました。作詞の部分でも貢献するようになり、今作ではさらに役割が増したとのことですが、チャールズから作詞を任されるようになったきっかけなどは何かあったのでしょうか?
ジョーイ:わからないよ! あいつに訊いてくれないと(笑)。僕にはまったく見当もつかないというか、むしろ驚いたんだから。「おまえ、本当に僕に書かせたいのか?」ってさ(笑)。僕が最初に書いたのは『Doggerel』の「Pagan Man」だった。楽しかったよ。それからもう1曲書いたんだ(「Dregs Of The Wine」)。作業はパズルみたいな感じだよ。あいつが何か、言葉にならないような不明瞭な感じでブツブツ言ってるのを聴いて、それに近い言葉を探すんだ。空に浮かんでいる雲を見て「あ、馬が見える!」と閃くような感じ。あれと同じで、あいつのつぶやきに単語を当てはめて「こんな感じに聞こえるな」と考えて、意味のあるものにしていくんだ。
ー新作では「Hypnotised」と「I Hear You Mary」に、あなたの名前がクレジットされています。これらの曲がどのようにして出来上がっていったのか、ライティング・プロセスを教えてください。
ジョーイ:「I Hear You Mary」は、コロナ禍中に書いたんだ。アコースティック・ギターを引っ張り出してきてね。滅多にやらないことなんだけど。で、特にどうするつもりもなく、なんとはなしに弾き始めた。そしたら、その様子をガールフレンドがこっそり録音していてね(笑)。僕がギターを下ろして「うーん、今のはお粗末だったな」なんて思っていたら、「そんなことないわよ」と言って録音を聴かせてくれたんだ。「なんだ、いいじゃないか!」と思って、それでメンバーにプレゼンしたんだ。
ードラマーのデイヴィッド・ラヴァリングが、最新作の収録曲「Mercy Me」と「Jane (The Night of the Zombies Came)」を、これまでのピクシーズのサウンドとは異なる代表例として挙げ、特に「Mercy Me」について、「より伝統的なタイプの曲で、最初に聴いた時は驚いたが、大好きな曲だ」と発言していました。あなたは、この意見についてどう思いますか?
ジョーイ:わかるよ。僕もその2曲をプレイするのが好きだ。特に「Mercy Me」をやるのが好きだね。あのギター・パートとか。


ーさて、トム・ダルゲティをプロデューサーに迎えるようになって4作目、ということになりました。彼とはとてもうまくいっているようですね。トムの仕事ぶりについてと、かつてピクシーズの専任プロデューサーだった印象のあるギル・ノートンとの違いなどに関しても聞かせてください。
ジョーイ:トムとギルは、各メンバーの扱い方を心得ているという意味では似ている。僕には「こういう風に扱ってほしい」という、こだわりがあるんだ(笑)。トムはそれを解ってくれている。音についても、僕の好みを細かく熟知してくれているんだよ。
ー日本には「かゆいところに手が届く」という表現があるんですが、そういう人なんですね。
ジョーイ:そう!そう! まさにそういう人だよ(笑)。
ーところで、自分たちの作品以外で、最近よく聴いているお気に入りの音楽は何か教えてください。
ジョーイ:自分の音楽なんて聴かないよ!(笑)他人の音楽を聴くんだ。そうだなあ、僕も歳をとってきたからか、過去を掘り下げて聴くことの方が多いね。新しい音楽は多様すぎてわからないんだ。今はアート・ブレイキーや、ビル・エヴァンスとか。それから…そうだなあ…(と言いながらスマホを取り出す)…今自分のプレイリストを見てるんだけど…これだ! ゲイリー・ニューマンのアルバム(と言ってジャケット写真を見せる)、『Tubeway Army』。とてもいいアルバムだよ。僕が最近読んだ本(※おそらくフィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』)を基に書かれたアルバムなんだ。ジャケットが白黒のやつさ。
ー一方、ピクシーズも90年代以降の音楽シーンに絶大な影響を与えてきたわけですが、日頃「あ、この人たちは自分たちの影響を受けているな」という若いバンドを耳にする機会もあるのではないでしょうか。そういう時はどんな気持ちになりますか?
ジョーイ:自分たちの影響を受けているらしいバンドの音を耳にすると嬉しく思うよ。音楽シーンの一部を担えるくらいには、僕たちも長い間いるからね。僕たち自身も、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ストゥージズ、そういった面々に影響を受けてやってきたわけだし、ピクシーズも、誰かが音楽を追求するインスピレーションになっているとしたら嬉しい。バトンは常に渡され続けているんだ。
ーちなみに、2017年にメルヴィンズの『A Walk with Love & Death』というアルバムにゲスト参加していましたよね。どういう経緯で、彼らと縁ができたのか、現場はどんなレコーディングだったのかを教えてください。
ジョーイ:僕たちがどう出会ったかって? 偶然ゴルフ練習場で会ったんだよ。信じられないだろう?(笑)そこで仲良くなって、色んな共通点があることもわかったんだ。ちょうどその頃、彼らはアルバムを作っていて、「うちに来てレコーディングしよう」と誘ってくれた。それで、いくつか一緒にレコーディングしたんだ。と言っても、彼らはどの曲に僕を入れたのかわかっていないんだよ。僕自身もわかってない(笑)。ただひたすらプレイしているところを録音しただけだからね。
ー出来上がった音を聴いても、「これ、僕がやったのか?」みたいな感じ?
ジョーイ:というか、自分が何をやったのかがわからないんだ(笑)。

ー(笑)では最後に、一度あなたに訊いてみたかった質問をさせてください。デイヴィッド・フィンチャー監督の名作映画『ファイト・クラブ』で、ピクシーズの「Where Is My Mind?」が流れるラスト・シーンは非常に有名ですが、ご覧になった時、どのような感想を持ちましたか?
ジョーイ:それは話しちゃいけないことになってる。
ーえっ?
ジョーイ:それが『ファイト・クラブ』の第1ルールなんだ……って、ジョークだよ!(笑)
ー(苦笑)
ジョーイ:あの映画は最高だった! 僕たちの曲の使われどころもパーフェクトだったね。というのも、スコアの大半はエレクトロニックで……誰が作ったかは忘れてしまったけど(※ダスト・ブラザーズ)そのスコアも好きだった。で、爆発のシーンでは僕たちの曲のアコースティック・ギターが鳴り響いたんだ。そうくるか!と感心したね。世界が変わろうとしている様子を効果的に表現していたと思うよ。

ピクシーズ 来日公演
2025年11月2日(日)大阪 Gorilla Hall Osaka *SOLD OUT!
2025年11月4日(火)東京 EX Theater Roppongi
2025年11月5日(水)東京 EX Theater Roppongi *残りわずか
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/pixies25/

ピクシーズ初期名盤4タイトル
日本語帯付きLP/国内仕様盤CDリイシュー
『Surfer Rosa』
『Doolittle』
『Bossanova』
『Trompe Le Monde』
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15404