いよいよ目前に迫ったオアシス16年ぶりの来日公演。なぜ今回のワールドツアーが日本でここまで話題になっているのかというと、それは単に世界的なロックバンドが待望の復活を果たしたからというだけでなく、国内の音楽シーンへの多大なる影響が背景にあると言っていいだろう。
本稿では1990年代・2000年代・2010年代・2020年代と時代を区切って、オアシスに影響を受けた日本のアーティストや楽曲を具体的に紹介しながら、その受容の歴史を追ってみたい。

本記事で言及されている楽曲をまとめたプレイリスト

90s

衝撃のデビュー作となった『Definitely Maybe』(1994年)、バンドを世界のトップへと押し上げた『(Whats the Story) Morning Glory?』(1995年)、極限まで高まった期待にスケールを増したビッグなサウンドで応えてみせた『Be Here Now』(1997年)。この3作にリアルタイムで魅了された年代のバンドマンたちは、作曲やサウンドメイク、さらにはビジュアルに至るまで、オアシスから直接的な影響を受けた。

1stアルバム『SMILE-GO-ROUND』のアートワークからしてUKを感じさせたSMILE、ビートルズの初代ドラマーの名前に由来するバンド名を持つthe PeteBest、「かなしみ」で「Hello」をオマージュしたホフディランあたりはまさに直撃世代。デビュー当時ははっぴいえんど的なフォークを鳴らしたサニーデイ・サービスも徐々にオアシスをはじめとする同時代のUKロックへと傾倒し、『愛と笑いの夜』(1997年)では「白い恋人」や「サマー・ソルジャー」といった名曲が誕生した。俳優の柏原崇・収史兄弟らで結成され、1998年に「Another World」でデビューしたNowhereはまさにオアシスがいなければ生まれなかったバンドだろう。

数多くのフォロワーが現れた1990年代の中でも、特に印象的だったのがthe pillows。『Please Mr. Lostman』(1997)はビートルズもカバーしたマーヴェレッツの「Please Mr. Postman」をもじっていて、このアルバムのタイトルトラックもオアシス的な雰囲気があるが、同年にシングルでリリースされた「ONE LIFE」は明確に「Dont Look Back In Anger」をオマージュした一曲で、山中さわおのオアシス愛が伝わってくる。なお、2000年のオアシス来日公演の際には、こちらもUKロック直系だったNORTHERN BRIGHTがオープニングアクトを務めていて、2008年のオアシスの来日時はthe pillowsにオープニングアクトの依頼があったが、「断った方がネタになる」と出演しなかったというのはファンには有名なエピソードとなっている。

見た目も含めてオアシスっぽいバンドが大勢いた中にあって、オアシスからの影響を消化して、J-POPとして大ヒットさせたのが女性ボーカルのthe brilliant greenだったというのは今振り返ると面白い。1stアルバムにしてミリオンセラーを記録した『the brilliant green』(1998)に収録の「There will be love there -愛のある場所-」と「冷たい花」はともにシングルとしてオリコン1位を獲得し、前者は「Dont Look Back In Anger」、後者は「Slide Away」からの影響が感じられる。

また、GLAYのTAKUROは以前からオアシスのファンであることを公言していて、1997年の特大ヒットである「HOWEVER」にも、the brilliant greenほど明確ではないもののオアシスの影を感じることができる。
なお、2011年にリリースした『rare collectives vol.4』には「Dont Look Back In Anger」のカバーが収録されていた。

00s

2000年代に入ると、下北沢のライブハウスを拠点とするバンドが次々とメジャーデビューをして、「下北沢ギターロック」の一大ブームが起こる。そのバンドの多くが1990年代の洋楽に、ニルヴァーナ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、レディオヘッドなどに影響を受けていたが、もちろんオアシスの影響も大きく、その筆頭がASIAN KUNG-FU GENERATION。『君繋ファイブエム』(2003年)収録の「E」で「Live Forever」のギターソロを引用しているのは有名だし、『ソルファ』(2004年)収録の「海岸通り」は後藤自身がXで「『Cast No Shadow』と『Whatever』と(ウィーザーの)『Only in Dreams』的な」とポストしてもいる。また、2013年にリリースされたシングル「今を生きて」は「Stay Young」の、今年リリースの「MAKUAKE」がくしゃみで始まるのも「Wonderwall」が咳払いで始まることのオマージュなのだろう。

「下北沢ギターロック」勢でもう一組、オアシス好きを隠さないのがSyrup 16g。2004年に発表したシングル「I・N・M」は「Supersonic」の名フレーズ〈I need to be myself〉の意味で、2008年に日本武道館で行われた解散ライブのタイトルはズバリ「LIVE FOREVER」。後に再結成を果たし、今も唯一無二のバンドとして生き続けているのはオアシスの精神性を体現していると言えよう。下北時代の盟友であるBUMP OF CHICKENが2005年にリリースしたシングル「supernova」も、タイトルと合唱がオアシスをイメージさせる。また、この時代のバンドでは2005年に『Thank you, Beatles』と『I Love Rock n Roll』の連作でメジャーデビューをした髭(HiGE)もオアシス的な雰囲気を感じさせる存在だった。

1990年代半ば以降のCDショップ文化、さらには2000年代に入ってブロードバンド化が進行したインターネットによって、この頃は音楽の情報量が増加し、さらに制作環境においてはPro Toolsも一般的になっていくことで、バンド形態でありながら様々なジャンルを横断するアーティストが増えてきた。青森から登場したSUPERCARはデビューアルバム『スリーアウトチェンジ』(1998年)で1990年代の英米のロックを消化したのち、徐々にトランシーなダンスミュージックへと接近していくが、初期に生まれた「PLANET」や「Love Forever」の煌めきは色褪せない。
オアシスの再結成を受けて、いしわたり淳治は「私の音楽人生はオアシスと共に歩んできたようなもの」と語り彼が新しく対訳した日本語字幕付きのミュージックビデオも公開されている。

SUPERCARと同時代の盟友であるくるりも、もともとUKロック好きで知られ、ザ・フーやザ・ローリング・ストーンズらも含めてオマージュを感じさせる曲は多いが、「Champagne Supernova」がタイトルのモチーフであろう「WORLDS END SUPERNOVA」がハウスナンバーであるということがくるりの特異な存在感を、もしくは2000年代前半特有のエクレクティックな空気感を表していると言ってもいいかもしれない。もちろん、〈お願いRadio from U.K. Oasis Blur Supergrass Happy Mondays〉と歌う「everybody feels the same」もあるし、「Remember me」の「Whatever」感、岸田繁が「一番好き」とコメントしている「Shes Electric」をオマージュしたであろう「キャメル」からも、確かなオアシス愛が伝わってくるというもの。今年リリースの最新曲「ワンダリング」でも歌詞に〈Definitely/Maybe〉が用いられていた。

岸田繁(くるり)×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のオアシス対談

2000年代後半になると、その名も「THE MASTER PLAN」(オアシスのB面集のタイトル)という名前でオアシスのコピバンをやっていたというBase Ball Bearが出てきたり、彼らの盟友であるサカナクションが「フクロウ」で「Wonderwall」をオマージュしていたりという広がりがありつつ、思い出深いのは初期のチャットモンチー。『耳鳴り』(2006年)収録の「ひとりだけ」は「Champagne Supernova」、『生命力』(2007年)収録の「バスロマンス」は「Some Might Say」からの影響が感じられた。この頃プロデュースを担当していたのがSUPERCAR解散後のいしわたり淳治であり、彼のオアシス愛はここでも爆発していたと言える。

10s

2009年のオアシス解散が契機だったかどうかは定かではないが、2010年代に入ると英米では徐々にロックバンドの勢いに翳りが見え、ラッパーやR&Bのアーティストが時代の顔となっていく。しかし、日本においてはフェス文化の一般化も含めてロックバンド人気は衰えることを知らず、中でもリアム・ギャラガーからロックンロールスターとしての精神性を受け継いだバンドの活躍が目立った。その象徴が[Alexandros]であり、前身のバンド名[Champagne]はもちろん「Champagne Supernova」から取ったもの。川上洋平は『(Whats the Story)Morning Glory?』について、「最初から最後まで完璧なアルバム」と語り、2013年発表の「Forever Young」は「Live Forever」+「I Hope, I Think, I Know」といった感じのオマージュ曲だ。

オアシスのロックスター精神を受け継ぐフロントマンとしては、SuchmosYONCEも外せない。
音楽的にはもともとアシッドジャズやネオソウルを基調としながら、他のブラックミュージックを主体とするバンドよりもSuchmosが頭一つ抜けた成功を収め、スタジアムバンドになったのは間違いなくYONCEの存在があってこそ。名曲「MINT」に関しては、オアシスの「Live At City Of Manchester Stadium」のライブ映像に影響され、スケールの大きい楽曲を目指したというエピソードもある。また、King Gnuの常田大希はかつてインタビューで「超好きな曲」として「Live Forever」を挙げ、オアシスがこの曲を本国で演奏しているときの若者の熱狂を見て、「俺らは俺らのコミュニティであれを目指さなきゃいけない」と語っている

もう一組、自らを「ロックスター」と自称し、2010年代からオアシスへの愛を隠すことなく活動を続けているのがマカロニえんぴつのはっとりだ。そもそもUNICORNの大ファンで、彼らの名作から「はっとり」という名前にしたというエピソードもあるように、はっとりの行動原理には常に「憧れ」がある。だからこそ、「青春と一瞬」や「恋人ごっこ」では「Whatever」風のストリングスを使っているし、ノエル・ギャラガーと同じチェリーレッドのES-355を持って、「春の嵐」のアウトロで「Champagne Supernova」のギターソロを弾いてみせる。なお、はっとりはすでにオアシスの再結成公演をイギリスに観に行ったそうで、その興奮をSNSに投稿している

20s

2020年代に入っても様々なオマージュやカバーが生まれているが、PUNPEEが兄弟でコラボした「Wonder Wall feat. 5lack」はコンセプトからして明確な名オマージュ。この曲から5年越しで、今年の11月に初の兄弟ツーマンが決定したのも、オアシス再結成を受けてのものかもしれない。また、かねてよりUKロック好きを公言し、2022年にNHKの「The Covers」で「Let There Be Love」をカバーしたmiletは、昨年に日本初の公式カバーとして、THE SPELLBOUNDらとともに「Live Forever」をカバー。同じくUKロック好きのGLIM SPANKYが2020年リリースの『Walking On Fire』のイントロダクションとして、『Standing On The Shoulder Of Giants』(2000年)のイントロ的なインスト「Fuckin in the Bushes」をオマージュしているのも渋い。

Mrs. GREEN APPLEや羊文学、Saucy Dogといったバンドのメンバーもオアシスへの愛を公言している中、近年のJ-POPシーンにおいて最も話題となったのがVaundyの『replica』(2023年)に収録されていた「ZERO」だろう。
今もYouTube上に音楽学校時代に弾き語りでカバーした「Dont Look Back In Anger」の音源が残っているように、もともとVaundyはオアシスをはじめとしたUKロックへの愛情を持っているが、「ZERO」ではリアムのようながなりと『Be Here Now』期に通じるビッグなサウンドを披露。これはアルバムタイトルにも明確に示されているように、「オリジナルはレプリカの来歴から生まれる」というメッセージを体現するものだ。

オアシスというバンドもまた、デビュー当時はビートルズの模倣品と揶揄されたバンドであった。しかし、それでも彼らのビートルズに対する愛情と尊敬は揺らぐことなく、ジョージ・ハリスンの『Wonderwall Music』から「Wonderwall」という曲名を拝借し、「Dont Look Back In Anger」の歌詞にジョン・レノンの言葉を忍ばせ、ライブでは「I Am the Walrus」を演奏し続けることで、いつしか唯一無二のロックバンドとなり、世界中に影響を与える存在になっていった。オアシスを聴くということは、こうしたバンド文化の、音楽文化の歴史に流れる大河を感じるということであり、だからこそ誰もがオアシスの真似をしたくなる。〈I need to be myself〉とは、自らの愛するものをひたすらに追い求め、それを受け継いでいくということなのだ。

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〈I need to be myself〉(俺は俺でなきゃならない)という歌い出しのオアシス「Supersonic」日本語字幕付きMV(歌詞翻訳:いしわたり淳治)

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