アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のインディーロックデュオ、PACIFICA(パシフィカ)。ザ・ストロークスに衝撃を受けた2人が、内省と衝動を詰め込んだ新作『In Your Face!』で、自分たちのリアルを鳴らす。
9月には新曲「Just No Fun」を発表し、12月には東京・大阪での初来日公演を敢行。磨かれたメロディの奥には、自由な精神とロックへの誠実な愛が息づいている。Inés Adam(イネス・アダム)とMartina Nintzel(マルティナ・ニンツェル)がメールインタビューに応じてくれた。

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ーニューアルバム『In Your Face!』というタイトルには強い自己主張を感じます。この言葉に込めた意味や、今作で伝えたかったメッセージを教えてください。

『In Your Face!』の制作はすごく内省的なプロセスでした。アルバム名はタイトル曲から取っているんですが、その曲は「誇り」と「自己主張の模索」について歌っています。うまくいかない部分もあるけど、必死に掴もうとしていて――それをどこかユーモラスに描いているんです。

アルバム全体としては、衝動的な部分がテーマになっています。その瞬間に感じたことを、そのまま自信を持って言葉にする。たとえ次の瞬間に気持ちが変わってしまうとしても、それを恐れずに表現する。全体を通して、そういう矛盾した人間らしさが出ていると思います。


ー今作を制作するうえで、音楽的にも精神的にも一番挑戦した点は何でしたか?

このアルバムで最も大きな挑戦だったのは、自分たちをさらけ出すことを許すことでした。前作『Freak Scene』では、どちらかというと架空のシチュエーションの中に身を置いて表現していたんです。それはそれで良い方法でしたし、当時はまだメンバー同士の関係も浅かったので、ちょうど良かったと思います。

ただ今作では、もう少し自伝的で、パーソナルな作品にしたいという思いがありました。レコーディングの大部分はイギリスでの3週間で行いましたが、その後アルゼンチンでも制作を続けました。理想とするサウンドを見つけるまでには時間がかかりましたが、その分じっくりと向き合えたと思いますし、時間をかけたからこそ納得のいく仕上がりになったと感じています。

ー楽曲制作はどのように進めていますか? InésさんとMartinaさん、それぞれの得意分野や役割分担について教えてください。

このアルバムでは、特に全ての曲をギターとベースを持ってどこかに座り、”思いついたことをとにかく吐き出す”というスタイルで作っていきました。どちらかが歌詞のアイデアやリフ、コード進行を持ってきたら、それをきっかけに広げていくような感じでしたね。

歌詞は何度も書き換えましたし、面白いことに、当時はあまり意味が通っていなかった言葉が、後になって現実の出来事を象徴するようなものになっていたこともあって、まるで、これから起こることを無意識に書いていたみたいで不思議でした。

”抜け出せない影響”──ザ・ストロークスが与えた永遠のインスピレーション

ーザ・ストロークスへの共通の愛がバンド結成のきっかけだったと伺いました。彼らの音楽のどんな部分に惹かれ、自分たちのスタイルにどのような影響を与えましたか?

ザ・ストロークスは、私たちの人生の中でとても大きな存在です。
昔から――そして今でも――本当に大ファンなんです。言葉にするのは難しいんですけど、10代の頃に誰かが彼らの曲を聴かせてくれたときのあの衝撃って、やっぱり特別なんですよね。メロディやサウンド、そしてあの力の抜けた格好良さが全部合わさった感覚というか。

その影響は今でも強くて、私たちはよく「ザ・ストロークスの影響から完全に抜け出すことは、たぶん一生ないね」なんて話しています。それくらい彼らの音楽は自分たちの中に深く刻み込まれているんです。とはいえ、今作ではその枠を少し超えて、もっと幅広いインスピレーションを取り入れることも意識しました。

ーレコーディングで意識したのは”完成度”よりも”ライブ感”や”粗さ”だったとも感じます。サウンド面で生々しさを残すために工夫したことはありますか?

あります。最初の段階では、もっと大きくて複雑な作品を作ろうとしていたんです。前作からガラッとサウンドを変えたくて、全曲にキーボードのアレンジを入れたり、ギターの音もよりクリーンにしてみたり。でも、録音したものを聴き返してみたら、「あ、これは違うな」と気づいたんですよね。

そこから思い切って色んな要素を削ぎ落として、より原点に立ち返る形にしました。
もちろん、実験的な試みは楽しかったですし、いくつかのアレンジは最終的にも残っています。でもやっぱり、私たちの核にあるのは”ライブバンド”であることなんです。

ー使用機材についても教えてください。お気に入りのギター/ベース、エフェクト、アンプ、マイクなど、今作の”音の個性”を作るうえで欠かせなかったものは?

実は、ほとんどのギタートラックに90年代の日本製Fender Jazzmaster を使ったんです。このギター音が本当に気に入っていて、プロデューサーのピートの所有なんですが、あまりにも良かったので「譲ってもらえない?」って頼んだくらいです(笑)。でも彼もそのギター音が大好きで、譲ってもらえませんでした。

ベースは、同じく90年代の MustangとPrecision(American Precision)を曲によって使い分けました。あと、ベースとギターのサウンド作りには WavesのCLAシリーズをよく使っています。とても優秀なプラグインなんですよ。それから、イギリスに行く直前に Hologram ElectronicsのChroma Consoleというペダルを購入して、多くのトラックで使用しました。ピートが持っていたお気に入りのペダルの中には、もうひとつ日本製のものもあって、BOSS のピンクのコーラス・ペダル、DC-3 Digital Dimension。これもすごく気に入っていて、12月に日本でライブをするときに手に入れようかなと思っています。


ー歌詞面では、社会や自分自身に対する感情を率直に描いている印象があります。英語詞という選択の理由、そして”アルゼンチン出身の自分たち”という意識がどんな形で反映されていますか?

私たちアルゼンチン人の特徴のひとつは、とにかく情熱的だということ。その情熱が、先ほど話に出た率直な表現にも自然と表れているのかもしれません。英語で曲を書くことについては、特に深い理由があるわけではなく、自然な流れでそうなりました。というのも、私たちが影響を受けてきたほとんどのアーティストも英語で歌っていたんですよね。ただこれはあくまで一つの選択肢であって、固定されたルールではありません。いつか他の言語でも曲を書いてみたいと思っています。

ー先行シングル「What You Doing」「Fixer Upper」「Just No Fun」はそれぞれ異なる側面を持っています。アルバム全体を通じて、”今のPACIFICAを象徴する”曲を挙げるならどれですか?

選ぶとしたら「What You Doing」だと思います。この曲には、アルバム全体を特徴づけるエネルギーとストレートさがしっかり表れているんです。ファーストシングルとしても迷わず選べました。それに、ライブで演奏するのもすごく楽しいんですよ。


ーあなたたちはしばしば”新世代インディーロック・デュオ”と評されます。自分たちの中で”インディーロック”とはどういう価値観や態度を意味しますか?

私たちのロックサウンド以外で言うと、インディーロックであることって、体験に近い感覚だと思っています。私たちは小さなチームで動いていて、そのサポートが本当に助けになっています。考え方としては、とにかくチャンスにはまず「イエス」と答える。どう実現するかは後で考える。そして実現するまで頭をフル回転させる、みたいな(笑)。

アルゼンチン発ロックデュオ・PACIFICA、『In Your Face!』で語る“本音と進化”

Photo by Jaxon Whittington

アルゼンチンから世界へ──”DIY精神”とファンへの愛

ーアルゼンチンの若い世代の中で、インディーやオルタナティブ・ロックはどのように受け止められていますか? 自国のシーンで感じる変化があれば教えてください。

ここ数年で、アルゼンチンのシーンでもインディーバンドが少しずつ増えてきたのを感じています。まだまだ大衆的なジャンルではありませんが、それでも多くの人が面白くて新しい音楽を作っていて、とてもワクワクします。

ーLollapalooza Argentinaに出演された経験は、バンドにどんな影響を与えましたか? 巨大フェスの中で”インディーバンド”としてどう存在感を示そうと考えましたか?

Lollapaloozaに出演できたのは、本当に夢が叶った瞬間でした。私たちは2人とも熱心な観客だったので、こんなに早くメインステージに立てるなんて、正直信じられない気持ちでした。ステージでどうやって印象を残すか、けっこう考えたんですが、最終的に2人で馬の着ぐるみに入って登場することにしたんです。
私たちにとってはめちゃくちゃ楽しかったです。残念ながらスクリーンには映らなかったので、ほとんどの人には気づかれなかったと思いますが、それもまた思い出深い経験になりました。

ーマネスキンのオープニングアクトとしての経験も話題になりました。彼らのようにロックをメインストリームへ再び押し上げるバンドの姿をどう見ていますか? そしてPACIFICAはどんな形で”今のロック”をアップデートしたいですか?

マネスキンのライブを観れたのは、私たちにとってとても刺激的な体験でした。彼らのステージプレゼンスは本当に素晴らしいです。オリヴィア・ロドリゴのようなアーティストや、彼らのようなバンドがロックに再びスポットライトを当ててくれるのは、私たちもすごく嬉しいです。私たちはまだ「ロックの歴史を変えなきゃ」とは思っていません。今はただ、その一部でいられることを楽しんでいます。むしろ私たちにとって大切なのは、ジャンルを革新することよりも、ロックをしっかりと守っていくことだと思うんです。

ーインディーロックの根底にある”DIY精神”や”コミュニティ感”を、今後グローバル展開していく中でどう保ちたいと考えていますか?

私たちはファンのみんなのことが大好きで、毎回ライブの後にはできるだけ全員に挨拶しに行くようにしています。ここまで来られたのは、本当にファンの皆さんのサポートがあってこそで、オンラインで応援してくれている皆さんなしではあり得ませんでした。だから、実際に会いに行って演奏できる機会があると、オンライン上の存在が目の前のリアルな人たちに変わる瞬間になって、とても特別な気持ちになります。この瞬間を、私たちは何よりも大切にしています。

ー世界的なインディー・シーンの中で、今あなたたちが刺激を受けているアーティストや同世代のバンドを教えてください。

最近気に入って聴いているアーティストは、Wet Leg、Djo、The Beaches です。あとは友人のベニーが最近始めたバンド、Twisted N Luvの曲「Rock The DJ」をよく一緒にジャムしています。

ー日本のインディーロック/ガレージロック・シーンについて、知っているアーティストや気になる存在はいますか?また、日本のリスナーにどのような共感を覚えましたか?

今年、Instagramでハク。(haku)を知って聴き始めたんですが、本当に素晴らしいバンドです。ほかにも SHISHAMO というバンドも気に入っています。今年驚いたのは、日本からのメッセージが急にたくさん届くようになったことです。数カ月経ってみると、日本にしっかりとしたファン層がいることに気づき、そこでライブができるチャンスにワクワクしました。最初の公演が決まったとき、マルティナが日本のリスナーと少しでもコミュニケーションできるように、日本語のレッスンを始めたんですよ。

ー12月に初来日公演が決まりました。東京2DAYS(代官山 SPACE ODD)がSOLD OUTになったというニュースを聞いたとき、どんな気持ちでしたか?

本当にびっくりしましたよ。アルゼンチンから日本は遠く、まさかこんなに愛されるとは思ってもみませんでした。ドラマーのアンディに電話したときも信じられない様子で、実際に SPACE ODD に足を踏み入れるまでは、きっと誰も完全には実感できないと思います。すでにInstagramのREELには日本旅行のアドバイスであふれていて、その情報を送るためのグループチャットを作ったくらいです。

ーセットリストや演出面で、”日本の観客に見せたいPACIFICAの姿”とはどんなものですか?

初めての日本公演ということで、できるだけ多くの曲を演奏したいと思っています。私たちは三人編成のロックショーを準備していて、とても「In Your Face」な感じになる予定です。楽しさ全開のステージになると思いますし、もしかしたら日本語で歌う曲もあるかも……?

ー日本のカルチャーや音楽シーンからインスピレーションを受けたことはありますか? 気になる日本のアーティスト、映画、ファッションなどがあれば教えてください。

2人とも村上春樹さんの小説や宮崎駿さんの映画が大好きなんです。マルティナは特に『NANA』のファン。日本のファッションも私たちにとって大きな刺激で、日本の服やヘアスタイルは Pinterest に山ほど保存しています。あとは『FRUiTS』のバックナンバーを眺めるのも大好きです。

ー日本では30~40代男性のリスナーが多いといわれていますが、その層との親和性をどう感じますか?そしてこれからどんな世代・層へ音を届けたいですか?

私たちのライブでは、その層のお客さんと出会うことが多いです。90年代や Y2K 世代のロックに対するノスタルジーを感じる方々ですね。昔、レディオヘッドやノー・ダウトのライブに行っていた人が、今は私たちのライブに来てくれると聞くと、とても嬉しくなります。また、若い世代が来てくれるのも感動的です。私たちの音楽が、誰かに楽器を手に取るきっかけになっているかもしれないと感じると、本当に大切な瞬間だと思います。

ー最後に、PACIFICAとして今後5年間で目指していることを教えてください。インディーロックという根を保ちながら、世界にどう枝を広げていきたいですか?

バンドを始めてからというもの、私たちは本当に濃密な旅を続けているんです。私たちの一番の目標は、サウンドも曲もライブも、あらゆる面で常に向上していくこと。私たちの音楽を楽しんでくれる人が増えているのを見るのは、本当に嬉しいです。これからは毎年もっとツアーを重ねて、より多くの場所に届けていく予定です。このアルバムがリリースされるのを楽しみにしていて、その後の『In Your Face!』ツアーが私たちをどこに連れて行ってくれるのか、ワクワクしています。

アルゼンチン発ロックデュオ・PACIFICA、『In Your Face!』で語る“本音と進化”

Photo by Jaxon Whittington

東京・12月8日(月)代官山 SPACE ODD [SOLD OUT!]
東京・12月9日(火)代官山 SPACE ODD [SOLD OUT!] *追加公演
大阪・12月10日(水)Music Club JANUS *追加公演
OPEN 18:00 / START 19:00 
TICKET: オールスタンディング ¥7,000(税込/別途1 ドリンク)
※未就学児入場不可
詳しくはこちら:https://www.creativeman.co.jp/event/pacifica-25/
企画・制作・招聘:クリエイティブマンプロダクション

アルゼンチン発ロックデュオ・PACIFICA、『In Your Face!』で語る“本音と進化”

PACIFICA(パシフィカ)
ニューアルバム『In Your Face!』
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