二人の持ち曲に加えて、ロック・クラシックスのカバーも予定しているというこのプロジェクトは、リリースの予定なし、敢えてライブのみに限定した活動を行なうそう。二人の原点を確認しながら、友情も確かめ合う、そんなパフォーマンスが期待できそうだ。オンライン取材ではスティーヴのマシンガントークが炸裂。負けじとマイケルも、知られざるエピソードを披露してくれた。70年代のLAでいったい何が起きていたのか……旧友二名のリアルで興味深い証言をお届けしよう。
スティーヴ・ルカサーとマイケル・ランドウ、ジェフ・バブコの共演映像(2004年)
スティーリー・ダンの衝撃
―まず二人の出会いから聞かせてください。マイケルのことを「12歳の時から知っていた」とスティーヴはよく言っていますが、どんな風に知り合ったんですか?
スティーヴ:確か、マーク・ソーンバーグ(ホーン奏者のリー・ソーンバーグ)が連れてきたんだよな?
マイケル:ああ、共通の友達がいたんだ。初めて会った日は近所のごみ収集の日だったんで、通りに各家庭のごみ箱が出してあった。それをこいつは自転車に乗って、次々と倒して回ってたんだ!
スティーヴ:俺は優等生だったんでね。
マイケル:それを見て「こいつと仲良くならなきゃ!」と思った。
スティーヴ:(笑)
マイケル:もちろん、それ以前から、ギターがすごい上手いやつだってことも知ってたし……。
スティーヴ:やめてくれよ。俺たち、本当に若い頃からギターを弾いてたから、周りに同い年くらいのミュージシャンは他にほとんどいなかったんだ。タイプは違っていたけど、二人とも、持って生まれた才能みたいなもんがあったんだと思う。スピリチュアルな言い方をすれば、何度も前世で一緒の人生を生きてきたんじゃないかと思えるくらい、会った瞬間から意気投合したよ。ところが、ギターを弾き始めたら「なんだ、こいつ。俺より上手いじゃないか! ふざけんな!」って感じでさ!
─出会った時には、もう二人ともギターを弾いてたんですね?
スティーヴ:ああ、二人とも子供の頃からギターを弾いてた。俺は小学校とか中学の時からいくつもバンドを組んでたし、マイケルも自分のバンドがあったんで、中学の頃からしょっちゅう一緒にやってたよ。気づくと、お互いのバンドでやってるって感じで…
マイケル:そう、バンドを交換し合ってね。
スティーヴ:で、高校生になって、スティーヴ・ポーカロのバンド、スティル・ライフに入り、真剣にやるようになったんだ。そのバンドが目指してたのは、スティーリー・ダンみたいなサウンドだ。その時にはスティーリー・ダンの一員だったジェフ・ポーカロとデヴィッド・ペイチが、よくリハーサルに顔を出したり、ライブに参加してくれたりしてて、それはすごく刺激になった。マイケルと俺のギタリストとしての相性はすごく良かったと思うよ。
マイケル:少なくとも僕にとって、高校時代の本当の音楽の訓練は、放課後にポーカロ家に行って演奏していたあの時間だった。あれが一番の勉強だったよ。学校が終わるのが待ちきれなかった。
スティーヴ:俺もだ。
マイケル:そうやって、自分より年上のすごい人たちと一緒にプレイすることで、本当の意味で成長するんだ。
スティーヴ:俺たち自身も、とにかく音楽の勉強に夢中だった。スタジオ・ミュージシャンっていう選択肢があると気づいてからは特に。
マイケル:確かに。
スティーヴ:ジェフやデヴィッド・ペイチを見て「俺もああなりたい!」と思ったんだ。だって、レコードのクレジットで名前を見てたヒーローたちに会えるんだぜ。で、気づいたら、いつの間にか俺たちもそうなっていた。
マイケル:ロベン・フォード…
スティーヴ:「Dontes」とかでね。
マイケル:ここからもすぐ近くのところにあった店さ。
スティーヴ:ああ、神様のおかげで、俺たちもそこでたくさんのことを学んだよ。瞬きしてる間に、あっという間に時間が過ぎ「え、もうこんなに経ったのか!?」と思う。でも、よくよく考えてみると、決してあっという間じゃなかった。高校時代にスタートしてから──俺の場合、68歳だけど──今に至るまでには、人生本当にいろんなことがあったなと思うよ。
─スティル・ライフではスティーリー・ダンの曲をカバーしてたんですよね? やはり、彼らの登場はインパクトのある出来事でしたか?
スティーヴ:当然、あの音楽には衝撃を受けたよ。みんなしてスティーリー・ダンの大ファンだったから、彼らの曲はほぼすべてやったんじゃないか?(笑)
マイケル:『Katy Lied』の曲の多くは、リリースされる前にコピーしてたよな。
スティーヴ:そう。マイケルがデニー・ダイアスのパートを弾き、俺が(ジェフ・)”スカンク”・バクスターのパートを弾くっていうのが、当時の役割分担だった。特に理由はなかったけど、それが自然としっくりきたんだ。二人のギターがハーモニーを重ね合う時、本当にいい相性だったよ。とにかく一緒にやってて楽しかった。でも同時に、音楽の勉強も必死にしてた。ディック・グローヴ(音楽学校)で学び、どうすればスタジオ・ミュージシャンになれるか、ただそれだけに向かって頑張ってた気がする。
マイケル:この街に住んでたのは、本当にラッキーだったよ。
スティーヴ:地理的にね。
マイケル:まさにシーンのど真ん中。ジェフ・ポーカロやマイク・ポーカロと直接、演奏してたんだ。
スティーヴ:そこからデヴィッド・ペイチ、デヴィッド・フォスター、ラリー・カールトン、ジェイ・グレイドン、リー・リトナーなどと知り合っていった。
──二人はジャズ寄りのデニー・ダイアス、ロック寄りのジェフ・バクスターのように、まったく異なるタイプのギタリスト同士だったということですよね。
スティーヴ:俺はどっちかっていうとロック寄りというか、ゴムのマスクをかぶってステージを走り回ったり(笑)、膝でスライドしながらギターをかき鳴らしたり、フロントで目立つ役だった。マイケルはというと、立ったままで難しいフレーズを淡々と弾いていた。俺はフロントに立つのが好きだったし、怖くもなかったからそれで構わなかったが、実はタチが悪いのはマイケルの方さ。俺のところに来て、耳元で「お前がやって来い!」ってけしかけるんだよ。で、俺がそれを本当にやってる様子を見て、ニヤニヤしてたんだ。
マイケル:ハイヒールを履いてたよね。
スティーヴ:厚底のNIKEで踊るブーンズ・ファームを見に来てくれ!
幼馴染であるお互いへのリスペクト
─一緒にプレイしていて、相手のどんなところに感心したり、これはすごいな!と思ったんでしょう。
マイケル:メロディ、リズム感、音色、フレーズの歌わせ方……。
スティーヴ:まさにお前自身のことだよ、それ。
マイケル:今に至るまで、ボズ・スキャッグスの「A Clue」でのお前のソロは、すべてを備えた完璧なソロだと思ってるよ。
スティーヴ:マジかよ、ありがとう。
マイケル:要は…メロディとフィーリング。まったく無駄がない。
スティーヴ:やめてくれよ。かつてはそうだったかもしれないが……。
マイケル:真実を語ってるだけさ。
スティーヴ:じゃあ、俺も真実を語ろう。マイケルの演奏を聴いた時には、マジでど肝を抜かれた! 俺はあのあたりの若い連中の中では、唯一そこそこ弾けるやつとして知られてた。そしたら突然、「もう一人、そういうやつがいる」って言うじゃないか。実際、会って演奏を聴いた瞬間の衝撃は忘れられない。「こいつ、めちゃくちゃ上手いじゃないか、信じられない!」とマジにビビったし、焦った。でも演奏だけじゃなく、人間的に本当にいいやつだとわかったんだ。
結局、俺たちは成長していく過程で、お互いの最大のサポーターになった。幼なじみだからこその、深いリスペクトと絆があるんだ。今でも、誰にも意味がわからない一言を発しては、二人して腹を抱えて笑い転げてることがよくあるよ。一気に”あの頃の自分達”に戻っちゃうんだよね。言ってみりゃあ、大きくなった子供たちさ。
今回のツアーは音楽への愛と友情に溢れた、たくさん楽しんで、たくさん笑う、そんなツアーだ。でも音楽自体は真剣だし、毎晩、ステージでは魔法が生まれるだろう。だって全員の演奏レベルは別次元だし、頭がぶっ飛びそうに凄いミュージシャンばかりだから。
─その後それぞれの道に進んで忙しく働いてきた二人ですが、お互いの活動を見ていてどんなことを感じていましたか?
スティーヴ:大ファンだったよ。どんな時も、お互いを応援し合ってきた。子供の頃は、健全なライバル意識があったかもしれないが……。
マイケル:ああ、常にしのぎを削り合っていたというか。
スティーヴ:周りも「ルカサーとランドウのどっちが上手いか?」と、比較するようなことばかり書き立てた。もちろん彼の方が上手いに決まってる。
マイケル:そんなことはないさ。
スティーヴ:でも俺は気にしなかった。だって、二番手の方がより努力するものだから!(笑)
マイケル: セッションの仕事をやるようになったのは、スティーヴの方が先だったから、僕はよく推薦してもらったんだ。
スティーヴ:ジェフがいて、俺がいて……お前はその後から来たんだよ。ボズ・スキャッグスと一緒に、”新顔”って感じで。
マイケル:正直な話、スティーヴの方がスタジオ・ミュージシャンとしてやっていく準備は、僕よりもずっと出来てたと思うよ。特にあの初期の頃はね。
スティーヴ:そんなことはないよ。俺はジェフやデヴィッド・ペイチとバンドをやってたので、気づいたらそこにいたんだ。きっかけになったのは77年のボズのツアーだ。あれで世界が広がり、セッションの仕事が次々と入るようになった。お前はボズのバンドに入り、ジェフとかみんなが「ランドウがすごい!」と大騒ぎし始めて……。で、お前が(セッションの世界に)入ってきて、二人でやるようになった。っていうか、みんなに十分行き渡るだけの仕事量があったんだよな、あの頃は。
マイケル:そうだね。
スティーヴ:だから「あいつに仕事を取られた!」とか、そういうことはなかったのさ。
マイケル:お互いに刺激し合い、いい意味でレベルを引き上げたんだと思う。
スティーヴ:俺はなんとかしがみついてるに過ぎないよ。それくらい、この男は凄いんだ。「好きなギタリストは誰?」と聞かれたら、いつだって「マイケル・ランドウが一番だ」と答えるよ。俺にすごく優しいんだ。だって俺に残されたのは3カ月の命なんで……。
マイケル:おい、何言ってる?
スティーヴ:ガハハハ。嘘はまずいな。俺の年齢になると、まんざら嘘でもなくなるからな。
Boones Farmとは?
─そうですね、縁起でもないです。ところで今回、二人でこのプロジェクトをやろうと思ったきっかけは?
マイケル:もう20年くらい前から、いつか日本でサイドプロジェクトをやろうと話してたんだ。でもお互い仕事が忙しくて、気づいたら今に至ってたってことだ。でもずっと、何か一緒にやりたいと思ってたよ。
スティーヴ:俺もさ。あとはそのチャンスを見つけられるかだけだった。で、今回はたまたまお互いのスケジュールがうまく空いてやれることになった。
─”Boones Farm”というグループ名の由来は? 安価なワインのメーカーですよね、ブーンズ・ファームって。
スティーヴ:本当の話をしようか。まだ10代の頃、友達にヒゲを蓄えてて、ちょっとだけ大人に見えるやつがいてね。そいつが酒屋に行って、ブーンズ・ファームのStrawberry Hillというワインを全員分買ってきてくれて……マイケルと俺、あと何人かの仲間で、家の裏の丘に登り、それを飲みながら夢を語り合ってたんだ。
マイケル:大きな夢をね。
スティーヴ:14歳のガキがブーンズ・ファームを片手に、半分酔っ払いながら未来を語り合ってたんだ。「お前が最高だ」「いやお前のほうが最高だ!」「俺たち絶対にギターで世界のトップに立ってやる!」と。そう考えると、俺たちはラッキーだったとしか言いようがない。だって、音楽だけでこれまでもずっとキャリアを築いてこれたんだから。
マイケル:本当だよ。
スティーヴ:今の時代、音楽の寿命はあっという間だ。キャリアも「はい、次!」とほんの一瞬。コンピューターさえあれば、誰でも曲が書けて、犬だってリードシンガーになれる。なんだって直せる時代だ。でも俺たちはオールドスクールだ。床に座って、全員で、納得いくまで一緒にプレイをする。「あそこを後で直そう」なんていう発想すらなかった。上手くなきゃ、音楽はやれないんだと思ってたからね(笑)。
マイケル:つまりブーンズ・ファームというグループ名は、僕らが大きな夢を語っていたあの頃へのトリビュートなんだ。
スティーヴ:俺たちの原点を思い出させてくれる名前ってこと。そういう意味があるってことを、わからない人が多いんで、逆にそれもいいかなと思ってね。
マイケル:それに語呂もいいし、口にするのが楽しい名前だ。
スティーヴ:ステージでもこの話は簡単にしようと思ってる。なぜ、ブーンズ・ファームなのか……。つくづく、俺たちは素晴らしい子供時代を過ごしたと思う。世の中にはそうじゃない人もいるけれど、俺たちの近所には最高のプレイヤーが大勢いて、今でも彼らとの友情関係は続いているんだ。
─メンバーにキース・カーロック、ジェフ・バブコ、ティム・ルフェーヴルを選んだポイントを、ひとりずつ教えてください。
スティーヴ:ギグのメンバーを誰にするか、考え方は似てたんだと思う。だから「マイケル、お前は誰がいい?」って聞いたんだ。
マイケル:キース・カーロックとは去年1年間を通じて、一緒になることが多かったし、ティム・ルフェーヴルも小さなトリオでよく一緒にやってたんで、彼らがいいんじゃないかと名前を挙げた。
スティーヴ:俺も二人のことはもちろんよく知ってるし、キースに至っては、TOTOにいたこともある。『TOTO XIV』の頃だから、もう10~11年前になるかな。でもその後、スティーリー・ダンのウォルター・ベッカーにキースを引き抜かれてね。そこでシャノン・フォレストを入れたんだ。もちろん彼も素晴らしいドラマーだったよ。ウォルターとは、「お前はいくら払う?」「じゃあこっちはもっと出す!」って感じで、どちらが高いギャラを払うかの競り合いになって(苦笑)、最終的に「もういいや」と俺は手を引き、「またいつか一緒にやろうな」と言ったんだ。実際その後、ラリー・カールトンとの時にも一緒にやってる。あれがもう10年前だから、キースとやるのも久しぶりだ。楽しみだよ。
マイケル:ジェフ・バブコは……彼に世話になってないやつはいないってくらい、全員とプレイしている。
スティーヴ:最高のミュージシャンの一人だ。どんなスタイルも完璧にこなすし、音程も音色もタイム感も抜群だ。性格もめちゃくちゃ楽しい。何より、音楽を本当にわかってるやつだよ。そんな強力なメンツなので、俺もちゃんと気を引き締めて臨まなきゃ、って思ってるところさ。
マイケル:最初に名前が挙がった連中を、全員押さえられたんだよな?
スティーヴ:ああ、いわゆる第一候補だった。「ベースはどうする? 誰にする?」「こいつはどう? ティムは?」「ティム、最高だな」っていう感じで、とんとん拍子で決まっていった。マイケルと俺との会話の中で、ごく自然に決まって行ったんだ。決して”腕相撲で勝った方の意見が採用される”とかじゃなかったよ。
マーク・ジュリアナ(Dr)と演奏するジェフ・バブコとティム・ルフェーヴル
─ライブの演目はどんな感じなのでしょうか? 今言える限りでいいので教えてください。
マイケル:カバー曲は、ありきたりでないものをやると思うよ。
スティーヴ:マイケルの曲、俺のソロの曲……ガキの頃から一緒にやってきた曲、あまり知られていないジミ・ヘンドリックスの曲……。
マイケル:インプロビゼーション中心にね。
スティーヴ:2回として同じセットはない。同じ曲を演奏したとしても、同じにはならない。
マイケル:リハーサルもほとんどやらないよ。
スティーヴ:日本に発つ前日に数時間、軽くランスルーをするだろうけど、それくらいさ。
マイケル:各自が曲を覚えてきたら、あとは集まってやるだけ。その方が新鮮さを保てるからね。
─しかもこのバンドはライブを観ないと演奏を聞けない、限定的な活動に絞るそうですね。
スティーヴ:それを言い出したのは俺さ。というのも、今の時代、毎日どこへ行ってもこいつがついて回るだろ?(と、スマホを見せる)。あ、ちなみにこれ(壁紙の写真)は孫だよ(ちょうどその時、リンゴ・スターからメールが入り、返信する)。最近はどこへ行ってもカメラが向けられてて、みんなそればかりだろ? でも今回のようなジャム・バンドは何が起こるかわからない面白さがある。撮影もできない、録音もできないとなれば、そこにいるしかないんだ。その一回きりのライブが、伝説の一夜になるかもしれないって考えると、なんかいいじゃないか! まぁ、誰かに「300万ドル出すからもう一度やってくれ」と言われたら別だけどな。っていうのは冗談(笑)。
マイケル:オーディエンスにとっても、そこでしか聴けないという特別感を感じてもらえる。
スティーヴ:特別だし、二つとして同じセットはないからね。セットごとに曲を入れ替えてやるつもりさ。
─音楽ソフトが消えてサブスクリプションの世界になってしまったことに対して、ミュージシャン側からアクションを起こした面もあるのでしょうか?
スティーヴ:サブスクが悪いとは思ってないよ。また別の世界だってだけさ。俺自身、Spotifyとはいい関係だよ。まだ誰もその価値に気づいてなかった頃に、すごくいい契約を結んだからね。でも今の若い子たちも”1と0だけで出来てる音楽(=デジタル音楽)”と、本当に演奏された音楽の違いが、わかってきてるんじゃないかと思う。昔に録音された曲を聴いて「何これ? 本当に演奏してるの? すげえ」と、70~80年代の音楽を掘り起こし始めている。実際、90年代に入る前までは、音楽は本当に演奏できる人間が、同じ時間と空気の中で、同時に演奏をして作っていたんだ。
今は「良かったよ。じゃあ、また明日来てくれ!」……だろ? それじゃあ、皆で一斉に作る時の熱量はない。何百万回もやり直して、ようやく完璧になる。下手な演奏も、信じられないくらい素晴らしく聴こえるようにしてしまう。もしくは「ママがレコード契約をプレゼントしてくれたから、私テイラー・スウィフトみたいに有名になる!」って感じで。誰も「君は下手だよ」とは言わない。プロデューサーが、彼女が歌ったものをオートチューンで直して、アレサ・フランクリンみたいに聴こえさせる。そうやってライブでは実現不可能な”完璧な美と音”のパッケージを作り、ライブでやる時には自分の録音に合わせて踊るだけだ。
俺も決して歌はうまくはないけど、少しくらい音を外そうとも、本物でいたい。68歳なりにね。まだちゃんとやれてる、十分やれてると思ってるよ。そして、腕の立つ最高のプレイヤーたちに囲まれて! 悪いが、ちょっと補聴器を交換させてくれ。9歳からアンプのでかい音を聴き続けてくると、こうなるんだよ。25年間、ヘッドホンをして仕事をしてると、何度もハウリングで耳をやられる。まったく聴こえないわけじゃないんだが、聴覚にキレがなくなった。俺の性格と一緒で(笑)。
─大丈夫ですよ。このメンバーでプレイしてみた手応えはどうです? 日本ではどんなライブが見られそうでしょうか。
スティーヴ:マイケルとはずっと昔からやってるし、メンバー個別でもやってるけど、全員では一度もやったことがないんだ。当然、全員大好きな友達だが、ブーンズ・ファームとしては初めてだ。クラブという親密な空間で聴きたいと思うような曲をやるつもりさ。TOTOの曲はやらない。マイケルがジェイムス・テイラーとやってる曲もやらない。ただ、本当の意味でraw(生)な曲をやるよ。rawって言葉を使うやつらは多いけど、俺たちのrawは本物だ。リハもやり過ぎない。それでいいんだ。プレイヤー各自のレベルが高いから、腕の良さが状況に応じて発揮されるだろう。お互いがインスピレーションになってね。
マイケル:即興的なライブになるよ。気が抜けない分、集中したエキサイティングなものになるだろう。
スティーヴ:ま、でも一番大変なのは、衣装のコッドピース(ルネサンス期に流行した股間を覆う衣装)の試着だろうな。全員サイズがまちまちなんでね! ジョーク、ジョーク!
二人が惚れ込んだ新旧ギタリスト
─(笑)さて、先ほどジミ・ヘンドリックスの名前が挙がりましたが、二人にとって共通のルーツと言えるギタリストの名前を何人か挙げてもらえますか?
スティーヴ:ジェフ・ベック! ジェフはマイ・ブラザーだ。冥福を祈るよ。挙げ出したらキリがないな。昔の人? 今?
─両方OKです。
マイケル:ジョン・マクラフリン、アラン・ホールズワース……。
スティーヴ:アランの冥福も祈りたい……彼は時代を先取りしていたので、当時は誰も彼を理解できてなかった。でも100年後にはモーツァルトみたいに研究されるんだと思う。それくらい時代の先を行っていた。(トニー・ウィリアムスの)『Believe It』をディーン・コルテスの家で聴いた時の衝撃は忘れられないよ。高校を卒業した1975年の夏だった。
マイケル:ああ。あのSGの音……。
スティーヴ:エディ・ヴァン・ヘイレンとやるより前の録音だ。『Believe It』を聴きながら「どうすれば、こんなふうに弾けるんだ?」と思ってたが、実際にライブで見たら、どうりで……指がすごく長いんだよ! 彼は本当に心優しい人間で、自分では自分のことを下手なギタリストだと信じてたんだ。
アランはかなり酒が強いことで知られてた。それでマイケルと俺とで「どこまで彼についていけるか、試してみようぜ」とバーに連れてったんだよ。最高に楽しかった。何杯も飲んで、こちらはどんどん酔いが回っていくのに、アランは全然へっちゃらなんだ。
マイケル:イギリス人だからな。パブで育って大人になったんだよ。
スティーヴ:その通り。よくアランはマイケルのギグにも、俺のギグにも足を運んでくれていた。あとは誰かな……。
マイケル:ジョー・ウォルシュ。
スティーヴ:忘れられない! 1974年頃の初期のアルバムは本当に特別だった。
マイケル:スティーヴ・ハウ。
スティーヴ:イエスのハウ。それにリターン・トゥ・フォーエヴァーのアル・ディ・メオラ。大勢いすぎて、大切な誰かが絶対抜けてるな。ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、ジミ・ヘンドリックス……一番最初に好きになったギタリストは、俺の場合、ジョージ・ハリスンだった。
マイケル:エディ・ヴァン・ヘイレン。
スティーヴ:ああ、エドワードとは1978年に初めて会ったよ。まだ二人とも若かった。ヴァン・ヘイレンの1stアルバムを聴いた全員が、あのギターにぶっ飛んだ。「こいつはどうやって弾いてるんだ? どうごまかしてる? うますぎる。フェイクに違いない!」と。
─ベテランばかりでなく、スティーヴはスナーキー・パピーがお気に入りだったりしますよね。最近注目している若手のギタリストはいますか?
マイケル:ペドロ・マルティンス……。
スティーヴ:マッテオ・マンクーゾ……。
マイケル:マッテオはワンダーボーイだ。あと、ジュリアン・ラージ。若手、とは言えないかもしれないが。
スティーヴ:ジュリアン・ラージ! 彼のソロギターは凄い。
マイケル:カート・ローゼンウィンケル……。
スティーヴ:バッドアスだ! 地元で誰かいなかったかな。アンドリュー・シノウィックはすごくいいギタリストだ。
マイケル:ブルースギタリストのカーク・フレッチャーもいいね。
スティーヴ:言い忘れたが、ジョー・ボナマッサもいい友人だ。それにエリック・ジョンソン……ここまで名前を挙げたのは、皆かつて俺たちがやってたのと同じように、いろんな影響を取り込んで自分のスタイルを作ってる連中だ。ボナマッサだったらジャズ・フュージョン・レガート、というふうに。他にもアラン・ハインズ、ドゥイージル・ザッパ……すごくいい若手がいっぱい出てきてる。
中でもすごいのは女性のギタリストたちだ。マジでやばい。「女にしてはうまい」なんていう時代じゃないよ。単純にバッドアスか否か……そんなレベルなんだ。ニリ・ブロッシュ、あとアリス・クーパーとやってる彼女はなんて言ったかな?
マイケル:誰のことかわかるんだけど…(ニタ・ストラウスと思われる)
スティーヴ:ジェニファー・バトゥンも忘れちゃいけない。男だらけの世界で、初めてブレイクしたバッドアス・ギタリストといえば、彼女だった。あとは……あの若い子、ティム・ヘンソンも面白いね。
マイケル:僕の場合、若手の一番はペドロ・マルティンスかな。
スティーヴ:最後にこれだけは言いたいんだけど、今、驚くほど才能ある若手や技術のあるプレイヤーは大勢いる。でも”心に残るようないい曲”があまりないんだよ。テクニックのレベルに、楽曲も追いついてくれないと。楽器を弾けない人たちは演奏はできないが、歌えるし、曲が書ける。そういう人たちの力を引き上げて、演奏技術とうまく組み合わせれば、何かできるかもしれないと思うよ。
まあ、年寄りの戯言だと思って聞いてくれ! 俺はもうジジイなんだ、どうか年寄りをいじめないでくれ~(笑)。
ブーンズ・ファーム来日公演
featuring スティーヴ・ルカサー、マイケル・ランドウ、キース・カーロック、ジェフ・バブコ、ティム・ルフェーヴル
2026年1月12日(月・祝)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場/開演:15:00/16:00
2ndステージ 開場/開演:18:00/19:00
2026年1月13日(火)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
>>>詳細・チケット購入はこちら(大阪)
2026年1月15日(木)、16日(金)ビルボードライブ東京
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
2026年1月17日(土)・18日(日)ビルボードライブ東京
1stステージ 開場/開演:15:00/16:00
2ndステージ 開場/開演:18:00/19:00
>>>詳細・チケット購入はこちら(東京)
2026年1月20日(火)ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場/開演:16:30/17:30
2ndステージ 開場/開演:19:30/20:30
>>>詳細・チケット購入はこちら(横浜)


![VVS (初回盤) (BD) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51lAumaB-aL._SL500_.jpg)








