各々が世界中の様々な音楽に精通し、ハンドパン奏者を含む編成で心地よくも起伏に富んだサウンドを奏でる彼らは、多国籍都市のロンドンらしく英国、フランス、デンマーク、スイス出身のメンバーで構成されているのも特徴的。意外な日本のバンドの名前も連発してくる射程圏が広すぎる音楽的バックボーンや、バンドの対照的な持ち味を発揮したEP2作品について、アンソニー・ボートライト(ベース)、ヒューゴ・コッツ(ギター)、オリバー・オーバーガード(ドラム)、アンドリン・ハーグ (ハンドパン&打楽器)の4人に語ってもらった。
左からヒューゴ・コッツ(ギター)、アンソニー・ボートライト(ベース)、アンドリン・ハーグ (ハンドパン&打楽器)、オリバー・オーバーガード(ドラム)
国境/時代を越えた音楽ルーツ
―ユーフはロンドンを拠点に活動しているバンドですが、メンバーはそれぞれイギリス、フランス、スイス、デンマークと異なる国の出身であるのが特徴的です。どのようにして出会い、一緒にバンド活動を始めるようになったのですか?
アンドリン:僕たちは2017年頃、大学で出会ったんだ。ベースのアンソニーとギターのヒューゴはイギリスで育ったんだけど、ドラムのオリーとパーカッションの僕は進学のためにロンドンに移り住んで、ロンドン南西部の大学でみんなと出会ったんだよ。それで仲良くなって、一緒に遊ぶようになったんだ。バンドとして一緒にプレイする以前に、まずは友だち同士という関係性だった。ユーフのメンバーは、全員学生生活の中でそれぞれ別の音楽プロジェクトに関わっていたよ。僕自身は、世界各地の音楽をプレイする音楽コレクティヴに参加したり、インディー・ポップを少しやったりと、ジャンルを跨いで幅広い音楽をやっていた。
ヒューゴ:僕もいくつかのプロジェクトに参加していたね。Belle Roscoeという、フリートウッド・マックに影響を受けたフォークっぽい70年代風サウンドのバンドにいたことがあって、実はそのバンドでアンソニーと一緒に2週間ほどツアーしたこともあるんだ。ソウル系のプロジェクトにもいくつか参加したし、LEAPというロック・バンドにいたこともある。
オリバー:僕は大学時代は、ここにいるバンド・メンバーと一緒にやることが多かった。毎週のように新しいバンドに参加してたよ。みんな、常に新しいことに挑戦していたからね。ユーフに関して言うと、僕たちは以前からずっと仲が良かったんだけど、実際にユーフとして本格的に始動したのは2022年の終わり頃だね。それまでも、いろんな組み合わせで一緒にプレイしてはいたけど、今の4人で揃って活動するようになったのは2022年になってからなんだ。
アンソニー:僕もいろんなバンドに参加していたよ。そのひとつがモンザント・サウンド(Monzanto Sound)という名前で、大学時代の僕にとってとても大きな影響を与えてくれたプロジェクトなんだ。今でも彼らとは一緒にジャム・セッションをしたりレコードを作ったりしていて、とても楽しいよ。Teeth Machineというシューゲイズ系のバンドでも数年間プレイしていたし、いくつかセッションの仕事もやった。あの頃はロックダウンが明けたばかりの頃で、みんなが新しいことを試したり、実験的なことを色々やりたくなっていた時期だったと思うんだ。
―音楽的にはどのようなものに大きな影響を受けていますか? クルアンビンやマック・デマルコあたりはもちろんのこと、60~70年代のサイケ・ロック、フラメンコなどのスペイン音楽、ナイジェリアのアフロビートやサハラ砂漠のトゥアレグ人の音楽、中南米やタイの音楽、映画音楽など……ユーフの音楽からは様々な要素が聴き取れます。
アンドリン:すごく鋭い指摘だと思う。まったくその通りだよ。僕自身について言えば、ずっと北アフリカ(マグレブ)や中東の音楽に強く惹かれてきたんだ。物心が付いた時から、両親がそうした音楽を聴かせてくれて、人生の最初の日からずっとその世界に触れてきたような感覚さえあるよ。マグレブや中東の様々なバンドやアーティストをたくさん聴いてきたし、その影響が僕のパーカッションにも若干現れているかもしれないね。中東のプロの打楽器奏者に習ったこともあって、そこでリズムやドラムの基礎を学んだんだ。でも、僕はリズムだけの人間ではなくて、メロディにも強く惹かれるタイプなんだよね。だから、演奏する時も叩くだけではなく、あの地域の音階にもとてもインスピレーションを受けているんだ。
ヒューゴ:昨年、僕たちは『Almas Cove』『Mt. Sava』という2枚のレコードをリリースしたけれど、ギター・パートを書く際には、それぞれ違ったところから影響を受けたんだ。
ヒューゴ:一方『Mt. Sava』では、インスピレーションの源となるものはまた別に2つあった。ひとつはフランシスコ・タレガという19世紀スペインのクラシック・ギタリストで、本当に素晴らしい奏者だよ。スペイン音楽に夢中になっていた時期でもあるから、フラメンコ的な要素も少し入っているかもしれないね。それと、もうひとつ大きな影響を与えてくれたのがエンニオ・モリコーネ。彼は映画音楽の作曲家として有名で、60年代にセルジオ・レオーネ監督と組んで手がけたマカロニ・ウェスタンの音楽でも知られている。僕は、その時代の彼の作品からとても大きな刺激を受けているんだ。
オリバー:僕たち4人は常に新しい音楽を発見することに情熱を持っていて、ツアー中は長時間運転しているから、その間ずっとお互いに新しい音楽を聴かせ合ったり、新しい曲を発掘したり、あらゆるプラットフォームで音楽をチェックしたりしているよ。昨日もレコード店に行って、かっこいいアルバムを見つけて写真を撮ったりしたんだ。そうした新しい音楽を常に開拓していきたいという思いもあるし、これまで触れてきたあらゆる場所、これまで聴いてきたあらゆる音楽が僕たちのサウンドに影響をもたらしていると思う。
アンソニー:そうだね。さっきの話に続ける形になるけれど、僕たちはそれぞれいろんなジャンルの音楽をプレイしてきた経験があるからね。それに、大学にいることで、ヨーロッパ各地、世界各地のさまざまな人たちと一緒にプレイする機会に恵まれていたから。大学の内外でそうした経験を積めたこと、そして何よりロンドンという文化の坩堝(るつぼ)にいることが、僕たち全員に多大な影響を与えていると思う。そのおかげで、僕たちは音楽に対してとにかく好奇心旺盛で、とてもオープンマインドなんだ。ロンドンでもそれ以外の場所でも、新しく出てきた音楽は取り敢えずなんでも好奇心旺盛に聴いてみる。僕自身もそうで、とにかく何でも聴いて、刺激を受けて、吸収して、それを自分の表現に活かしたいという気持ちを常に持っているよ。そんな姿勢が僕たちの音楽に繋がっていると思うんだ。
―ちなみに、最近特に気に入っていたり、刺激を受けている音楽は?
ヒューゴ:僕が最近めちゃくちゃハマっているのは、MIZという日本のバンドだね。セイジュン・カトウ(加藤成順)というギタリストのバンドなんだけど、彼はMONO NO AWAREというバンドもやっていて、そのバンドのシンガーとギタリストがMIZという別のユニットもやっているんだよね。
オリバー:『Sundance Ranch』(2022年)というアルバムがすごく良いよね。僕もヒューゴも何百万回と聴いてるよ(笑)。歴史上、もっとも素晴らしいアルバムの1つだと思う。
アンソニー:そういえば、僕は10代の頃、日本のtoeが好きでよく聴いてたな。彼らは本当にクレイジーだよ。彼らはこっちでもとても有名なマス・ロック・バンドで、4月にロンドンでも公演することになっている。インストのバンドなんだけど、本当に凄い演奏をするし、プロダクションの面でもとにかく凄いんだ。
「水」と「砂漠」の姉妹作が一枚に
―そして、日本独自企画として2作品をカップリングしたCD盤でリリースされる『Alma's Cove / Mt. Sava』は、もともと”精神的な姉妹作”として並行して制作に臨んだ作品とのことです。それぞれの違いや、どんなヴィジョンをもって作り始めたのかについて改めて聞かせてください。
オリバー:最初はひとつの曲から始まったんだ。この2つの作品は、今では「Iman」と呼んでいる曲から始まったと思う。まず、その曲のアイデアが生まれて、そこから強烈な”静けさ”や”自然の感覚”が湧いてきて、その気持ちが自分たちをどこへ連れて行ってくれるのかを想像し始めた。
ヒューゴ:うん。まさに、その”精神的な姉妹作”という考え方に繋がるんだけど、『Almas Cove』は水や水域、トロピカルな雰囲気を強く表している。一方で、『Mt. Sava』はその正反対で、水の不在……つまり、砂漠のような乾いた土地を表現しているんだ。基本的なコンセプトはそのへんにあるね。
―『Alma's Cove』ではプレヴェリ渓谷、『Mt. Sava』では険しいセイント・サヴァ渓谷と、どちらもギリシャのクレタ島南部で撮影されたライブ映像が制作され、ロケーションの違いが2作品の音楽的な違いも物語っています。それぞれの撮影中のエピソードや、クレタ島南部の渓谷を撮影場所として選んだ理由についても聞かせてくれますか?
アンドリン:今回、僕たちはイギリスを拠点に活動する映像作家のトム・ユーバンクと密接に協力しながら制作を進めたんだ。彼とは以前、イギリスの森の中で撮影した『In the Sun』(2024年)のライブセッションでも一緒に仕事をしているんだけど、とても感覚の鋭い、実践的で器用な人でね。僕たちはまた自然の中でライブ・セッションを撮影したかったから、彼にどんなコンセプトで、どんな風景の中で演奏したいかを伝えたんだ。その後、トムはロケハンのために1人でクレタ島に渡って、何週間もかけて撮影に適した場所を探してくれた。見つけた候補地の写真や動画を送ったり、細かく共有してくれたりして、本当に助かったよ。僕たちは総勢10名ほどのチームで、現地に1週間滞在して、島の中にあるさまざまな表情を持つ風景を体感した。僕たちが音楽で表現しようとしていた世界観に、まさにぴったりなロケーションを見つけることができたおかげで、本当にインスピレーションに満ちた経験ができたね。
―デビューEP『In The Sun』の頃から、自然豊かな環境での野外ロケによるライブ・セッションのビデオを制作し続けているわけですが、こうした動画を撮影しようと考えたきっかけは何だったのですか?
ヒューゴ:実は、最初のEPをリリースする前からライブ・セッションをやってみようと考えていたんだ。最初のセッションは、僕の実家の庭で撮ったんだよ。その次は、イングランド南部で撮影した。どちらも映像としてはすごく良かったんだけど、音楽的にはまだまだ準備できていない気がしていてね。それから1年間、新しいEP『In The Sun』の制作に集中して、ライブもたくさんやった。そこで初めてぜひ一緒にやりたいと思っていた監督のトムに連絡してみようという話になったんだ。彼とコーヒーを飲みに行ったら、すぐにやろうと言ってくれて。僕たちが伝えたのは森の中で撮りたいことのみで、あとはお任せしますと。僕らはずっと自分たちの音楽を美しい場所で演奏してみたいと思っていたんだ。Day Sessionsの映像からも影響を受けていると思うし、(アンドリンに)君が見せてくれたセッションは何だったっけ?
アンドリン:マヌ・デラーゴ?
ヒューゴ:そうそう、マヌ・デラーゴのセッション映像だ。すごく綺麗なんだ。お互いに、屋外で撮影されたセッション映像をたくさん共有しあってきたよ。ピンク・フロイドの『ライヴ・アット・ポンペイ』のセッション映像もインスピレーションのひとつになったね。そういうものが本当にたくさんある。だから、自然の中でセッションを撮るというのは、僕たち自身もずっとやりたいと思っていたことなんだ。それが、作品の持つ世界観全体とも強く繋がると思うから。
―ところで、楽曲としては『Mt. Sava』のラストに収められた「Mesa Mesa」は、これまでになくアラブ音楽や古いサイケデリック・ロック色が濃密かつハードに出た曲調でとりわけ驚かされました。もともとライブでは、こういった重厚でラウドな曲も演奏していたのですか?
アンソニー:そうだね。僕たちのライブでは、この要素はかなり大きな部分を占めている。僕たちのショーは、ダイナミクスをとても大切にしていて、グッと盛り上がったと思えば、少し落ち着いたり、また一気に盛り上がったりするんだ。僕たちの音楽には、そうしたかなりダイナミックな流れがあるね。それに、僕たちはみんな、それぞれ違うタイプの音楽が好きだというのもあるよ。僕自身で言えば、対照的な音楽が大好きなんだ。めちゃくちゃチルなものやアンビエントだったり、もっとグルーヴ重視のものだったり、あるいはビートがガツンと来るような強い音楽だったり。とにかく、そういう幅広いコントラストがとても好きだね。
オリバー:僕も同意だよ。僕たちは本当に、幅の広さを大事にしていると思う。ステージでは、アンソニーが2分くらいひとりで”ベースの魔法”を披露するセクションもあれば、逆に「Mesa Mesa」みたいに全員が一斉に鳴らして混沌とする瞬間もある。つまり僕たちは、それこそ”旅そのもの”を創り出したいと思っているんだ。大きな盛り上がりや静けさ、色んなエネルギーが波のように押し寄せてくる体験をオーディエンスに届けたいと思っている。この間みんなで話していたんだけど、セットリストを映画を観ているかのような構成にしたいねって。いろんな展開やプロット、感情の起伏を呼び起こすような、そんな流れにしたいんだ。
多方向に開かれたアンテナと日本への関心
―では少し話が戻りますが、クルアンビンの登場以降、トルコのサイケを根底に持つアルトゥン・ギュン、オランダのYin Yin、オーストラリアのグラス・ビームスなど、非欧米圏の音楽のエッセンスを巧みに反映したバンドが台頭しています。ユーフもその流れの中に位置付けられる音楽性を持っていると思いますが、そういった傾向を示すバンドが増えていることについて、なにか感じるところはありますか?
ヒューゴ:個人的には、音楽オタクみたいなミュージシャンにスポットが当たるのはすごく良いことだと思うよ。多方向に影響の幅が拡がって、さらに様々なインスピレーションを取り込んでいけるようになるかもしれないし。世に知られていないバンドや音楽が注目を浴びるかもしれない。もしかしたら、例えばYin Yinのメンバーが世界のどこかに存在しているものすごくニッチなバンドが大好きで、その魅力を自分のオーディエンスと共有できるかもしれない。とにかく、それってすごく楽しいことだと思う。僕自身、そういうやり方で音楽の新しい一面を知ったわけだしね。
アンソニー:ミュージシャンが自分のインスピレーション源にスポットライトを当てて”自分はここから影響を受けている”と示すことはとてもクールなことだと思う。そこからその伝統に自分たちも何かを付け加えようとしたり、その音楽と対話したりしようとする。今は、ミュージシャンが自分の好きな音楽を自由に演奏しつつ、自分が多大な影響を受けた時代や音楽、愛する音楽を共有することのできる時代だと思う。それによって、もしかしたら今まで知られていなかったミュージシャンや音楽に、新たな光が当たることもある。いろんな人たちがそれを聴くきっかけになるかもしれないしね。そうした”音楽的な会話”が常に続いていて、自分たちも少しだけそこに加わったり、逆にただただ耳を傾けたりしている。それはとても謙虚な気持ちになるし、素晴らしく美しいことだと思うんだ。
―最後に。日本にも近いうちにライブのために訪れることになるのではないかと思うのですが。日本に対して持っている印象や関心のあることなどを聞かせてください。
ヒューゴ:日本には本当に素晴らしい音楽がたくさんあるからね。日本でフェスに出演して、いろんな音楽を観られたら最高だよ。僕個人としても、日本のアーティストから本当にたくさんの影響を受けてきたんだ。YMOは当然だし、彼らの周辺のミュージシャンたちにも強くインスパイアされているよ。細野晴臣も大好きだし、MIZも本当に素晴らしい。それから……。
オリバー:羊文学?
ヒューゴ:そうだ。最近ロンドンで観たって言ってたね。
アンドリン:確かアニメの主題歌もやってるよね。
ヒューゴ:実は「Canopy」のギターを書く時に、スタジオジブリは大きなインスピレーション源のひとつだった。僕はジブリ作品が大好きで、特に大きな影響を受けているから、日本に行ったらぜひジブリの美術館にも行きたいね。
オリバー:そうだね。あと、僕の理解では、日本ではアンビエント音楽が大きな文化になっていると思うんだ。すごく素敵なことだよ。僕自身、アンビエントはとても好きだし、アンソニーもアンビエントが大好きなんだよね。だから、その文化をもっと探求したり、より深く理解したいと思っているよ。イギリスには、あまりそういった文化がないからね。
アンソニー:イギリスにもアンビエント音楽があることはあるけれど、もう少しダークな感じなんだよね(笑)。でも、日本のアンビエントはもっと軽やかで ”自然”からインスピレーションを受けている感じがする。僕たちが影響を受けているものとも近いんじゃないかと思うんだ。だからこそ、日本の自然の中に身を置いて、そのエッセンスを取り込みたいね。
ユーフ
『Almas Cove / Mt. Sava』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15458


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