「満点をこえた六つ星をつけたいくらいだ!」(英ロンドン・スタンダード誌)。世界各国、辛口の批評家たちから一斉に絶賛をあつめている「ザ・メイヘム・ボール」ツアー。アメリカの有力紙では、舞台劇を表彰するトニー賞候補として検討すべきとの声もあがっている。ここ日本でも期待が高く、追加公演をふくめた6公演を完売させてみせた。
グラミー賞にて7ノミネーションを授かった最新アルバム『MAYHEM』を基調としながら、キャリア総決算と名高い本ツアー。巨大ドレスに光るチェス盤といったド派手なステージで展開される物語は、闇のガガVS光のガガとも言うべき、自分自身との闘いだ。
ショーの背景に存在するのは、ガガみずから「屈折していた」と振り返るアーティストとしての道のり。波乱万丈で紆余曲折なキャリア、その功績を振り返ろう。
ポップの常識を塗り替えたデビュー
1986年ニューヨークに生まれたレディー・ガガは、幼いころからピアノや演技の訓練を受け、ジャズコンテストやロックバンドで経験を積んだ。音楽と美術を学んだ大学を中退したのち、LGBTQ+の人々がつどうクラブシーンに受け容れられ、ポップやロックを混ぜ合わせた演劇的な作風を確立する。
2008年、ポップシーンに突如あらわれたレディー・ガガは、異色の存在だった。ヒット曲の題名どおり「ポーカー・フェイス」な神秘性をまといながら、壮大にギラついたビジュアル、従来の美のイメージを破壊するかのごとき個性──もはや宇宙人説が流れたくらいの衝撃だった。
21世紀最大のデビューアルバムと名高い『THE FAME』のインパクトは語りつくせない。まず「ただ踊ればいい」と高らかに宣言するデビュー曲「Just Dance」。カルヴィン・ハリスも認めたように、米国のラジオに四つ打ちを復活させ、不況のなか踊り狂うEDMブームを切り拓いた。
そして大胆不敵なファッション。刺激を受けたリアーナがミリタリークチュールに挑戦したように、ガガの独創的なスタイルは多くのポップスターに伝播していき、強烈なポップ・ディーバ時代を築いた。
演劇的な作風で注目を集めたガガだが、同時に、歌声に宿るまっすぐな信念こそ力の源だ。
夢を叶えたガガは、デラックス盤『THE FAME MONSTER』にて、スターダムのダークな面を探求。「現代ポップの完成形」と評される「Bad Romance」は、遊び心ある歌詞を特徴としながら、女性アーティストをモノのように扱う音楽業界への批判でもあった。
社会正義とエンパワーメント
レディー・ガガといえば、信念を行動に移す活動家でもある。縁深い日本においては、2011年、東日本大震災によって数々の海外スターが来日を取り消すなかで来日。「日本は安全」だと宣言し、世界に寄附や観光での支援を求めた。
そんなガガが「社会正義のアルバム」と形容する2nd『Born This Way』は、壮大で大規模なポップロック・オペラ。
〈ゲイでもストレートでもバイセクシュアルでもレズビアンでもトランスジェンダーでも問題ない 正しい道を歩んでる 生き抜くために生まれてきた〉
〈あなた自身をただ愛せばいい 正しい道を進んでる これが私の生き方〉
(「Born This Way」)
数あるエンパワーメント系ソングのなかでも「Born This Way」が特別なのは、LGBTQ+を筆頭とした属性をはっきり名指しする歌詞にある。「万人受け」からかけ離れた政治的な歌詞は、ヒットが危ぶまれたどころか、当時の米国で反発を引き起こし、海外諸国で規制、あるいは歌手本人が逮捕される危険性すらあった。
NHK紅白歌合戦でも披露された「Born This Way」は、世界中に人権問題を伝え、とくにマイノリティの子どもたちに希望を与えた。当時、クィアの黒人少女としてガガの存在が「命綱だった」と語るのが、ラッパーのドーチー。「ガガは、自分らしくいていいんだと教えてくれた。何にでも挑戦できるし、意見を表明して、創作してもいいんだって」。
クラシックな意匠で新境地を開拓
エンパワーメントのアイコンとなったレディー・ガガだが、同時に「自分らしさ」をめぐって苦しみ、戦う姿を見せてきた人でもある。
キャリアの分岐点となったのは、2013年、賛否両論を呼んだ3rdアルバム『ARTPOP』。ポップスターとして同じような作品を求められていくなか、芸術家としての気概を突きつけるアヴァンギャルドな挑戦作だった。今でこそ再評価が進んでいるものの、当時受けた反発はガガを深く傷つけたという。
キャリアの危機を迎えても、ガガが芸術への情熱を絶やすことはなかった。
次作『Cheek to Cheek』に選ばれたのは、なんと古典。60歳近く年上の伝説的ジャズシンガー、故トニー・ベネットとともにオールディーズを歌いあげた。
師となったトニーは、ガガの人生を決定づける教えを授けた。「品質にこだわり抜きなさい」。こうして、クラシックな才を魅せる中期キャリアが花開いた。2016年、シンプルな装いで亡き叔母に捧げた『Joanne』では、ミニマルで繊細なカントリーロックを披露。さらに、主演映画『アリー/ スター誕生』で俳優としての評価も確立し、大ヒット挿入歌「Shallow」によってアカデミー賞に輝いた。
「ガガは、みんなの期待とは正反対の方向に行くの」。同世代のスター、テイラー・スウィフトも感嘆の声を上げる。「たくさんの異なる領域で素晴らしい才能を発揮してきた。巧みな意匠に彩られたキャリアね」。
年長ファンも獲得したガガは、ジャズ公演をも完売させるマルチなショーウーマンに成長。近年でも、ブルーノ・マーズとのレトロなバラード「Die With A Smile」によってSpotify史上最長のナンバーワンヒット記録を樹立してみせた。
『MAYHEM』で再定義した「ガガらしさ」
「レディー・ガガは、歴史的にも極めて独創的なアーティストです」「その功績は、芸能の域をはるかに超えている」。総括するのは、伝説的歌手、セリーヌ・ディオンだ。「彼女は、どう思われようと信念を突き通して立ち上がりつづけてきました。自分を信じる強さを身をもって示してきたからこそ、人々に自信を授けているのです」。
激動のキャリアを通して貫いた芸術の影響は、今、かたちとなって芽吹いている。音楽シーンで新風を起こしているのは、ドーチーやチャペル・ローンといった、演劇的な意匠を凝らす「ガガ・チルドレン」たちだ。その輪は世界に広がっている。K-POPグループJUST Bのメンバーとして同性愛者であることカミングアウトしたベインは「ありのままの自分でいる美しさ」を教えてくれたガガに謝辞を贈った。
空前のガガ・ルネサンスのなかリリースされた7thアルバム『MAYHEM』は、最高のタイミングだったと言えよう。30代の後半に入り、婚約者との安定した生活も手に入れたガガによる、初期の作風への回帰であり、キャリアの「メイヘム(混沌)」を統括するアルバムだ。
本人も「ガガらしい」と誇る荘厳なダンスポップこそ「Abracadabra」。「踊るか死ぬか」をテーマに、逆境に立ち向かいつづける生き様を讃えている。ルーツたるニューヨークのLGBTQ+クラブコミュニティに捧げられた一曲でありながら、ガガの道のりと覚悟も示すあらたな代表曲だ。
音楽界における最大の功績も、ここにあるかもしれない。たとえば、2025年、ガールグループKATSEYEが実験的な「Gnarly」を反発覚悟でリリースした際、思い描いていたのはガガの存在だったという。今の若手アーティストにとって、信念を貫くアーティストの象徴こそレディー・ガガなのだ。
ガガの夢を結実させた「ザ・メイヘム・ボール」
※以下は「ザ・メイヘム・ボール」セットリスト(海外公演より推察)に言及しています。
Photo by Kevin Mazur/Getty Images for Coachella
アルバムと連動する「ザ・メイヘム・ボール」は、新たな「自分らしさ」探求の旅だ。「Disease」のミュージックビデオでも描かれるように、支配的な女王たるダーク・ガガと、苦しみをも糧にしていく聖なるガガが織りなすゴシックドリームが、自分のなかの矛盾を受け入れる主題へとつながっていく。
とりわけ絶賛を集めたのは、単なるベストヒット公演になっていない、舞台劇としての芸術性だ。死と復活をモチーフにした五幕構成のなか、新曲がストーリーラインを構成し、過去の代表曲がガガに力を授けていく。たとえば、第二幕で戦いにやぶれたガガが墓場から歌いあげるのは、スターになった苦しみと怒気を爆発させるグランジ「Perfect Celebrity」。
〈この音楽で私は死から蘇る 踊り続けるよ 死ぬまで〉
(「The Dead Dance」)
自分との戦いを通して決起する「ザ・メイヘム・ボール」とは、ある種、アーティストとして踊りきる覚悟の宣言だ。ゆえに、新曲「The Dead Dance」に連なるデビュー曲「Just Dance」のおなじみの歌詞が格別の感動を授ける──〈ただ踊ればいい〉。
怒涛の展開をつづける「ザ・メイヘム・ボール」だが、おさえておいたほうがいい一曲があるとしたら「How Bad Do U Want Me」かもしれない。理想的な「良い子」でなくても愛してくれる?と不安を吐露するラブソングだが、同時に、これまで激動を共にしてきたファンへの問いかけとしても響く。コンサートにおいて、万雷の拍手で応えるべき幕だ。
「ファンに知っておいてほしいのは『MAYHEM』を通して、根本的な意味で、自分の芸術性を取り戻せたということ。あらゆる意味で、これこそが私にとってのレディー・ガガ」「生涯を芸術に捧げたアーティストとして、みんなに覚えていてほしい」。ガガの夢を結実させた「ザ・メイヘム・ボール」。世紀の芸術家が到達した最高峰として、日本でも歴史に刻まれるに違いない。
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レディー・ガガ
『MAYHEM』
配信中
再生・購入:https://umj.lnk.to/LadyGaga_MAYHEM
Lady Gaga: The MAYHEM Ball
2026年1月21日(水)、22日(木)@京セラドーム大阪
2026年1月25日(日)、26日(月)、29日(木)、30日(金)東京ドーム
※全公演完売
特設サイト:https://www.hipjpn.co.jp/live/ladygaga2026/index.html
プレイリスト
『NAOMI WATANABE SELECT 2』
『ザ・メイヘム・ボール』で聴きたい15曲を渡辺直美がセレクト
視聴:https://umj.lnk.to/NWS2
1. Abracadabra
2. Stupid Love
3. Applause
4. Perfect Celebrity
5. Can't Stop the High
6. Disease
7. Zombieboy
8. LoveDrug
9. The Dead Dance
10. Kill for Love
11. Judas
12. Paparazzi
13. Blade of Grass
14. Born This Way
15. Die With A Smile


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