
『ミッション:インポッシブル』(1996年)
記念すべき第1作が公開されたのは1996年。世界中のメディア上に無数のパロディを生んだあの“宙吊り”アクション――CIA本部に侵入したイーサン・ハントが天井のダクトからワイヤーを使って降下し、床面ぎりぎりのところでストップするハラハラドキドキの名場面を含む、いまやクラシックとなった定番的人気作だ。

『M:I-2』(2000年)
本作を皮切りにシリーズの“初期”に分類されるのが最初の3作だろう。第1作の監督はブライアン・デ・パルマ、2000年の第2作『M:I-2』はジョン・ウー、2006年の第3作『M:i:Ⅲ』はJ.J.エイブラムス。監督の人選にも明らかにトム本人の強いこだわりが見られる。強力な才能と組んで斬新なストーリーテリングとアクションを追求し、“トム・クルーズ・ブランド”の新しいスター映画のモデルを打ち立てようとしたのが、この時期だと言えるだろうか。ちなみに第1作では運転というものを全くしなかったイーサン・ハントだが、『M:I-2』からはクルマやバイクを乗り回してモーターエンジン音が荒々しく鳴り響くことになる。また世界中を駆け巡る豪奢なロケーションなど、ベンチマーク(もしくは仮想敵)としては『007』シリーズの存在も大きい。トムはピアース・ブロスナンが扮した5代目ジェームズ・ボンド(1995年~2002年担当)がお気に入りだと当時発言しており、コミカルで軽妙さのある色男のキャラクターは、ブロスナン版ボンドからの影響も含んでいるように思われる。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)
この初期に築き上げた成果と世界観を踏み台に、本シリーズをネクストレベルへと押し上げた画期点が2011年の第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』だ。監督は『アイアン・ジャイアント』(1999年)、『Mr.インクレディブル』(2004年)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)といった傑作アニメーションを手掛けてきたブラッド・バードが担当。
そしてもうひとつの決定的なエポックがストーリーテリング面だ。トム・クルーズは本作のテーマを“チームワーク”だと語っており、スパイ映画におけるチームの重要性を再定義した。特に第3作『M:i:Ⅲ』で初登場したサイモン・ペッグ扮する技術専門のIMFエージェント、ベンジー・ダンの愉快な存在感は非常に大きい。前作では見習いメンバー扱いだったが、本作ではイーサン・ハントの相棒という準主役級へと一気に昇格。以降、映画の雰囲気をほっこりやわらげるお笑い担当としてシリーズに欠かせぬ人気レギュラーキャラクターとなった。『ゴースト・プロトコル』では主人公イーサン・ハントというヒーローだけでなく、その仲間たちの活躍とのアンサンブルが本当に楽しい。緩急豊かでユーモアにも溢れた物語と、アクションの見せ場のバランスが素晴らしく、これをシリーズ最高傑作に挙げる声が多いのも頷ける。
※後編に続く
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO