MAO的コラム 中国語から考える 第65回-相原茂

 日本人の男性が中国から来た女性とデートをする。異文化摩擦が少なくとも二つある。


 ひとつは“AA制”の問題だ。“AA制”とは「割り勘」という意味。お金に関わるだけに、本当に癪にさわるらしい。

 中国は男同士だって、「おれが払う」と勘定書を奪い合うお国柄だ。女性相手なら男性が払うのは当然。それがデートならなおさらだ。しかも、場所は日本。中国人にとって、お金は非常に貴重なもの。本国からの仕送りは当てにできない。バイトや奨学金を生活費や部屋代や学費に当てる。バイトといっても学生なら1日4時間までと制限されている。日本人以上に経済観念は強い。


 そんな思いで生活しているところに、初デートの君から「ええと、あなたの分は1520円」なんて言われるから、これはキレる。「あっそう、いいわよ、私が全部払う!」そう言って、一時の怒りで自分で払って、その男とはもう二度と会わない、という経験をもつ女性が多い。で、あとで、「もう二度と会わない奴の分まで、なぜ払ったんだろう」としきりと後悔する中国女性がほとんどだ。

 この件はしかし、中国人とつきあおうとするような人はたいてい承知のことだろう。もう一つの異文化摩擦のほうは、実は私も知らなかった。

 やはり、はじめての人とデートをする時のこと。これから付き合いを続けるかどうかは分からない。こんな時、日本だとデートの後、わざわざ相手の家まで送っていったりはしないだろう。

 ところが中国式となると、最初のデートでも男性は女性を家まで送るのが普通だ。好きとか嫌いとかを越えて、家まで送るのがエチケットだ。これっきりで、つきあうのは止めようと思っていても、家まで送るのだそうだ。

 それができないときは、タクシー代を出してやるという。


 ところが日本人の男性はそんな習慣はない。デートの終わりはこうだ。「あ、あなた地下鉄、僕はJRだから。じゃあ、ここで。さようなら」。実につれない。中国人の女性は「このわたくしを、なんという扱い!」と内心烈火の如くに怒り、これまたキレる。プライドの高い女性に限って、これだけで絶交の理由になる。

 しかし、これが日本では普通だ。

 日本人男性にも言い分はある。そもそも日本は安全だから、送るまでもない。

 それに女性だって、いきなりどこに住んでいるか知られるのは嫌なはずだ。
すまいは個人情報の中でも、最高機密に属する。よほど夜がしんしんと更けていたり、雨が激しく降っているのでもなければ、送ったりしない。

 何よりも「送り狼」ということばがあるように、家までついてこられて、何となくお茶を飲ませるはめになり、そのまま居座るようなことがあったらいやでしょ。このあたりの雰囲気を読むのも面倒くさい。

 中国でも本当に家の玄関先まで送るのではない。このあたりでいい、というところがある。あまり近くまで行って、親や近所の人と顔をあわせるのは中国人だっていやがる。

 ともかくデートの帰りは女性を送る、これが常識らしい。

 私は中国人の女性と交際の経験がないので知らなかった。

 だから、デートをして別れしなに、「夜だし、タクシー代出して」と言われて面食らってしまった日本の男性諸君は結構いるのではないか。思いもかけない高飛車な要求だ。

 “AA制”のほうは、今どきの若い男の子は、平気で割り勘をする。
だから、日本は今こうなんだと説明しても、お金に関わることだから「言い訳」しているとしかとられない。ケチな男はきらわれる。

 「家までエスコート」のほうも、「面倒くさがっている」「誠意がない」「常識に欠ける」ととられそうだ。国境を越えた恋はなにかと面倒だ。(執筆者:相原茂)

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