食事の場面。
父と母と子と、3人が食卓を囲んでいる。
日本でも母親が子供に「沢山食べなさい」と言うが、箸でおかずをつまんでご飯の上に乗っけてやることまではしない。自分の箸を使うのはためらわれる。また子供もある年齢からはそれを望まない。中国では中学生ぐらいまでは、母親がおかずを取ってあげる。日本だと小学生ぐらいからもう嫌がりそうだ。
「とり箸」を使っておかずを取ってやることはあるかもしれない。しかし、中国人の家庭でそんなことをしたら、親子の間に溝が出来そうだ。他人行儀で、水臭いのだ。親密さが消え、むしろ嫌われているのかと疑ってしまう。
大学等の学生食堂で、私は恋人たちが、「はい、あーん」をしているのを見たことがある。あれは少なくとも片一方は中国人である。いかにも恋人恋人した、いちゃいちゃシーンは、中国人が得意とするところだ。見せつけるわけではなく、自然とああなる。親密さがああいう形として外に現れるわけだ。学生食堂に限らない。街のレストランでもやっている。
飴をしゃぶるときだってそうだ。ペロリとわざわざ皮をむいて口に入れてやる。さらにすごいのは、恋人同士だと、まず自分の口にふくんで、それを口移しで相手に食べさせたりする。「甘いキス」だ。
おせんべいのようなものを食べるときは、まず自分がぱくりと口にし、残りの部分を相手に食べさせるべく、彼に近づく。
みかんを食べるときは、最初の一つはまず相手のために剥いてあげる。あるいは半分にして相手にあげる。
親子、恋人に典型的に見られるように、どうも中国には「親密さ」を表すいくつかのプロトタイプがある。日本はそれを隠したり、薄める方向で変化してきたが、中国はなおそれを残している。そしていざという時にはきちんとそれを表現しなくてはならない。
例えば、大学の宿舎ではこんなことがよく起こるそうだ。
彼女の誕生日には、男性は宿舎の窓の下にやってきて、手には抱えきれないほどのバラを持つ。そして、下から「好きだー、愛している」と大声を出して求愛する。下でギターを奏でながら歌を歌ったりする人もいるそうだ。
想像するだに恥ずかしい。こんなことは日本では決してやらない(だろう)。
こんな話も聞いた。ある女性の彼氏、地質学を専攻していたのでよくフィールドワークに出かけた。1週間ぐらい地方に行き、調査から帰ってくると、彼女の宿舎の下にやってきて、夜中の3時ごろでも、下から大声で叫んだという。“おーい!(このあと女性の名前を呼ぶ)帰ってきたぞ!好きだよー!”。なかなかロマンにあふれている。翌日、寮の誰彼から「彼、帰ってきたね」などとからかわれ、嬉し恥ずかしといった気分を味わう。ただし、今は携帯があるので、こんなことは無くなったそうだ。
誕生日は彼女一人の祝日だからまだよい。他の恋人たちと競い合うような祝日、バレンタインデーは大変だ。
この日、男性は女性にバラの花束をプレゼントするが、なにしろ、男性にもメンツがあるが、求愛される女性のほうにもメンツがある。同僚の女性間でメンツとメンツがぶつかりあうのだから、もうすでに中国は結構大変なことになっているそうだ。
ある節目の時や、特別な日には、中国の恋人は思いきった行動をとらないといけない。
まあ日本だって似たようなものかもしれない。私は知り合いの女性(日本人)が、彼女の誕生日に、半年ぐらいつきあってきた彼から期待したようなプレゼントをもらえず、ごくふつうのレストランで食事をしただけだったので「えっ、これだけ」、と絶句して、その彼と別れたという話を聞いた。
女性は特別な日には特別なことを心待ちにしている。それは日中共通らしい。(執筆者:相原茂)
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