「石油政策や各社の設備計画などにも影響する可能性がある」

 重質油のアラビアンヘビーと軽質油のアラビアンライトの価格差が、昨年7月に約10ドルだったものが、最近では3ドル台になるなど「重軽格差」が縮減している。割安な重質油を輸入・精製し、国内に整備した重質油分解装置で採算性のよい白油を多く生産し、精製コストの引き下げを図ってきた石油業界が岐路に立たされている。
官民で取り組む、より高度な重質油分解装置の研究開発や整備にも波紋が広がりそうだ。

 世界の指標となる代表油種をみると、軽質油で米国産の銘柄であるWTIは、史上最高値をつけた昨年7月には140ドル台を超えたものの、同月以降は世界の石油需要の減退に加え、秋以降の米金融危機の影響で値を下げ40ドル台にまで反落した。これに対しアジアの原油指標で重質油のドバイは最近では40ドル台と、WTIの価格と拮抗、あるいは逆転する現象が起こっている。

 WTIは、NY商業取引所(NYMEX)に上場し金融市場と連動することで高い流動性を得ていた面があった。売り先行となったいまでは、むしろ、ガソリン需要や在庫の減少など石油の大量浪費国家・米国の凋落を印象づけるデータばかりが材料視される。世界の原油指標にもかかわらず「WTI市場は本来極めてドメスティックな性格を帯びたもの」(資源エネルギー庁)で、現在それが本領を発揮している形だ。


 これに対しドバイ原油は、イスラエルのガザ攻撃など緊迫する中東情勢はじめ地政学的リスクが反映される傾向にある。世界の関心が、米国からアジアに移行し原油価格にもそれが反映しているともいえる。

 こうしたなか、日本が輸入する中東産原油をみると、重質油のアラビアンヘビーと軽質油のアラビアンライトの値差は、昨年7月には10ドルだったものが、WTIの下落に軽質油価格も連動してか、アラビアンライト価格がアラビアンヘビー価格に近づく形で下がり、重軽格差が徐々に縮小。08年第4四半期には4ドル台、09年に入ると2~4ドル台と縮減している。こうした重軽格差は、日本の石油政策や各社の設備計画に相当な影響を与える可能性がある。

 経済産業省は、06年3月の総合資源エネルギー調査会の小委員会において、産業用の分野で、重油から天然ガスへの燃料転換が進み生産される重油が余剰となる一方、ガソリンなど需要が伸び白油化が進むと予測。


 こうした需要構造の変化をふまえ、高度な重質油分解装置の整備を求める報告書をまとめている。新日本石油が超過酷度重質油分解装置の実証試験に入るなど石油各社は、現在よりも高度な重質油分解装置の研究開発や整備計画を進めている。

 ところが、実際には、重油の余剰感は進むものの、ガソリン販売が08年末現在、3年連続で前年を下回り白油化の速度が鈍り始めている。石油製品の需要構造は政府の予測とは微妙に違った形で進んでいる。中長期的に一層の重質油分解装置の増強投資を行う必要があるのか議論が再燃しかねない状況になっている。

 新日本石油が2010年にまとめる第5次中期経営計画で、4次計画に盛り込まれている2010年に計画の超過酷度重質油分解装置の商用化について、どう文言をまとめるのかも注視されるほか、各社の経営計画にも影響を与えそうだ。
(執筆:斉藤 知身 石油ジャーナリスト、提供:オーバルネクスト)

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