――中国事業のこれまでの経緯は?
当社の中国事業への進出は、今から16年前の1993年にスタートしました。この年に『杭州ビール有限公司』の経営に参与し、翌年から杭州の工場で「朝日ビール」の生産と販売を開始。それ以降、「北京ビール」や「煙台ビール」といった地元のビールメーカーを次々にグループ化していきました。
現在では北京で「北京ビール」「スーパードライ」「朝日ビール」、煙台で「煙台ビール」、青島で青島ブランドのお茶飲料、杭州で「西湖ビール」「朝日ビール」、深圳で「青島ビール」「スーパードライ」と、5つの拠点で生産や販売を行なっています。
04年には伊藤忠商事と共同で、大手食品会社の『康師傅』と合弁会社を設立し、中国の清涼飲料市場にも進出を果たしました。そして06年には住友化学、伊藤忠商事と共同で山東省莱陽市に「山東朝日緑源農業高新技術有限公司」を設立して大規模な農業経営も開始。野菜と果物の生産のほか、昨年9月からは「朝日緑源ブランド」の牛乳も生産・販売するなど、ビール事業以外の分野にも積極的に拡大しています。
――中国におけるビール産業の変化は?
中国に進出した93年当時、中国には700~800ものビール製造会社がありました。各都市ごとに地元のビール会社があるドイツと同じような感じですね。その後、ビール会社のあいだで数々のM&Aが行なわれ、現在では「青島」「雪花」「燕京」などの大手数社で全国の販売量の8割を占める状況となっています。
中国が世界最大のビール生産・消費国となってすでに数年がたちますが、生産・販売されているビールの約9割は大瓶1本5元以下の中低価格帯ビールです(※低価格帯は2元以下)。
私は06年9月から2年間は北京にいて、昨年10月にここ上海に来ました。両方の都市を比べてみますと、北京のほうがお酒はよく飲まれますが、プレミアム価格帯のビールは上海のほうが売れています。上海の風潮が中国全土に広まっていくのが理想ですが、それまでには長い時間がかかるでしょう。また、当社の生産工場は沿岸部に集中しているため、たとえば内陸部にビールを輸送するにはコストが高くなってしまいます。まずは沿岸部の都市を中心に当社のビールの味を浸透させていきたいと考えています。世界40ヶ国で飲まれているスーパードライは、必ず中国の人たちにも受け入れられていくと信じています。
――シェアを広げるための課題は?
外資系スーパーでも取り扱っていただいていますが、やはり日本料理店をはじめとした飲食店向けが中心。中国ではスーパードライのような生ビールはまだ一般的ではないため、地元の店には入りきれていません。ここがこれからの課題です。
しかし、海外にある日本料理店のお客さんの8割は現地の人。中国で日本料理店は現地の人たちが生ビールを初めて体験する確率が高いところなのです。
そのためには、生ビールそのもののクオリティが高くなければいけません。当社が中国で生産しているスーパードライには絶対の自信を持っていますが、実際にお客様に飲んでいただく料理店における生ビールの品質管理も重要になってきます。
生ビールのサーバーというのは、定期的なメンテナンスと毎日の洗浄が欠かせません。それを怠ると味が落ちるだけではなく、衛生面でも問題が出てきます。そこで、飲食店の方々を対象にクオリティセミナーを定期的に開催し、サーバーの洗浄方法やおいしいビールの注ぎ方などについて講習を行なっています。このようにしてサポート体制を作りながら、地道に生ビールを中国で広めていきたい。とにかくまずは、多くの方々に実際においしい生ビールを飲んでいただくことが大切ですから。
――市場を開拓するうえでのこだわりは?
おいしい生ビールを作るには整った設備と水が重要で、そのこだわりだけは譲れません。ビールの製造に不可欠な水は、地域によって水質が違います。日本と変わらぬ味を作るために、私どもは「水を磨く」と言いますが、水を十分にろ過して日本の水に近いものにしてから使用しています。
また、当社が生産・販売している商品は地元企業のものに比べて高いものが多いのは事実ですが、消費者のターゲットを富裕層に絞るという考え方はしていません。
昨年世間を騒がせた粉ミルクや乳製品のメラミン事件をきっかけに、中国では多くの人が粉ミルクに対する安全性と品質を問うようになりました。その際、当社が扱う「和光堂」の粉ミルクは高品質で、日本で人気があるという話が中国でも広まり、多くの方々が子どもの健康のためにと、和光堂の粉ミルクをお買い求めになりました。富裕層ではなくとも、必要とあれば高くてもいい商品を購入するんです。私どもは、そういった方々にも積極的に売り込む努力をしていきたいと考えています。
――企業全体としてのこれからの展開は?
「食と健康」がアサヒビールグループの事業の基礎です。高品質で安全、安心な製品を中国の皆様に提供していきたい。当社の事業のなかでは、もちろんビールの生産・販売がいちばん比重が大きいのですが、これからは、最初に申し上げた農業や牛乳生産の面でも、事業を拡大させていく予定です。
その山東省の農場では、中国の都市部で高まっている安全・安心でおいしいものへのニーズに応えた農作物を生産しています。とくに牛乳は中国ではまだ珍しい成分無調整のプレミアム牛乳で、日本人の方々からは「本当の牛乳の味がする」と好評です。今は北京、青島、上海で販売しており、おかげさまで上海では、スーパーの棚に並べるとすぐに売り切れるという状況です。
これら農産物や牛乳のパッケージにも、ビールと同じ「Asahi」のロゴを付けています。
今年1月、『青島ビール股〓(ニンベンに「分」)有限公司』の株式を一部取得することが決まりました。これにより青島ビールとの協力関係をさらに強化し、アサヒビールを中国のみならずアジアNo.1のブランドに発展させていきたいと考えております。(情報提供:China Concierge)
杉浦康誉(すぎうら やすたか)
朝日ビール(上海)産品服務有限公司 董事・総経理
1956年生まれ。79年慶応義塾大学卒業後、アサヒビールに入社(東京支社・営業担当)。ニューヨーク勤務、本店の国際事業部、総務部、マーケティング部などを経て、2006年に北京ビール朝日有限公司に副総経理・営業本部長として出向。08年10月より現職。
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