■横書きが多い自然科学・工学関連書
日本人は「不塞不流、不止不行」や「不破不立」(いずれも、旧弊や誤りを取り除き新しく正しいものを築くという意)のような考え方をあまり持っていないようだ。日本人は性質が異なるものでも同時に受け入れることを得意としており、これは二重性を表している。こうした点は日本文化の研究者によってしばしば指摘される。例えば、職場では机と椅子を使い、国際化とともにビジネスで世界中を駆け回っているが、自宅に帰れば靴を脱ぎ畳の部屋で家族と脚の短いテーブルを囲むという、伝統文化に回帰した生活を送っている。
書店で書籍をめくってみると、こうした二重性を実感することができる。美しい装丁の書籍の中には右開きと左開きのスタイルがある。右開きの書籍の書字方向は縦書き、左開きの書籍は横書きとなっている。文字は音を表すかなと意味を表す漢字が混用されており、我々中国人には一目で日本の出版物とわかる。もともと、日本語の文章は上から下へ、右から左へ文字を並べる表記スタイルを用いていた。近代化が進み西洋の科学技術を導入する中で、自然科学関連書で次第に横書きを採用するようになった。
だが、今日に至るまで、日本人はその旧来のスタイルに固執せず、西洋のスタイルを全面的に採用することもなく、縦書きと横書きを内容に応じて使い分けてきた。自然科学・工学関連書は主に横書きであるが、文芸関連書は依然として縦書きが主流となっている。
■日本の国語辞典は縦書きが一般的
このように出版物の表記スタイルが並存する状況について、「和魂洋才」の表れであるとの見方もある。「和魂洋才」は中国で100年余り前に唱えられた「中学為体、西学為用(中国の文化や制度を主体とし、西洋の技術を実用とする)」と似た意味も持つ言葉だ。日本では、人々の心をつなぐ文芸関連書で、縦書きを採用し伝統を維持してきた。一方、西洋から技術を導入したことから、表面的な実務現場では横書きを広く用いてきた。このため、縦書きと横書きの使用比率から「和魂」と「洋才」の構成比率を測ることができるかもしれない。
日本で最も基本的な3種類の辞書である国語、漢和、英和辞典は、書店に100種類以上並べられている。このうち、英和辞典は横書き、国語辞典は縦書きがこれまで一般的であったが、最近変化が見られる。集英社は3種類の判型の『国語辞典』を出版しているが、中辞典のサイズで初めて横書きを採用した。辞書出版老舗の三省堂刊行の『新辞林』も横書きを採用し、現代的な感覚を添えている。
■ほぼ全ての雑誌は縦書き
出版物のスタイルの変化は、ワードプロセッサ、テレックス、コンピュータなどの普及によってもたらされた。日本の『毎日新聞』に掲載された調査結果によれば、横書きの辞書を使いたいと思う人は14%、使いたくない人は22%、どちらでもよいという人は60%以上に達した。当分の間、技術の発達が人々の心を変えてしまうと懸念する必要はなさそうだ。
興味深いのは、国語辞典で横書きのスタイルがもてはやされているのに対し、20年間横書きを採用していた経済週刊誌が縦書きに変わったことだ。恐らく読者の「大和魂」に訴える意図があるのだろう。このように、日本ではほぼ全ての雑誌が縦書きとなっている。また、全ての企業で書類は横書きとなっているが、社員が手紙を書く場合、特に40歳以上の人は相変わらず縦書きスタイルを用いる。
中国においても、繁体字と簡体字、縦書きと横書きの並存のように、日本の二重性と似たような現象があり、評価は人それぞれだ。だが、恐らく中国では広く認められないだろう。なぜなら我々中国人は統一性、均一性、一貫性を持つもののほかに、画一的であることを好むからだ。日本人の二重性は賛否両論あり、評価も二重となっている。(李長声著『日下書』から抜粋。上海人民出版社より2009年3月出版 情報提供:チャイナネット)
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