■「内モンゴル自治区」写真特集
本当に才能がある歌手なら、歌い出しの部分を耳にしただけで分かるものだ。オルリコがそうだ。そしてメロディーが進行するにつれ、たおやかで、しっとりとした心の風景が展開する。「日本人は、こんな歌声を愛してきたのだなあ」と、改めて実感させてくれるCDだ。
「ひぐらしの坂」では、遠く離れた母を想う若い女性の心を歌いあげる。清冽な情感が胸に迫る。「忘れないで」のイントロ部分の馬頭琴は、EMI・ミュージックジャパンでアルバムを発表するなどメジャー・シーンで活躍する妹のイラナ(ユニバーサルミュージック)が演奏した。暖かくて切ない音色が歌声に彩りを添える。
「ひぐらしの坂」の作詞は、坂本冬実の「また君に恋している」で改めて注目を集める“天才”松井五郎、作曲は“稀代のヒットメーカー”都志見隆。
驚いたのは、モンゴル民族であるオルリコが、これほどまでに「日本の歌心」を自分のものにしていることだ。民族音楽の専門家によると、「モンゴルの伝統音楽はメロディーの構成などが日本の音楽と驚くほど似ている」という。オルリコの「歌心」も人工的に作られたものではなく、生来の音楽性がベースとなり、自然な方向で磨きをかけたのだろう。
母は舞踏家。父親は格闘技のコーチだが、モンゴル相撲と伝統楽器「馬頭琴」や「四胡」の名手でもある。
ちなみに、オルリコの父は、チンギス・ハーン以来のモンゴル皇帝の血筋であるボルチギン氏族だ。母は、歴代の第一皇妃を出すことになっていたホンギラート氏族の出身。文化大革命中にやむなく廃棄するまでは母方の曾祖父の家に、清朝・康熙帝から賜(たまわ)った直筆の扁額があったという。
オルリコは、11歳の時から中国・西北民族学院でモンゴルの伝統舞踊を専攻。学生時代に少数民族芸術代表団の一員として、ドイツ、フランス、オランダなどヨーロッパ公演のステージを経験した。おばの影響で幼いころから歌の世界にも関心を持っていたが、歌手になることを決意したのは、日本の歌のCDを多く聞いたことがきっかけだった。日本で最大の部数の中文導報が主催した、在日中国人のスーパー女性アイドルを選ぶ「超女」コンクールには、モンゴル民族としてただひとり決勝にエントリーし、最優秀特別才能賞を受賞した。
オルリコはモンゴル語で「芸の道」、「芸術」の意。
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