劉志軍といえば、その弟・劉志祥が2006年、武漢鉄道分局副局長時代の汚職その他で失脚し、その時に連座してもおかしくない人物だった。ただ彼の後ろ盾であった前国家主席・江沢民氏がまだ影響力をもち、のその危機を生き延びることができたといわれている。2008年に李克強・副首相が主導した大部制改革(省庁改革)では、鉄道部と交通部(交通運輸部)が統合されることにあくまで抵抗し、これは一種の権力闘争とも言われたが結局、大部制改革を挫折させた。「起き上がりこぼし」と異名をとるほど悪運が強かった彼が今になって失脚したのは、腐敗を代表するような官僚をスケープゴートにして、「中国ジャスミン革命」の噂も飛び交う国内の不満のガス抜きにしよう、という魂胆か。あるいは、上海閥と胡錦濤派の権力闘争の結果なのか。
しかし、一番気になるのは、ニューヨークタイムス(2月18日付)に報じた高速鉄道網の手抜き工事説である。劉氏に近い筋によれば、高速鉄道網に使われているコンクリートは要求される耐性がなく、時速350キロのスピードで運行されつづけていれば、2、3年以上はもたない、という。コンクリート枕木はフライアッシュセメントを用いなければならないはずだが、その建設スピードは、大量の石炭を燃焼させて作るこの種のセメントの供給スピードを大きく超えているのだ。コストをみても、中国の高速鉄道の1マイル(1・6キロ)あたりのコストは1500万ドルで、欧米では4000万ドルから8000万ドルが普通という。これが本当なら数年内に中国高速鉄道で大惨事がおこっても不思議ではない。しかも鉄道部の債務比率は総資産の55%、2020年で70%に達する可能性が有り、高速鉄道の利用率が高くても20年は赤字続き、という民生銀行のリポートを中国誌財新が報じている。
胡錦濤政権は今頃になってこの鉄道部の巨額汚職の結果に生まれた債務まみれのおから工事の高速鉄道の恐ろしさに気付いて、あわてて総責任者に処分に踏み切ったということだろうか。だとすると、本当に報道すべきは劉氏に18人愛妾がいたというスキャンダラスな話題ではなくて、これから起こるかもしれない大惨事をどう防ぐか、である。そして、中国の高速鉄道に技術供与した日本としては、大惨事が起きたときに、責任を負わされるかもしれない可能性について、どう対応するかも考えておいた方がいい。(編集担当:三河さつき)
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