2003年に中国政府・衛生部部長を務めた経験がある張文康氏はこのほど、中国における道徳の退廃を指摘し、「大きくなったらお金がもうかる汚職官僚になりたい」という子どもがいる事態を「恐ろしいことだ」と述べた。中国新聞社が報じた。
中国政府・衛生部部長は医療・衛生行政における政府責任者。

 張文康氏は中国政府への助言機関である全国政治協商会議の常務委員を務めている。同会議のチーム会議で、中国における道徳の退廃について強い懸念を示した。

 中国では国会に相当する全国人民代表大会全人代)に提出する「政府工作報告」に毎年、「官僚の腐敗問題と対策」が盛り込まれている。張氏は「ここ数年、目立つ改善はない」と述べ、「中国は経済建設という1本の足が長く、道徳建設の足は短い」などと、社会のいびつさを主張した。

 典型的な例としては、「大きくなったら汚職官僚になりたい」という子どもを挙げた。金もうけができるというだけで、「将来の理想は汚職官僚」という子どもがいることは「(中国の)現実であり、恐ろしいことだ」と述べた。

 道徳の退廃については「学術論文の偽造」、「批判されたとの理由で社会運動家を襲撃させた学者」、「多発する食品安全問題」、「金持ちや権力者の愛人になりたがる若い女性」など、さまざまな現象が発生していると指摘。「すべてが人を害するものだ」と述べた。

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◆解説◆
 19世紀から20世紀初頭に活躍したドイツの社会学者、マックス・ウェーバーは、資本主義の発展について「宗教に裏打ちされた倫理観が必要」との見方を示した。「豊かになることを最終目的にした場合、経済活動は行きづまる。仕事そのものを使命と感じ、利益を得ることは肯定するが、利益の多くを事業拡大のための投資に回してこそ、力強い拡大再生産を特徴とする近代資本主義が成立する」との考えだ。
ウェーバーの説によると、生活のすみずみにまで厳しい倫理を求めたプロテスタンティズムが、近代資本主義の契機になった。時代の推移をみても、資本主義化が始まった後に、技術面の要請に応じる形で産業革命が発生した。

 日本の評論家の山本七平氏は、「江戸時代に、それぞれの人が与えられた仕事に励むことは、仏道修行と同じとの価値観が成立した」と指摘。労働の成果物でなく、労働そのものを「尊い」とみなす価値観を持つにいたった国や民族は世界的にも少なく、日本が明治維新に始まる近代化や第二次世界大戦後の急速な立ち直りに成功した背景には精神的な土壌があると指摘した。他のアジア諸国の近代化の過程と比べれば明治期の日本に「腐敗現象」が極めて少なかった理由に、「金もうけが一般的に、精神面における最終目的でなかったこと」を指摘する研究者もいる。(編集担当:如月隼人)

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