中国の全国律師(弁護士)協会刑事業務委員会の田文昌主任は、刑事訴訟法案草案作成にかんして、3人の弁護士代表のうちの1人として討論会に参加してきた。
田氏によると法改正では、容疑者の権利保護について大きな前進もあったという。たとえば、法案(草案)には「自白の強要を認めない」、「取り調べに際しては録音や録画を残す」、「取り調べ中の容疑者と弁護士との接見を認める」などの内容が盛り込まれた。
しかし、「自白の強要を認めない」との条文がある一方で、「黙秘権」は盛り込まれなかった。取り調べ側が録音や録画を残していない場合の処理方法は定められていない。弁護士との接見についても、例外の存在を前提としているなど問題が多い。田氏によると、弁護士にとっては「喜びと憂いが半々」の結果になったという。
田氏によると「黙秘権」の扱いについては極めて活発な議論があった。結果として「自白の強要を認めない」との文言は盛り込まれることになったが、現実問題として徹底することは難しいだろうという。
中国では黙秘権について「西側国家に特有のもので、中国の国情にそぐわない」との意見もある。
田氏は黙秘権について「中国であれ、その他のどの国であれ、実現できないはずがない。黙秘権について絶対的な障害はない。鍵となるのは(黙秘権は国情に合わないとの)考え方を打破することだ」と述べた。
中国では長期にわたり、容疑者の自白が犯罪事実を認定する主要な証拠と考えられてきた。自白の強要や拷問が発生する大きな原因と考えられている。
田氏は、黙秘権が認められれば、自白の偏重や自白の強要をなくす大きな力になると主張。法律に黙秘権を盛り込むことは「実現できないわけではないが、難しさもある。段階的に進めていく必要がある。われわれは努力を続けるべきだ」と述べた。
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◆解説◆
中国では自白の強要や裁判所の杜撰(ずさん)な判断による冤罪(えんざい)事件が発生している。河南省では2010年、自白強要と証拠でっちあげのため殺人と死体損壊で有罪判決が確定し、11年にわたり服役していた男性が冤罪と判明した。「殺された」と思われていた男性の知人が姿を現したことがきっかけだった。
取り調べ中の容疑者が「不可解な死」をとげることもある。(編集担当:如月隼人)
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