「新星」はオス4頭とメス2頭の子を産んだ。父親はいずれも「川川」。「新星」は重慶市動物園にいる。「川川」は上海で飼育されていたが、パンダの「恋の季節」になると、重慶まで運ばれてきた。2頭の関係は、まるで「織り姫とひこ星」のようだった。
飼育担当の張乃成さんによると、「『川川(チュアンチュアン)』に再び会えた『新星』が、心を震わせていたことがよく分かりました。2頭でずっとじゃれあい、本当に久しぶりにあった恋人同士のようでした」という。
「新星」の最後の出産は20歳の時だった。人間に例えれば80歳に相当する超高齢出産だ。
「新星」は健康状態が良好だったので、2010年になり新しい“ボーイフレンド”を手配することにした。しかし「新星」はかたくなに拒絶。いらだったオスのパンダが攻撃したため「新星」は足に重傷を負った。飼育陣も、“ボーイフレンド”作戦をあきらめざるをえなかった。
うまく歩けなくなった「新星」は、運動場にあるアーチ橋の下にずっといた。張さんによると、雨が降ってきても「新星」が動こうとしなかったので、頭の上のアーチ橋に雨よけをつけてやったことがある。「新星」は普段、人に構われるとかんしゃくを起こすことが多かったが、この時はじっとしていたという。
張さんは、アーチ橋の下が、「新星」と「川川」が一番好んで遊んでいた場所だったことに気づいた。「『新星』はずっと、『川川』のことを思っていたんでしょう。
**********
「新星」が産んだ6頭は、2歳にならないうちに死んでしまった1頭を除き、いずれも元気だ。うち、「楽楽」は日本で暮らしているが残りの4頭は四川省成都市と臥龍パンダ研究センターにいる。
飼育されているパンダに対する期待のうちで、最大のものが「子づくり」だ。飼育パンダの数を増やし、自然に戻すことによって野生パンダの数を増やす計画の要(かなめ)でもある。
「新星」の子のうち、特筆すべきが「霊霊」だ。一時は年間で数頭のメスパンダと交尾した“名うてのプレーボーイ”だ。「霊霊」の子は40頭以上はいるという。ただし、「霊霊」の遺伝子があまりにも広がると子孫に悪い影響を及ぼす恐れもあるので現在は「育児制限の対象」にされてしまった。
**********
高齢の「新星」はその後、心身両面での安定を取り戻し、本来の「やんちゃでわがまま」な性格を発揮するようになった。高齢に伴う健康上の問題も、特にない。ただ、歯が弱くなり、ずいぶん抜けてしまった。
そのため、やわらかくて栄養のある餌(えさ)を与えているが、どうも気に食わないらしい。食べ終わったあと、容器を地面の上において、ずっと手でいじっていることがある。食べ物に不満があると食器にやつあたりするのは以前と同じだ。飼育員の張さんは一部が欠けた容器を示して「まだ歯が丈夫だったころ、かんしゃくを起こしてかんで壊してしまったんです」と説明した。
ただし「新星」も張さんにだけは従順だ。「立って」、「座って」などの言葉は覚えており、指示に素直に従う。どんなに“わがまま”でも、張さんのことは完全に信頼しきっているという。(編集担当:如月隼人)