「上海、かたつむりの家(原題:蝸居)」(日本語版発行:プレジデント社、海外版権代理:クリーク・アンド・リバー社)を翻訳した青樹明子氏は、既に10年以上を中国で生活してきているが、「『上海、かたつむりの家』の原作は、外国人にはうかがい知ることができなかった、経済大国・中国の闇の部分を見せつけられたように感じて、大きなショックを受けました」と語っている。北京在住の青樹氏に、作品の魅力、また、作者である六六氏のプロフィールや現在の活動ぶりなどを聞いた。
(写真は、六六氏=左と青樹明子氏、提供:クリーク・アンド・リバー社)

 原作の出版は2007年12月。2009年にはテレビドラマ化され、社会現象といわれるほどの話題作になった。「当時は、知らない人がいないのではないかと思うほど、中国の友人たちはドラマについて語り合っていました。しかし、実際に原作を読んでみて、ドラマ化ができなかったようなエピソードの数々が書かれていたのでびっくりしました。小説として出版できるギリギリのところで書かれていると感じます」と作品との出会いを語った。「たとえば、原作には性描写が多く出てきますが、ここまで許されるのかと驚いたほどです。原作を読んで、意外に中国でも自由な表現が許されるものだと感じたくらいでした」という。

 現代中国のリアルな実態を表しているといわれる具体的なエピソード内容は、同書の日本語版の目次にうかがえる。「貯金の増える速度は物価上昇の速度に、永遠に追いつかない」「消費は欧米にならえ、収入は南米・アフリカにならえ」「愛人のいる男の生活はブルーカラーと同じである」「女にとって自分の家とは、嫁ぎ先、つまりは他人の家である」など。青樹氏は、「目次には、その章で語られるエピソードを象徴するような言葉がピックアップされていて、目次を見ているだけで、わくわくします」と語っている。

 青樹氏によると、作者の六六氏は、「日本の作家にたとえると、林真理子さんのような方」という。青樹氏は日本で林真理子さんと一緒に仕事をした経験があるそうだが、「社会派の重い題材をエンターテイメントとして描くことができる才能がある。
聡明、闊達で、キュートな女性」という。六六氏は37歳で、離婚を経験した1児の母。今年、最新作の「心術」という病院をテーマにした小説が、再びテレビドラマ化されている。現在は、次回作について「企業倫理」をテーマに定め、大学院でビジネスについて勉強をするなど、新作の取材に忙しくしているという。

 尖閣諸島問題などをきっかけに中国全土に広がった「反日デモ」など、現在は日中関係がギクシャクしているが、「中国の人たちの考え方を知りたいということであれば、是非、本書を読んでいただきたいと思います。デモを通じて、中国の人たちが、なぜ過激な行動にまで及んでしまうのかということも、この本で書かれている中国の闇の部分を知れば、理解の助けになると思います」と青樹氏は語っている。(編集担当:徳永浩)
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