米商務省は5月21日付で華為技術ファーウェイ)をEntity List(=いわゆる、ブラックリスト)に掲載し、同社向けの米国製品やソフトウェアの供与を禁止する措置を取った(90日間の猶予期間あり)が、米国メディアでは米中貿易摩擦が先鋭化すれば、ブラックリストに載る中国企業はさらに拡大する見通しという見方が強まっている。中国の株式市場では、その候補と噂される企業の株価が急落するなど、影響が広がっている。


 ファーウェイに続く制裁対象に目されているのは、「監視企業群(surveillance firms)」。例えば、監視カメラで世界のトップを行くHikvision(海康威視)や、第2位のDahua(大華技術)。いずれも深セン証券取引所に上場しているが、NYで「第2のファーウェイ」と名指しされる報道がなされたことを受けて5月22日、23日と2日連続で大幅安となり、ともに、5月21日終値と比較して10%超の下落になった。

 また、23日には、監視カメラメーカーに加えて、顔認証技術の北京曠視科技(Beijing Megvii)、音声認識技術の科大訊飛(iFLYTEK)、電子データの収集・分析システムの大手の厦門市美亜柏科信息(Meiya Pico)がやり玉に挙げられ、iFLYTEKの株価は7%超下落し、Meiya Picoは9.56%も下落した。

 これら監視企業群は、新疆ウイグル自治区においてウイグル族の抑圧に協力している懸念があることが排除リストに入れられる理由だという。米国内では、監視企業群の技術が中国による米国へのスパイ活動に流用されかねないという懸念もあるようだ。


 一方、中国は国家的なプロジェクトとして2020年までに中国全土をくまなくカメラネットワークで覆うことをめざしている。そして、航空機や高速鉄道での移動など人々の移動に関する情報や、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化して「社会信用システム」を構築するとしている。そもそも政府官僚の腐敗撲滅を目的に始められた監視カメラネットワークの整備は、個人信用情報の蓄積・管理と合体し、公的な信用格付けを個人に付与する「社会信用システム」として拡大・整備され出した。

 HikvisionやDahuaの監視カメラは、このカメラネットワークに欠かせないメーカーであり、個人を特定するという点では、Megviiの顔認証AIやiFLYTEKの音声認識技術は有力なツールになるだろう。そして、それらのデータを収集・分析するMeiya Picoの技術も重要だ。

 結果的に、中国が国を挙げて育成した監視企業群は、米国がファーウェイ同様に成長を座視できない世界先端レベルに育ってきてしまっているのだろう。
米国がファーウェイに対して厳しい態度で臨んでいるのは、イランへの経済制裁に違反したとか、ファーウェイの創業者が中国の人民解放軍の出身で同社製の使用で通信情報が中国政府に流出してしまう懸念があるなどという真偽のはっきりしない疑念というより、単純に次世代の基幹通信インフラである5Gの基地局でファーウェイが世界のトップを占めたというハイテク覇権への警戒心といわれている。

 監視カメラの分野ではHikvisionは世界トップ企業だ。そして、Megviiの顔認証AI「Face++」は、中国の公安当局すら採用しているという世界最先端の認識能力がある。GAFA(グーグルアップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるハイテク企業で世界の技術革新をリードしてきた米国が、このまま指をくわえて見ているわけにはいかないと感じさせるほどに、中国企業の成長が著しいのだろう。

 中国は国家プロジェクトとして監視企業の育成を進めてきただけに、これら企業に米国が制裁を加えるということを黙って見ているはずはないとされる。米中の冷戦の戦線は拡大しつつあるようだ。
(イメージ写真提供:123RF)


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