「五輪1年延期」を決定した当時、1日あたりの新型コロナ陽性者数は都内で数十人、全国でも多い日で200人程度。世界全体で数万人ほどだった。
その状況で「今年は五輪はできない」と判断したのだ。

▼いま日本ではその20倍以上、世界でも10倍ほどの水準で推移。国内のワクチン接種率はいまだ2%程度にとどまる。重症者数は連日過去最多を更新、医療崩壊も現実のものとなった。ところが今年は、なんと今から2か月後には東京で五輪を開催するのだという。復興五輪、コンパクト五輪、コロナに打ち勝った証としての――いずれも反故にした挙句の「絆を取り戻すための五輪」(丸川五輪相)だそうだ。


▼1年前の世界に戻ってそのことを伝えたら、人々はどんな顔をするだろうか。「えっ、じゃあなんで今年やらないの?」となるのではないか。

▼米国の社会心理学者ジェームズ・ストーナーが1961年に行った実験によれば、リスク判断を伴う意思決定を集団で行うと、各人の平均的な考えよりもリスキーな結論が導かれやすいことが分かったという。たとえば総理大臣自身が、たった一人で考えてもなお「2か月後に開催」という結論に至っただろうか。熟慮を望む。