日産の本社(神奈川県横浜市)で、2025年度第1四半期の決算発表に臨んだイバン・エスピノーサ社長。厳しい数字が並んだ
赤字決算に工場閉鎖、協業再編の波が押し寄せる――。
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■日産の第1四半期決算は、米関税と販売減が直撃!
まさに崖っぷち! 日産が7月30日に発表した2025年4?6月期(第1四半期)決算の話である。最終赤字は1158億円に膨らんだ。第1四半期としては5年ぶりの最終赤字である。
販売台数は前年同期比10.1%減の70万7000台。北米は2.4%減、中国は27.5%減、欧州は5.1%減と、主要市場で軒並み数字を落としている。特に米国の関税措置の影響で、北米事業の営業赤字は542億円に拡大。
加えて、稼働率の低い神奈川県横須賀市の追浜(おっぱま)工場に関して400億円の減損損失を計上。複数の要因が重なり、業績が悪化した。
日産のイバン・エスピノーサ社長は、「当社が直面する課題の深さを象徴している」と語り、依然として厳しい経営状況が続いていることを示唆した。
ちなみに、今年5月に公表された再建計画では、27年度までに世界17拠点のうち7工場を閉鎖する方針が示されている。
国内では、追浜工場が27年度末に、同じ神奈川県平塚市の日産車体・湘南工場が26年度末までに、それぞれ生産を終了する予定。
自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏はこう指摘する。
「栃木工場(最終組み立て)と横浜工場・いわき工場(エンジン・モーター製造)の役割分担が再編される可能性も。特に横浜工場で計画されている全固体電池の生産設備の動向が注目されています」

現地を歩くと、追浜工場の将来に対する不安が広がっており、地域経済への影響を懸念する声が相次いで聞かれた
そして、かつて日産の主力拠点として、日本のモータリゼーションを牽引(けんいん)してきた追浜工場。その将来には多くの関心が集まっている。
「追浜工場の跡地については、商業施設や住宅地、カジノなどさまざまな噂が飛び交っています。
仮に日産がデベロッパーなどに売却する場合でも、長年マザー工場として地域に根づいてきた企業のため、地域社会の持続的な経済活動を一定程度保証する責任が求められます」
一方、自動車評論家の国沢光宏氏は、工場跡地に関する懸念をこう語る。
「旧日産自動車・村山工場(東京都武蔵村山市)の跡地は、02年に宗教法人に売却されて以来、20年以上ほとんど手つかずの状態が続いています。
追浜工場の売却も、地域経済に大きな影響を及ぼす可能性がありますから、日産の経営判断は決して容易ではない」
とはいえ、現在の日産は深刻な経営難に直面している。
「追浜工場は海に近い一等地です。資金繰りに苦しむ日産としては、早期の現金化を強く望んでいるはずですが、売却の方法を誤れば、損失が膨らむ恐れがあります。
また、土地を担保にして資金を調達する案や、休止状態のまま台湾のホンハイのような外部企業に居抜きで売却する選択肢も検討されているようです。
ただし、経営難による時間的制約に加え、国や銀行など複数の勢力が綱引きをしており、日産が単独で判断を下すのは困難な状況です」
■ホンダとの米国協業が浮上
こうした中、日産はホンダとの米国市場での協業に向けた協議を進めている。米国内工場で生産した車両をホンダに供給するほか、EV(電気自動車)や次世代モビリティ分野でも連携。充電インフラの共同整備やバッテリー標準化の技術開発も検討している。
桃田氏が言う。
「昨年からエンジニアリングレベルで対話を重ねる中で、日産は技術面での課題や開発姿勢の見直しの必要性を強く実感しています。
ただし、ホンダとの協業を最終的にどのように位置づけるか、コスト面の妥当性も含めてまだ結論は出ていません。ホンダとの対話で得た知見は契約範囲内で活用しつつ、ほかの自動車メーカーやIT企業との提携もありえるのでは」
一度は経営統合交渉を進めたホンダとの"元サヤ"はありえるのか。国沢氏は苦笑いしながら首を横に振る。
「そもそも日産とホンダは、クルマづくりの"言語"が異なります。どれだけ協業が進んでも、せいぜいOEM(他社ブランド製造)にとどまるでしょう」
■日産が国内に投入する新型モデル
一方、自動車誌などでは、日産が投入する新型EV・リーフ、ミニバン・エルグランドが国内市場での巻き返しの起爆剤になるとの声もある。自動車誌の関係者はこう話す。
「パトロール、エクストレイル、キックスなどの新型投入も噂されています」
桃田氏はこう語る。
「新型リーフは、多様なEVモデルが国内外で次々と登場する中で、国内EVシェアを守るための戦略的モデルといえます。一方、エルグランドについてはメディアの期待が過剰に膨らんでいる印象があります。
すでにブランドとして確立しているトヨタの高級ミニバン・アルファード&ヴェルファイアの市場を切り崩すのは簡単ではありません。ただ、それでもエルグランドが日産ブランド復興の象徴であることは間違いなく、焦らずに着実にメーカー・販売店・ユーザーの信頼を積み重ねていくことが重要です」
■トランプ関税の行方は依然不透明
米国は日産最大のドル箱市場だが、トランプ政権の自動車・部品への追加関税引き下げ交渉は難航中だ。赤澤亮正経済再生担当相は8月5日、9度目の訪米で関税引き下げを強く求めている。
国沢氏はこう解説する。
「本来ならトランプ関税は8月1日から改定されるはずでしたが、理由不明のまま適用は8月7日に延期。しかも15%への引き下げではなく、既存税率に15%を上乗せする形です。自動車関税は8月9日時点で27.5%のまま。
最大市場である北米でハイブリッド車の投入が遅れている上に、この関税措置が重なり、日産は非常に厳しい状況に追い込まれています」
実は日産の業績悪化は部品メーカーにも大きな影響を及ぼしている。今年6月、グローバル自動車部品大手マレリホールディングス(埼玉県さいたま市)が米連邦破産法「チャプター11」の適用を申請した。
マレリは日産子会社のカルソニックカンセイと海外メーカーとの統合で誕生したが、22年に経営破綻し、現在再建途上にある。ちなみにチャプター11とは、日本の民事再生法に近い、再建型の企業倒産手続きのひとつだ。
「現在、日産では優秀な社員の転職が相次いでいます。
過去に日本航空やゼネラルモーターズも借金を整理して再建を果たしており、悪い選択ではないでしょう。ただし、会社更生法適用になると株券は価値を失う。ルノー所有の日産株も例外ではない。大株主のルノーさえ納得すればの話ですが」(国沢氏)
桃田氏は冷静に語る。
「ポイントは日産がいつまでに何を成し遂げるか。だからこそ、ホンハイを含めたあらゆる連携が"なんでもアリ"の状況。ブランドとしての日産をいかに立て直すか。そのためには手段を選ばない覚悟が求められています」
国沢氏はこう予言した。
「近いうちに大きな発表があるのでは?」
日産は今、かつてない岐路に立ち、再建の行方はひとつひとつの決断にかかっている。
取材・文/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾