ペットボトル飲料が1本200円! 10月の大幅値上げで自動販...の画像はこちら >>

2011年の自動販売機の写真。今では何台も連続して並ぶ設置個所も少なくなっている。
赤字機が撤去されているのが理由か
誰もが一度は使ったことがある身近な自動販売機。その「大国」と言える日本だが、値上げの影響を受けて売り上げが低迷し、赤字機は次々と撤去されているという。

流通ジャーナリストが逆風の吹く業界の未来を解説。匿名を条件に補充ドライバーふたりにも現場のリアルな声を聞いた!

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■人気商品だった缶コーヒーが低迷

日本全国、都心の街角はもちろん田んぼのあぜ道にさえ設置されている飲料の自動販売機。日本は世界有数の「自販機大国」で、普及台数はアメリカに次ぐ世界第2位である。

しかし、そんな日本の自販機業界に激震が走っている。なんと今年10月、自販機のペットボトル飲料が200円の大台に乗るというのだ。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンは10月出荷分から飲料217品目を値上げすると発表している。

代表例では、500mlの「コカ・コーラ」が税抜き180円→200円(メーカー希望小売価格。以下同)に、650mlの「綾鷹」も180円→200円に。500mlペットボトルコーヒーの「ジョージア ブラック」も179円→209円へと引き上げられるという。

原材料・資材・エネルギーコストの高騰が主因とはいえ、同社は昨年も値上げを実施しており、上昇のトレンドは止まらない。

ペットボトル飲料が1本200円! 10月の大幅値上げで自動販売機が街から消える!? 
台数は年々減少し、今は2000年と比べて約3割減している(一般社団法人日本自動販売システム機械工業会調べ)

台数は年々減少し、今は2000年と比べて約3割減している(一般社団法人日本自動販売システム機械工業会調べ)
また、自販機全体の設置台数は年々減ってきている。
ピークだった2000年の約560万台から減少が続き、24年には約391万台にまで落ち込んでいるとのこと。24年間で約3割も減少したことになる。

飲料の自販機は全体の半数余りを占めているが、値上げによる売り上げ低下で採算が合わなくなった〝赤字機〟の撤去が進み、減少機種の代表格となっている。「自販機大国」だったわが国は今後どうなっていくのだろうか?

自販機が姿を消しつつあるのは、値上げだけが要因ではないと流通ジャーナリストの西川立一氏は指摘する。

「コロナ禍で人々の生活様式が激変し、ネット通販や宅配の普及で〝いつでも飲み物が届く時代〟になりました。そこに節約志向の高まりが加わり、定価販売が基本の自販機は、大量仕入れできるスーパーやディスカウントストアの安価な飲料に太刀打ちしづらくなったのです。

また、自販機の主力商品のひとつだった缶コーヒーが、コンビニの〝入れたてコーヒー〟に取って代わられたことも大きな打撃になっています」

この変化は自販機に飲料を補充するルートセールスドライバーも肌で感じているそうだ。

Aさんは大手飲料メーカーからの業務委託で飲料を補充する中小の自販機設置会社に20年間勤め、神奈川エリアを担当。仕事内容は商品補充や空容器の回収、清掃まで多岐にわたり、1日の担当台数は25~30台ほど。勤務時間は朝8時から夜7時頃までと長く、駅前や工業団地など比較的売れやすい場所を回っているとのこと。

「確かに缶コーヒーの売り上げは落ちました。セブン-イレブンの『セブンカフェ』がはやり始めた4、5年前から、3~4割は減った印象です。

缶コーヒーは冬場が売り時ですが、暖冬の影響も売り上げ減に響いているかもしれません。

ただ、ペットボトルのコーヒーは伸びているんですよね。それと、自販機自体の台数が急激に減った感じもありません。

うちの会社の自販機が撤去されても、次に他社のものが置かれるケースも多いですし、物流倉庫など作業所での設置はむしろ増加傾向にあるようです。今年の夏場の売り上げは例年より好調ですしね」

■ドラッグストアには太刀打ちできない

Bさんは家族経営の小さな自販機設置会社に勤めて現在3年目。この業界には11年いる。東京・神奈川エリアを担当し、広範囲をカバーするため移動が多いそうで、1日に回る台数は22~28台ほど。勤務時間は自分で調整でき、道路がすいている夜間に作業することが多いという。

「会社として〝赤字だから撤去〟という話はあまり聞きません。特に夏は売れますし、うちの会社はディスカウント自販機で100円商品を多く扱っているので、メーカーの値上げの影響はそれほど感じませんね」

Bさんはこう言うが、Aさんの会社ではメーカーの値上げの影響が大きいそうだ。

「当社は大手のメーカー系商品のみ取り扱っており、設置場所を提供してくれた企業等への販売手数料が、1本当たり30円かかっています。

それに加えて、私たち設置業者が受け取るマージンがないと採算が取れない。さらに、もろもろのコストも上昇しているので、メーカーが値上げしたのに管理する自販機での価格を据え置くというのは難しい話です。

こうした事情から、今後も自販機商品の価格は上がり続けると思いますし、ますますドラッグストアなどの安売りには太刀打ちできなくなります」

ペットボトル飲料が1本200円! 10月の大幅値上げで自動販売機が街から消える!? 
スーパーやコンビニの飲料は、自販機より50~100円安いことも。節約志向が高まる中、顧客が流れている

スーパーやコンビニの飲料は、自販機より50~100円安いことも。節約志向が高まる中、顧客が流れている
設置場所の人通りが減ったり、競合店舗が増えたりすると売り上げは落ち込み、ランニングコストが重くのしかかる。その結果として赤字になり、撤去される自販機が年々増えているようである。

また、自販機業界が直面している苦境は、「売り上げ低迷」と「運用コスト増」というふたつの要因が絡み合っているもよう。

「運用コストに関していえば、ガソリン代や容器のリサイクル費、そしてこの4、5年で急激に上昇した電気代など、自販機の維持費は総じて上がっています。

しかし最も重いのは、やはり人間が動くコストなのです。自販機はあちこちに点在しているため、商品の補充やメンテナンス、在庫管理に人手が欠かせません。その人件費が年々膨らんでいるのです」(西川氏)

当然、現場の補充ドライバーがラクして儲けているということもなく、長時間労働が常態化している。

「1台の補充に20~30分はかかります。担当エリアは広いため、移動にもかなり時間と手間がかかる。おのずと一日の勤務時間は長くなっていますね」(Bさん)

ペットボトル飲料が1本200円! 10月の大幅値上げで自動販売機が街から消える!? 
補充ドライバーは炎天下でも外での作業が多い。長時間労働も相まって、かなりの体力仕事となる

補充ドライバーは炎天下でも外での作業が多い。長時間労働も相まって、かなりの体力仕事となる
また、現場は深刻な人材不足に悩まされているとも。

「昔から人手不足は感じていましたが、ここ2、3年は特に実感しています。うちの会社の18あるルートのうち、常に2ルートは人手不足で空いたままで、中間管理職の班長が応援に回っている状況。新卒も募集していますが、若い人材はまったく入ってきません」(Aさん)

「うちの会社では補充ドライバーが3人しかおらず、ひとりでも辞めると業務が回らなくなります。本当に深刻な人手不足です。昔から問題でしたが、年々厳しくなっていますね」(Bさん)

■自販機のDX化が進まない事情とは?

慢性的な人手不足に直面する自販機業界で救世主となりうるのが、自販機のDX化である。DX化が進めばPCやスマホから各自販機の在庫状況をリアルタイムで把握でき、無駄な巡回や補充を減らせるため、現場の負担は大幅に軽減されるはずだ。

では、導入状況はどこまで進んでいるのか?

「大手の自販機業者ではDX化がかなり進んでいます。ポイントサービスやキャッシュレス決済の導入、在庫の遠隔管理も実施中です。

ただし、システム投資には莫大(ばくだい)なコストがかかるため、中小業者では導入が遅れがちです。

その結果、大手の寡占化が進み、零細企業や個人経営企業はスポット仕入れなどでなんとかしのいでいるのが現状です。人件費を抑えられるため業界はDX化の方向に進んでいますが、日本にあるすべての自販機をDX化するのは現実的に厳しいでしょう」(西川氏)

現場のふたりも実態を語る。

「他社ではオンラインで売り上げデータが取れますが、うちはまだ定期訪問が基本。

実際に足を運ばなければならないのが現状です」(Aさん)

「大手は遠隔で在庫本数を把握できる仕組みがありますが、うちのような小規模企業では、現場に行って初めて何が売れているかわかります。効率化はまだ進んでいないと感じます」(Bさん)

最後に自販機業界の現状と今後について、率直な意見を聞こう。

「自販機飲料の値上げは今後も続くでしょう。当然それで売り上げが落ちる自販機も出てくるはず。また電気代や手数料の増加で採算が合わなくなれば、撤退する自販機も増えると思います。

ただ、団地や学校周辺、物流倉庫近くなど、立地によってはまだ売れる可能性はあるので、そういうエリアには希望がありますね」(Aさん)

「正直、自販機業界は落ち目だと思います。やっぱりコンビニの存在感が強すぎる。それにうちの自販機はキャッシュレスに対応していないので、時代に取り残されている感があります」(Bさん)

ペットボトル飲料が1本200円! 10月の大幅値上げで自動販売機が街から消える!? 
冷凍食品や弁当など、さまざまな種類の食料品が自動販売機で販売されるようになった。伸びしろがある品目だ

冷凍食品や弁当など、さまざまな種類の食料品が自動販売機で販売されるようになった。伸びしろがある品目だ
一方で、西川氏は業界の将来をすべて悲観しているわけではないようだ。

「今後は大手の寡占化や協業が進むでしょう。実際、伊藤園とコカ・コーラ ボトラーズジャパンは、昨年8月から愛知エリアで共同配送を開始しました。コンビニ同様、物流の協業化は人手不足対策として非常に有効です。

また、飲料以外の自販機、例えば冷凍食品自販機のような、今は〝おもしろ枠〟とされている形態にはまだまだ伸びしろがあります。

飲料の割合は今後さらに減るでしょうが、これからは一物多価(ひとつの商品に多様な値段がつく)の時代。確かなニーズがあるため、今後も自販機自体が完全になくなることはないでしょう」(西川氏)

いずれにしても、自販機の飲料が1本200円という時代に突入したら、購入をためらう人は少なくないだろう。

取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/時事通信社

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