【#佐藤優のシン世界地図探索125】「21世紀のヤルタ会談」...の画像はこちら >>

ホワイトハウスに集められたヨーロッパ首脳たち。皇帝とその家臣たちの関係の上に、「21世紀のヤルタ会談」を経た世界構造が成立した(写真:ABACA/共同通信イメージズ 「ABACAPRESS.COM」)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――前回おっしゃっていたように、8月15日に開催されたアラスカでのトランプとプーチンの会議は、「21世紀のヤルタ会談」になったと。

さらに佐藤さんは、トランプは集団的自衛権と集団安全保障の違いも分からず、ウクライナ、ヨーロッパ、ロシアの安全保障、つまりウクライナの停戦よりも和平を選んだ、とお話しされていました。

その後、8月17日にヨーロッパ主要国とウクライナの首脳会合が行なわれ、日本もそこに参加しました。

佐藤 マクロン仏首相は日本を巻き込むために「日本に期待します」と言ったんですが、この時の石破茂首相の答えが素晴らしかったですね。「これは重要な問題だから、みんなで話し合いましょう」とね。

――石破首相はプーチンと同じで、集団的自衛権と、集団安全保障の違いを理解していると。

佐藤 よくわかっていますよ。いま、世界は大変な構造的転換が起きています。だから、こう答えることで、総長賭博と同じく、「見(けん)に回らせていただきます」と。これまた日本がお得意の傍観者になったわけです。

――第三者になる、と。

佐藤 火中の栗は拾わないという賢明な判断です。

日本国内でやることが沢山ありますからね。

――石破首相は火中のコメを、小泉の息子さんに任せるとか、お忙しいですからね。

佐藤 日本はまず、ロシアから恨まれていません。ウクライナに殺傷能力のある兵器を送っていないですから。

――日本は武器も送ってないし、誰も殺していない。

佐藤 だから、すごくいいスタンスをとっていると思います。筋が悪いので、いまはヨーロッパに近づかないことが重要です。いまこそトランプと一緒に日米同盟を深めればいいんですよ。

――中国の動きも気になるのですが、台湾侵攻はありますか?

佐藤 ないでしょう。味方だと思っていたロシアはアメリカと結びついたわけです。それに台湾の半導体メーカー・TSMCなんかを破壊したら、全世界に対する犯罪ですよ。中国にとっても大損です。

――知らないうちに、中国はかつて全世界を敵に回した大日本帝国と同じ立場に立たされた。

佐藤 だから、非常に調子が悪いわけです。

――米露が結託したので、中国の習近平が急に動き出しました。

佐藤 まず、中国は外相を8月19日にインドに送って、関係性を深めようとしていますよね。それと同時に、日本との関係も改善しています。

――中国は8月20日にアフガニスタン、パキスタンの外相による三者協議も開いています。習近平は、今回のウクライナ和平の構造をよくご理解されているのですか?

佐藤 そこは理解しています。そして、習近平が非常に心配しているのはカシミールです。インドとパキスタンの係争地ですが、あそこの人口密度は1㎢あたり56人です。

――大変少ない、ということは......。

佐藤 広島の人口密度は1㎢あたり1300人です。おそらく1945年もそんなに変わらないと思います。

――米軍はそこに核兵器を投下しました。

佐藤 おそらく、カシミール紛争でインドが追い込まれることはありません。しかし、パキスタンが極度に追い込まれた場合、核を使う可能性が高いんです。

――パキスタンは使いそうですね。

佐藤 そうなれば、多く見積もって数千人の死者が出ることになります。ガザ地区やウクライナに比べれば、その数はどうでしょうか。

――微々たる数字となります。すると、核兵器を使ってもいいんじゃない?となります。

佐藤 そうです。そうして核兵器の怖さが過小評価されてしまいます。つまり、人口密度の低いところで核兵器は使われるとそういう危険があるわけです。

――中国の習近平、インドのモディ首相は、力の均衡する所で国境ができるとわかっているおふたりです。

佐藤 彼らは、力が均衡する場所に戦いを引き戻さないといけないと思っています。しかし、インドと中国はいいんですが、パキスタンだけが弱くなっている状況です。

その力の論理に従うと、パキスタンはインドに譲歩させられることになりますが、パキスタンはぶっ飛んでいるところがあります。

――印パは宗教が違います。

佐藤 宗教も違うし、国の成り立ちも違います。さらに、パキスタンは誰が核のボタンを持っているかわからない状態です。

――「あれ? 核ミサイル発射したけど、誰がボタン押した?」そんな恐ろしい状況になっているかもしれない......。

佐藤 「インドのやつらがふざけたことをするので、ついカッとなったから」とか、そんなこともあるかもしれません。

――もし核兵器を使うハードルが下がってしまえば、常に他国を威嚇している中国は逆に核攻撃に世深圳界で一番弱い国となりますね。深圳で8821人、上海が3926人と人口密度が半端でないから、核攻撃を受ければ犠牲者の数はすさまじくなります。

さらにインドは、8月21日に核弾頭搭載可能の国産アグニ5(射程5000km以上)の発射実験に成功しています。

佐藤 だから、中国はインドから来るミサイルも怖いけど、まずはパキスタンが核兵器を使うことを止めさせたいわけです。

中国はパキスタンに対して「無茶しないでくれ」と影響力を行使できるようにすることが重要です。

――パキスタンに核を使わせないという利益は、中国がインドとの良好な関係になるためのツールとなる。

佐藤 そういうことです。

――話は戻りますが、前のヤルタ会談の後は、米ソ冷戦の最前線に日本は位置しました。今回、マクロン仏首相が日本を名指ししたのは、道連れにしてやろうとの悪意ですか?

佐藤 そんな心配する必要はないですよ。フランスはもうすぐ選挙で国民戦線の政権になりますから。それから、ドイツも「ドイツのための選択肢」がもっと台頭してきます。

――世界は右派政権の下に平和となる。

佐藤 右派というより、自分の国を愛する「普通の人たち」ですね。

――その「普通の人たち」は自分の国だけを心配して、アフリカなどの移民は受け入れず、「お前らはそっちでやってくれ」となる。

佐藤 そういうヨーロッパに変わっていきます。汚い仕事も国民で分担しよう、成長はもうこれくらいでいい、となっていきますね。

――一方、アラスカ会談以降、米露はすごい勢いでいろいろとやり始める。

佐藤 アラスカ、サハリンといった北極圏にある資源を、米露のノウハウを共有して開発したりするでしょうね。

――となると、焦るのはカナダ。頭越しに全てが通り越していく。

佐藤 だから、カナダはベラルーシですよ。アメリカ、カナダ国家連合だから、独立国家のままでいいから、カナダをベラルーシ化するわけです。そのあたりはプーチンに指南してもらえば問題ありません。

――なんとすさまじいシン米加連合。すると、今度はメキシコが焦りませんか? あっ、あそこの国境は移民阻止と麻薬密輸根絶だから、封鎖でありますね。

佐藤 そう、それはイスラエルにやり方を学べばいいんです。

――メキシコは巨大なガザ地区となる。こうなると、いままでと違う形の世界平和が見えてくる。

佐藤 アメリカの最低賃金も上がるし、不法移民もなくなります。

――そして、そんな状況でも日本は石破首相の言ったように「大事なことは皆で話し合いましょう」と、傍観者なので安泰だと。

佐藤 はい、大丈夫です。

次回へ続く。次回の配信は9月12日(金)を予定しています。

取材・文/小峯隆生

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