支持率の低下が止まらないトランプ大統領
アメリカ各メディアの世論調査で支持率40%を下回り、11月の中間選挙での大敗も見えてきたトランプ大統領。現地では熱狂的な支持者たちも戸惑いを見せており、中には「反トランプ」に転向してしまった人も続出しているようだ。
マイク一本の話芸で全米を沸かす日本人スタンダップコメディアン(*)、Saku YANAGAWA(柳川朔)氏が、メディアには映らない現地の"普通のトランプ支持者"にフォーカス。その複雑な本音に迫った!
(*)コメディアンがひとりでステージに立ち、マイク一本で笑いを取る"西洋話芸"。話題は実体験、時事ネタ、風刺、時に下ネタとなんでもありで、政治的主張も含め、その話芸には演者のパーソナリティが色濃く表れる
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【「あのローガンが言うように」】「トランプは戦争をしない大統領だ」
少なくともトランプに投票した人々、特に彼のスローガン「MAGA」(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)に共鳴した人たちはそう信じていた。
アメリカファーストを掲げ、再び大統領に就任したドナルド・トランプ(共和党)。しかし、2026年になると軍拡路線にかじを切り、1月にベネズエラを攻撃すると、2月末にはイランとも戦争を開始した。
4月7日には自身のソーシャルメディアに、イランがホルムズ海峡を開放しなければ「ひとつの文明が丸ごと滅び、二度と戻ることはないだろう」と投稿し、大きな物議を呼んだ。
その後、イランとの2週間の停戦が発表されたが、協議は合意には至らず、今なお予断を許さない状況が続いている。
イラン攻撃以後、アメリカ国内のガソリン価格は高騰し、物流にも大きな影響が出ている。米CBSが4月に行なった世論調査によると、トランプの支持率は39%にとどまり、今年実施される中間選挙でも苦戦するとの見方が強い。
そして、これまでトランプ支持を表明してきたMAGA派インフルエンサーたちからも相次いで批判の声が上がっていることは特筆すべき事態だ。まさに「インフルエンス(影響)」を与える彼らのトランプ批判は、街の人々の心にも大きな変化をもたらしている。
スタンダップコメディアンとして人気を博すSaku YANAGAWA
こうした中で今、トランプ支持者たちは何を思うのだろうか。
最初に訪れたのは米中西部、イリノイ州の郊外、ボーリングブルック。州最大の都市シカゴは民主党の支持の根強いリベラルな街だが、ひとたび車を数十分ほど走らせると、まったく違った景色が広がる。
家々には「トランプ2028(2028年の選挙でもトランプを)」と書かれたステッカーが貼られ、庭には「MAGA」の看板が立てかけてある。
その町でトラックドライバーを営むブランドンさん(52歳・男性)に話を聞いた。16年の選挙から3回連続でトランプに投票してきたというブランドンさんは、強い口調でこう語った。
「原油高は俺たちにとって死活問題だ。正直、2022年のときよりきつい」
彼は、ロシアのウクライナ侵攻の際にガソリン価格が高騰したときのことを「バイデンショック」と呼んでいた。
そんなブランドンさんが長距離運転に欠かせないと話すのがコメディアン、ジョー・ローガンのポッドキャスト『ジョー・ローガン・エクスペリエンス』だ。
「この番組のおかげで、眠たいときも疲れたときもハンドルを握っていられるんだ」
毎週1000万人以上が聴くこのポッドキャスト番組の影響力は計り知れない。ジョー・ローガンがゲストを招き、対話をする番組で、彼の軽妙な語りとともに人気を博し、Spotify(スポティファイ)社は24年に彼と最大2億5000万ドル(約350億円)の契約を結んだともいわれている。
24年の大統領選の際にはローガン自身がトランプを番組にゲストとして招き、投票直前には改めて支持を明確にしたことが多くのリスナーの投票行動につながったとされている。
しかし、そんなローガンも今年に入りトランプへの批判を強めている。特にイラン戦争以後は、番組内でも厳しく糾弾する発言が増している。
ブランドンさんは語気を強めて語る。
「そもそも約束と違う。ローガンの言うように、トランプは戦争をしない大統領のはずだった。トランプは国内の景気を良くすると言ったんだ。それなのに、自分から仕掛けた戦争で景気は今ひどい状態だ。こんなの俺たちが望んだ結果じゃない」
自身のSNSのプロフィール写真では誇らしげにMAGA帽をかぶっていたブランドンさんだが、この日はシカゴ・ホワイトソックスの少しよれた帽子を目深にかぶっていた。
【「私たちの暮らしはどうなるの?」】米南東部フロリダ州、マイアミ郊外のハイアリアという町にも訪れた。
近年、共和党の支持基盤がより強固になりつつあるフロリダ州において、この町でも24年の大統領選でトランプが圧倒的な勝利を収めた。ホームセンターに勤めるローラさん(38歳・女性)はトランプによるイラン戦争の「構造」に疑問を感じていると語る。
「そもそもこの戦争で儲かるのは、エリート層と大富豪だけでしょう。
地元の高校を卒業後、結婚、離婚を経て現在3人の子供を育てるシングルマザーのローラさんは、「明日の暮らしが厳しい中で、またここからモノの値段が上がったら、私たちの暮らしはどうなるの? 戦争の大義も動機もわからない。とにかく私にとって大事なのは生活なの」と訴える。
保守派政治コメンテーター、キャンディス・オーウェンズは、トランプの熱烈な支持者として知られていたが、最近はトランプ批判を展開している
MAGA派の代表的な女性インフルエンサー、政治コメンテーターのキャンディス・オーウェンズは、最近、トランプとの対立を深めている。そして彼女の戦争の「構造」に対する主張も、ローラさんの先述の意見と一部重なる。
もともと「反エリート主義」を軸に、民主党政権を批判し続けてきたオーウェンズは、持ち味であるその過激な物言いで多くの人々の人気を獲得してきたが、先のイラン攻撃を一部の特権階級のみが利益を得る戦争とし、「完全に狂っている」と厳しく糾弾。トランプ政権のことを「慢性的な失望」と断罪した。
こうしたオーウェンズの批判にトランプも応戦し、自身のソーシャルメディアで「(彼女は)IQが低く、誰からも相手にされない」と散々な言いようで、くさしてみせた。
【「投票したことを後悔している」】支持者からのトランプに対する不満は「経済」のみならず「宗教的価値観」にも及ぶ。
続いて訪れたのは米南東部ジョージア州アトランタ。
アトランタ自体は多様性に富む圧倒的な民主党支持のエリアだが、やはり州全体で見ると郊外へ行けば行くほど保守層の票が厚くなり、前回の大統領選でも「激戦州」と目される中、共和党が勝利を収めた。
共和党支持層の若者を中心に絶大な人気を誇った保守活動家のチャーリー・カークは、トランプ人気を支えるキーマンだったが、2025年9月に大学での講演中に銃撃され、31歳という若さで命を落とした
アルファレッタという町に住むデニースさん(40歳・女性)は敬虔(けいけん)なクリスチャンだ。昨年9月の講演中に殺害されたインフルエンサーのチャーリー・カークが設立した政治団体「ターニング・ポイントUSA」の集会にも足を運んだことがあるという彼女は、トランプの一連の「不敬」に眉をひそめる。
きっかけは、ローマ教皇レオ14世が、イラン攻撃を受けトランプを批判したことだ。初のアメリカ出身の教皇であるレオ14世が、トランプ政権のやり方を「とうてい受け入れられるものではない」とし、戦争を仕掛けることは「力への幻想」だと痛烈に非難した。
これを受けトランプはまたも自身のソーシャルメディアで反撃、「教皇レオは犯罪に対して弱腰で、外交政策にとって最悪の存在だ」とこき下ろした。さらに、自身をキリストに見立てた生成AIイラストまで投稿し物議を醸した。
第267代ローマ教皇のレオ14世。初のアメリカ出身(シカゴ)の教皇であり、「世界はひと握りの暴君に蹂躙されている」とアメリカとイランの戦争について、トランプ大統領を非難した。ちなみに、MLBのシカゴ・ホワイトソックスのファンらしい
4月12日、トランプ大統領が自身のSNSアカウントに投稿した生成AIで出力した「宗教画」。自身をキリストのように描いたその絵は、支持者たちからも「冒涜だ」と評判は最悪で、トランプ陣営はすぐに画像を削除した
これらの言動に共和党を支持してきたデニースさんも動揺を隠せないでいる。
「あまりにもひどすぎます。キリストや教皇を侮辱することはあってはならないことなのに。最近の"あの人"(that person)の言動には心底失望しています。正直、"あの人"に票を入れたことを後悔しています」
トランプの名前さえ聞きたくもなければ、発したくもないと、終始「あの人」という呼称を用いていたのが印象的だった。
「"あの人"は私たちのキリスト教的価値観にもっと寄り添ってくれると思っていただけにつらいです。私の周りにもそう思っている人がきっと多いはずです」
ジョージア州選出の元下院議員(共和党)マージョリー・テイラー・グリーンは、かつてはトランプへの絶大な支持と忠誠を見せていた。しかし、イラン攻撃を受け「反トランプ」の姿勢を明確にし、とりわけキリスト教信者として「トランプは今こそ神に許しを乞うべきだ」と批判した。
そして4月7日、先述のトランプの「ひとつの文明が丸ごと滅ぶ」という発言の際には、「25条発動だ」と自身のSNSに投稿した。
この「25条」とは合衆国憲法修正第25条を指し、大統領が職務を遂行できなくなった際に、権限を事実上停止できる仕組みのこと。現在のトランプを「職務遂行不可能」と断罪し、大統領の変更を訴えたのだ。
こうしたかつてのMAGA派議員の「造反」も、今後の政権に何かしらの影響を及ぼすかもしれない。
【「トランプは戦争なんてしたくないんだ」】ジョージア州アトランタでのスタンダップコメディの公演後、町はずれのダイブバー(安酒場)を訪れた。
たまたま隣の席に座った革ジャンのよく似合うパットさん(33歳・男性)は、トランプに投票してきた支持者のひとり。
すでにほろ酔いで、筆者が日本人であること、そして同い年であることがわかると、「お、それなら1杯目は俺のおごりだ! ウエルカム・トゥ・ジョージア!」と缶のミラーライトをごちそうしてくれた。
ふたりでビールを飲みながら、会社の話やスポーツの話をしていると、話題は突然トランプに及んだ。
「いいか、俺はトランプだって本当のところ戦争はしたくねえって思ってるって思うんだ。
すると周りを見回しながら、少し声を潜めて言った。
「それがDS(ディープステート)かBS(Bullshitの略、嘘っぱちという意味)かはわかんねえけど、裏に巨大な何かがあるに決まってる。アレックス・ジョーンズもそう言ってたんだ」
米ニュースサイト『インフォウォーズ』を運営するラジオ番組司会者であるアレックス・ジョーンズはアメリカで最も有名な陰謀論者。米小学校で児童含む26人が殺害された銃乱射事件について、「政府による捏造」「遺族は俳優」などと主張。遺族との裁判で計14億ドル(約2200億円)もの賠償命令を受けた
アレックス・ジョーンズは右派系のラジオホストだ。陰謀論めいた内容を歯に衣(きぬ)着せぬ語りで届ける自身のショーは圧倒的な人気がある。その過激すぎる発言ゆえに名誉毀損(きそん)で多額の賠償金を求められ、主要メディアからは事実上の追放となったが、パットさんのように根強いファンも多い。
16年の選挙の際にはトランプと相互支援を行ない、ふたりは「盟友」とも評されたが、イラン戦争以後は痛烈にトランプを批判し、対立。その中で、アレックス・ジョーンズはたびたび「影の組織」の存在を示唆し、それがトランプを戦争に向かわせていると主張していた。
「俺はトランプの背後にいる大金持ちが糸を引いているように感じるんだ。アデルソンとかな」
ここでいうアデルソンとはユダヤ系の大富豪ミリアム・アデルソンを指している。彼女はその資金力を武器にトランプに多額の献金を行ない、政権への影響力も非常に強いとされている。
彼女や他のユダヤ系の献金者がトランプに何かしらの圧力をかけているという証拠はないが、シオニスト(ユダヤ民族主義者)がイスラエルを支持する中で、そうしたユダヤ系大口献金者の存在が、アメリカ軍のイラン撤退をしにくくさせているのではないか、と信じるトランプ支持者は多い。
顔をすっかり赤らめたパットさんは、よりいっそう語気を強めて語った。
「いいか、それでも俺はトランプに投票するんだ。完璧な人間じゃないのはそりゃわかってる。でも、トランプにしかアメリカを良くできねえだろ。
正直、その根拠はもうわからない。でも、トランプのガッツとパワーを俺は信じてるんだ。信じるしかない。アメリカのエリートたちに置いてかれちまった俺たちを導いて、引っ張っていってくれるのはトランプだけだ。そうだろ? 違うか?」
そう言うと、パットさんは少し不安の入り交じった、それでいてどこか晴れやかな表情でミラーライトをゴクリと飲み干した。
彼の言葉はどこか「祈り」のようにも感じられた。
●Saku YANAGAWA
1992年生まれ。アメリカ・シカゴで活動する日本人スタンダップコメディアン。シカゴのクラブにレギュラー出演しながら、全米でツアー公演を行なう。2021年、フォーブス・アジア「世界を変える30歳以下の30人」選出。著書に『スタンダップコメディ入門』(フィルムアート社)や『どうなってるの、アメリカ!』(大和書房)ほか
公式Instagram【@saku_yanagawa】
取材・文/Saku YANAGAWA(柳川朔) 写真/共同通信社 時事通信社 アフロ
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