前編:大谷翔平「投手専任」起用の背景
ロサンゼルス・ドジャース移籍後、「二刀流」として初のフルシーズンを戦っている大谷翔平は、ここまで5試合に先発して2勝1敗、規定投球回数には達していないものの、防御率0.60と投手としてすばらしいスタートを切っている。一方で今季5試合目の先発登板は「二刀流」ではなく、初めて「投手専任」での起用となった。
その理由は何なのか。デーブ・ロバーツ監督の試合前会見と、試合後の大谷の会見でのコメントをもとに紐解いてみる。
【彼にとっては、半日勤務のようなものだ】
4月28日(日本時間29日)、ドジャースタジアムで行なわれた試合前会見で、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はひとつのテーマについて、いつになく長く語った。
この日のマイアミ・マーリンズ戦で先発する大谷翔平を、なぜいつもの「二刀流」ではなく、「投手専任」で起用するのか――。
通常、試合前の監督会見では、先発メンバー、故障者情報、相手投手への対応、前日の試合の振り返りなど、複数の話題が短い時間で扱われる。ひとつのテーマについて質疑が長く続くことは、そう多くない。だが、この日は違った。大谷の起用法をめぐり、約10分間、質問が続いた。
ドジャース移籍後、そして2度目の右肘手術を経て、大谷が本格的な二刀流でフルシーズンを戦う最初の年。チームはその身体をどう守るのか。毎日打ち、毎週投げることは、どこまで持続可能なのか。それは、2026年のドジャースにとって最も重要なテーマのひとつだからだ。
ロバーツ監督はまず、この判断が日程と負荷を考慮したものだと説明した。
「13連戦の12試合目ということもあった。翔平が日々こなしていることを考える必要がある。今日は少しリスクを抑えるというか、両方のバランスを取る機会だと考えた」
大谷はこの日、今季初めて中5日で登板する。翌日は12時10分開始のデーゲームで、さらにその翌日は休養日だった。ここで打撃の役割を外せば、この夜は投球に集中し、翌日は打者として戻り、その後に休養日を迎えられる。ロバーツ監督は、この流れを大谷にとっての「リセットの機会」と見ていた。
ただ、質問はそこで終わらなかった。記者たちの関心は、より本質的な問いへ向かった。
大谷の投手としての価値と打者としての価値を、シーズンのなかでどう両立させるのか――。
「一番大事なのは、彼にとって何がベストかということ。特に健康面だ。もちろん、理論上も実際のプレーとしても、彼が両方をこなすのはすばらしい。
この日の判断は、投手・大谷のパフォーマンスを最大限に引き出すためなのか、それとも、健康とフレッシュさを優先したものなのか――。
そう問われると、ロバーツ監督は明確に「後者だ」と答えた。打撃の準備をしなくていい。相手先発投手へのゲームプランを考える必要もない。そのぶん、心身の負担は軽くなる。監督はそれを、こう表現した。
「彼にとっては、半日勤務のようなものだ」
【前例のない選手を、前例のない形で守る難しさ】
大谷本人とのやり取りについても質問が飛んだ。
どのように理由を説明したのか、大谷から質問はあったのか――。
「細かく説明したわけではない。彼はただ、コミュニケーションを求めている。私は自分の決定を伝えた。彼はそれを受け入れて、前に進んだ」。
「彼が同意していなければ、私に言ってくれると思いたい」
この微妙な言い回しに、この決断の難しさがにじんでいた。
ドジャースは大谷を守ろうとしている。大谷もチームの判断を尊重している。だが、二刀流をどう持続させるのが正解なのか。前例がないだけに、誰も確かな答えを持っていない。ロバーツ監督は、今後も同じ起用が当たり前になるとは言わなかった。一方で、これが最後だとも言わなかった。前例のない選手を、前例のない形で守る。異例の10分間は、その難題の大きさを物語っていた。
その夜、大谷翔平は、ドジャース移籍後最多となる104球を投じた。
これまでなら、自らのバットでチームを助けられた場面もあったのではないか。投手に専念する日だったからこそ、それができないもどかしさはなかったのか。
記者の質問の意図は明らかだった。しかし、大谷はそこに乗らなかった。
「あまりいい点の取られ方ではなかったですし、毎回のようにランナーも出て、(チームが)攻撃に集中できるような流れを作れなかった」
打線の援護不足を嘆くのではなく、むしろ自分が投手としていい流れを作れなかったことに責任を引き寄せた。さらに、こう続けた。
「打線に貢献できなかったというよりかは、悪い流れを攻撃面に持ち込んでしまったのかなと思います」
大谷は、打者として出場しなかったことを敗因に結びつけるのではなく、投手としての自分に矢印を向けていた。
この答えは、極めて大谷らしいものだった。チームメートを守り、責任を自分に向ける。打者として出ていれば、という仮定には深入りせず、投手としての反省に置き換える。ドジャースのリーダーのひとりとして、チーム批判にならないよう、慎重に言葉を選んでいた。
【大谷のコメントから分析するその真意】
その一方で、大谷の言葉にはもうひとつの側面もあった。
登板日に打撃を行なわないことは、シーズンを通してスタミナを保つ助けになると思うか――。そう問われると、大谷は即座には肯定しなかった。「どうですかね」と前置きしたうえで、こう答えた。
「個人的には、どちらでも『いけ』と言われたほうでいきたい」。さらに、長いシーズンのなかでは、チームがほかの選手をDHで試したい場合もあるかもしれないとし、自身にとっても健康を保つうえで、そういう登板が「もしかしたらプラスかもわからない」と続けた。
ここには、明確な線引きがある。大谷は投手専任での起用を否定しているわけではない。
別の質問でも、大谷は同じ姿勢を崩さなかった。投げるだけの日があるなかで、シーズン全体を見据えて自分の状態を管理するのは容易かと問われると、「どちらでも僕的には大丈夫」としたうえで、「理想は全員がケガなく10月へ向かうことだ」と答えた。そして、そのための管理は「トレーナー陣を含め、チーム全体で話し合いながら進めるものだ」と説明した。ここでも主語は、「自分」ではなく「チーム」だった。
二刀流として結果を残してきた今でも、休養や投手専任をめぐる議論が起こることをどう受け止めているのか。そう問われても、大谷は「そこは特にはない」と言いきった。そして再び、こう語った。
「『いけ』と言われたときにいきたい」
この日の大谷の言葉には、ふたつのものが同居していた。ひとつは、チームの一員としての成熟である。打線の援護がなかった敗戦でも、責任を他者に向けず、自分の投球が試合の流れを作れなかったこととして語る姿勢。そこには、ドジャースの中心選手としての自覚があった。もうひとつは、二刀流の起用法に対する慎重な距離感である。大谷は不満を口にしているわけではない。だが、投手専念が自分の発案であり、自ら望んだ選択だとも言っていない。あくまでチームにまかせ、そのなかで最高の準備をする。そういう立場を保っていた。
後編につづく「最新データ&内野守備コーチの証言から読み解く、投手・大谷翔平の好成績を支える「ゴロ率」と「守備位置」の変化」










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