5月3日(日)、京都競馬場では天皇賞・春が開催される。今年はフルゲート18頭に対して16頭がエントリーし、最終的に15頭がゲートインする見込みだ。

 過去10年を振り返ると、フルゲートの18頭立てで行われたのは、2016年・22年・24年の3回だけ。昨年は今年と同じく15頭立てで、13頭立てで行われた年もあった。

<天皇賞・春>社台ファーム代表の“2400m短縮案”で物議…...の画像はこちら >>
 なかなか頭数がそろわない理由の一つが、やはり3200mの距離だろう。大阪杯(2000m)、宝塚記念(2200m)とともに、春の古馬三冠レースと称される天皇賞・春だが、同一に扱うには明らかに距離が長い。

 天皇賞・秋(2000m)、ジャパンC(2400m)、有馬記念(2500m)と続く秋の古馬三冠レースと比べても、違和感を抱くファンも少なくないだろう。

吉田照哉氏の発言がファンの間で物議

 そんな国内屈指の長距離G1に一石を投じたのが、社台ファーム代表の吉田照哉氏である。

 先月6日、『サンスポZBAT!』が吉田氏のインタビュー記事を前後編に分けて配信。「社台ファーム吉田照哉代表、馬主50周年に競走馬と歩んだ半生を語る」と題した記事内での吉田氏の発言が一部競馬のファンの間で物議を醸した。

 日本馬による海外挑戦の話の流れで、吉田氏は日本の競馬番組についてある提言を行った。ここでいう競馬番組とはレースが施行される状況や、出走するために必要な条件がまとめられたもので、それぞれのレースの競馬場や距離、騎手の負担重量、賞金額などのことである。

「春の天皇賞を2400メートルにしてほしいんです。2400メートルなら、そこをステップにキングジョージに行くことができます」

 吉田氏は現在3200mで行われている天皇賞・春の施行距離を800m短縮し、2400mで行うことを提案。その理由として、毎年7月にイギリス・アスコット競馬場で開催される「キングジョージ6世&クイーンエリザベスS」に挑戦しやすくなることを挙げた。


 さらに「3200メートルの天皇賞を勝つと、種牡馬の価値が逆に下がるという風潮があるのも事実。もう時代にそぐわない。そのうち長距離馬ばかりの白けたレースになるかもしれません。2400メートルにすれば明らかに出走馬のレベルは高くなりますよ」とも発言。世界的にスピード化が進む競馬界において、長距離G1の不要論を持ち出した形だ。

「なぜ海外G1に合わせないといけない」競馬ファンから非難の声も

 確かに現在JRAで行われている平地G1・24レースのうち、3000m以上の長距離レースは天皇賞・春と菊花賞だけ。かつて3200mで行われていた天皇賞・秋も、グレード制が導入された1984年に2000mへと距離を大幅に短縮している。

 国内はもちろん世界競馬を俯瞰する立場の吉田氏とすれば、今回の発言は大胆な改革案でもなんでもなく、いたって自然な提言だったに違いない。しかし、この考えには多くの競馬ファンから非難の声が上がった。

「何で海外G1に日本が合わせないといけないんだ?」
「天皇賞は天皇賞。キングジョージはキングジョージ」
「2400mにする発言はまあいいとして伝統ある天皇賞をステップアップレースする発言は看過できない」

 日本が誇る社台ファーム。その代表が発した天皇賞・春の在り方についての提言は、SNSで取り上げられるとあっという間に拡散され、ちょっとした炎上騒ぎとなった。

長距離G1の不要論が「至極当然の提言」と言えるワケ

 多くのファンが拒否反応を示したのが、天皇賞・春を海外G1の“前哨戦”にすべきという意見に対してだった。キングジョージは1951年に創設されたイギリスの由緒あるレースだが、天皇賞は春秋合わせて173回目を迎えるさらに格式の高い伝統レース。
距離の関係で有力馬が揃いづらくなっているとはいえ、あまりにも海外競馬を上に、国内競馬を下に見すぎた発言だったともいえるだろう。

 ただ吉田氏の言い分にも一理あるのも事実だ。もし今年の天皇賞・春が2400mで行われれば、大阪杯2着のメイショウタバルや、クイーンエリザベス2世Cに出走したマスカレードボールあたりが出走に踏み切っていてもおかしくない。

 生粋のステイヤーと呼ばれる存在が絶滅危機に瀕しているからこそ、至極当然の提言だったかもしれない。

不気味さが漂うヴェルテンベルクは…

 そして、その吉田氏だが、今年の天皇賞・春に自身の所有馬を出走させてきた。それが大外8枠15番に収まったヴェルテンベルクだ。

 今年6歳となった同馬は、昨年2月の時点で1勝クラスを走っていたが、6月にかけて3勝。わずか4か月でオープン入りを果たした。

 大器晩成と呼ぶにふさわしいヴェルテンベルクだが、それまで2000m前後の距離を走っていた。ところが、オープン入り後は、松若風馬騎手の進言もあって、長距離レースを使われている。

 昨年12月のステイヤーズSで6着、今年2月のダイヤモンドSで4着と馬券圏内には届かなかったものの、スタミナを生かす競馬が板についてきた印象もある。

 何より2か月半ぶりの実戦で状態面がピークを迎えている。
栗東坂路での最終追い切りは、4ハロン51秒6の猛時計をマーク。馬場や位置取り、展開次第で一発があってもおかしくない雰囲気が漂っている。

 天皇賞・春に対する発言が物議を醸した吉田氏の所有馬というだけでも不気味さが漂うヴェルテンベルク。奇しくも注目馬のクロワデュノールと同じキタサンブラックの産駒でもある。今年の天皇賞・春は「こっちのキタサンブラック産駒だった」というオチに期待してみたい。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
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