看板番組を手がけるエリート……と思われがちだが、実はそうではない。いくつもの失敗と挫折を重ね、社内外から批判を浴びせられることもあったという。しかし、紆余曲折を経たからこそ、作れるものがある。番組制作の舞台裏から“情熱の伝え方”まで、福岡氏に話を聞いた。
―著書『情熱の伝え方』の中で自ら「お荷物社員だった」と書かれています。
「就職活動では補欠採用でしたし、入社してからも落ちこぼれ。
―そうした過去があるだけに、『情熱大陸』のプロデューサーに起用されて驚いたのでは?
「上司には『自分でいいのか』って何度も確認しましたよ(笑)。僕には強烈なリーダーシップもないし、どちらかといえばネクラでネガティブな人間。言葉では伝えられないので、何事も行動で示し、スタッフの信頼を得るように心がけました」
―具体的にはどのようなことをしたんですか?
「ディレクターは一本の放送を作るのに、何ヵ月、長ければ何年もかけて密着しているんです。当然、その一本には計り知れない情熱が込められている。だからこそ、僕は少しでもVTRがよくなるように、土日だろうが、夜中だろうが、ギリギリまで編集するようにしています」
―サッカー日本代表・香川真司選手を取り上げた回は、放送前日に追加取材したんですよね。
「アジア大会決勝の翌日が放送日だったんですが、準決勝の韓国戦で香川選手が骨折してしまったんです。このとき、放送の4日前。どうしても香川選手のコメントを番組に入れたい。すると、放送前日に帰国することがわかり、なんとかインタビューすることができたんです。当日までどんな映像が撮れるかわからなかったので、プレッシャーは相当ありました」
―番組で密着された方から学ぶことも多いですか?
「そうですね。壇蜜さんに出演交渉をしたとき、ご本人に『面白い番組にしたいと思っています』と伝えたんです。
今思うと、ありきたりな言葉ではなく、ちゃんと明確に説明するべきでした。それができるかどうかで信頼度が変わり、その後の取材対応も違ってくる。撮影ではそれを踏まえ、丁寧に説明しながらインタビューをしたことで、壇蜜さんはほかの番組では見られない素顔を見せてくれました」
―番組制作で大事なことは?
「情熱と誠意ですね。以前、作家の伊集院静さんの取材をしているとき、こちら側の粗相で撮影NGになったことがありました。
(取材・文/高篠友一 撮影/本田雄士)」
●福岡元啓(ふくおか・もとひろ)
1974年生まれ。毎日放送に入社し、ラジオ局、報道局を経て、2010年秋から『情熱大陸』のプロデューサーに。東日本大震災直後の「小島慶子篇」などでギャラクシー月間賞を受賞。5月4日、11 日には「情熱大陸800回スペシャル」が放映予定
■『情熱の伝え方』
双葉社 1300円+税
毎日放送の人気番組『情熱大陸』のプロデューサーが身につけてきた、時間の使い方、仕事の進め方、自分の打ち出し方、人との付き合い方。