■中学1年生16名でのスタート

 2023-24シーズンからWEリーグを舞台に戦うセレッソ大阪ヤンマーレディース。7月7日に新体制発表記者会見を行い、いよいよ本格的にプロチームとしてのスタートを切った。


 同チームからはこれまでに数多くの優秀な選手が羽ばたいている。なでしこジャパンのワールドカップメンバーにも選出されている林穂之香(ウェストハム・ユナイテッドFCウィメン/イングランド)、浜野まいか(ハンマルビーIF/スウェーデン)をはじめ、東京オリンピック代表の実績を持つ宝田沙織(リンシェーピングFC/スウェーデン)や北村菜々美(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)らを輩出。男子チーム同様に、“育成のセレッソ”を強く印象づけている。

 7日の会見には森島寛晃社長、鳥居塚伸人監督をはじめ、新加入選手、期限付き移籍から復帰となった選手も数多く登壇。INAC神戸レオネッサから完全移籍加入となったMF脇阪麗奈は、2020年までセレッソ大阪ヤンマーレディース(当時のチーム名はセレッソ大阪堺レディース)でプレー。このたび、プロ化にともない“帰還”を決断し、「個人としての目標は攻守の軸になること。
2年間プロとして戦ってきた経験を生かしてみんなを引っ張っていきたい」などと意気込みを語った。脇阪同様に、マイナビ仙台レディースからFW矢形海優、INAC神戸レオネッサからDF筒井梨香、MF小山史乃観、アルビレックス新潟レディースからMF森中陽菜がWEリーグでの経験を携えて帰還している。

 選手層の厚みを増し、“WEリーグ仕様”へと変貌を遂げつつあるセレッソ大阪ヤンマーレディース。今回は改めてチームの足跡を振り返っておきたい。

 母体となるチームは2010年に発足した「セレッソ大阪レディースU-15」。セレクションにより選ばれた中学1年生16人でトレーニングをスタートさせた。
関西のJクラブとしては初のレディースチーム誕生であり、1期生で現在も所属している選手は玉櫻ことの、古澤留衣のみ。2011年に林穂之香や前川美紀、福永絵梨香、2012年に宝田沙織、藤原のどからが加入するなど層の厚みを増していったチームは、活動3年目の2012年11月、チャレンジリーグ(当時なでしこリーグ2部に相当)入れ替え戦に勝利し、一つ目の転機を迎えた。チャレンジリーグ昇格を懸けたノルディーア北海道戦。当時、中学2年生ながら、この試合で先制点を決めた林穂之香は、「目の前の試合で一生懸命プレーすることしか考えていませんでした」と無我夢中でボールを追いかけ、ピッチを走っていたことを明かす。

 2013年、チャレンジリーグ加盟が決まったチームは「セレッソ大阪堺レディース」に名称を変更。監督に竹花友也氏が就任し、下部組織として「セレッソ大阪堺ガールズ」も新設された。
チームとして大きな一歩を踏み出したが、最年長が高校1年生、中学生主体のチームとあって、体格差は歴然。大差で敗れる試合も目立ち、16チーム中13位でチャレンジリーグ1年目を終えた。当時のシーズンについて、現在はイングランドでプレーする林穂之香は、「前半いい勝負ができても、後半に体力的な部分でやられたり、セットプレーなどフィジカル要素で負けたり、すごく悔しかった」と振り返る。

 そうした苦しい1年を過ごしながらも、翌年、翌々年とチームはメキメキ成長。チャレンジリーグ3年目の2015年は開幕10連勝を果たすなど快進撃を続け、リーグ戦を13勝2分で1位。プレーオフの末、なでしこリーグ2部昇格を決めた。
チャレンジリーグで戦った3年間は苦しい時間も少なくなかった。ただ、負けが続いても選手たちは「次こそは勝つ」と練習に打ち込んでいたという。竹花友也前監督は「教えれば教えるほど吸収していってくれた。やり続けていれば、必ず勝てるようになると確信していた」と当時を回想する。

■発足8年目になでしこ1部昇格を達成

 なでしこリーグ2部を舞台に戦った初年度の2016年は、チャレンジリーグ参入1年目のような悲壮感はなく、どのチームとも互角以上に戦い、8勝7分3敗で勝点31を獲得して3位。惜しくも1部昇格はならなかったが、チームには「やれる」という手応えだけが残った。
そして、なでしこリーグ2部2年目の2017年、チームは大きな成果を上げる。8月にリーグカップ2部で優勝し、セレッソ大阪堺レディースとして初のタイトルを獲得すると、勢いに乗ったチームは1部・2部入れ替え戦を制して悲願のなでしこリーグ1部昇格を達成。チーム発足から8年目。当初の予定より2年も早く、女子サッカーのトップカテゴリーに到達したのだ。「若いチームだったので、タイトルを獲ったり、いい波に乗ったりすると、一気に勝てることを感じました。チームワークや勢いも大事だと思いました」(林穂之香)。
下のカテゴリーからコツコツ努力を続け、一つひとつ段階を踏んで成長することで、一気に花開いた1年となった。

 もっとも、初の1部での戦いは甘くなく、「パワーとスピードのレベルが一つ上がった」(竹花友也前監督)2018年は最下位で2部に降格。それでも翌2019年には再び1部・2部入れ替え戦を制して1部復帰を果たすと、2度目のなでしこリーグ1部となった2020年は、5位と躍進。過去最高の成績を収めた。この年を最後に、選手はそれぞれ別の場所へ、成長を求めて旅立つことになる。というのも、2021年9月にスタートするWEリーグへ、セレッソ大阪堺レディースは「登録選手の大半が学生であること、組織体制が構築されていなかったこと」を理由に参入申請を見送った結果、海外移籍を含め、主力選手の多くがチームを離れたのだ。ただし、多くの主力が抜けた中でも若手選手の成長は目覚ましく、2021年のなでしこリーグ1部は3位、22年は4位と上位で終えた。そして満を持して、2022年9月、セレッソ大阪堺レディースの23-24シーズンからのWEリーグ加盟が決定し、今年の2月にはチーム名が「セレッソ大阪ヤンマーレディース」になることが発表された。

 「練習の中での厳しさ、激しさを求めながらハードワークすること。その中でも技術を伸ばすこと。そうしたチームカラーは私が在籍していた頃からずっと変わっていません。今のチームにも、可能性を秘めた若い選手が多くいて、みんな純粋にサッカーに取り組んでいます。シーズンの中でもグッと成長する可能性を秘めていますし、期待感しかありません」と初のWEリーグを戦うチームへエールを送る林穂之香。2010年、中学1年生のみで発足したチームはここまで、カテゴリーを上げるたびにレベルの高さに苦しみながら、もがき、戦い、成長。どんな壁にぶつかっても、ひたむきな努力と地道な練習で乗り越えてきた。WEリーグを舞台にする1年目も、1試合1試合、逞しく戦い続けることで、大きな成長を遂げていくはずだ。若き力の躍動、ハツラツとしたプレーを楽しみに待ちたい。

取材・文=小田尚史