AFCアジアカップカタール2023決勝トーナメント1回戦のバーレーン戦を堂安律久保建英、上田綺世の3ゴールで3-1と勝ち切り、準々決勝に進出した日本代表。その相手は宿敵イランだ。


 2019年の前回大会でも準決勝で対戦。3-0と快勝しているが、難敵なのは間違いない。今回のイランもサルダル・アズムン筆頭に、サマン・ゴドス、サイード・エザトラヒ、アリレザ・ベイランヴァンドなど、百戦錬磨の面々を並べる成熟度の高いチームだ。メフディ・タレミという攻撃のキーマンが出場停止となるが、この日本戦を“事実上の決勝戦”と評するメディア関係者も少なくないだけに、大いに注目される。

 こうした中、日本はインドネシア戦以降、いい動きを見せていた旗手怜央が右ふくらはぎを負傷。バーレーン戦で左足を打撲した板倉滉を含め、不透明な要素が多い。
それでも主将の遠藤航を中心により結束力を高めて大一番に挑むしかない。今こそ日本の総合力が問われるのだ。

 攻守の要となる遠藤はピッチ内外でチーム全体を統率しなければならないだろう。

「個人的には何も変える必要はないし、キャプテンとしての仕事は正直、そんなに多くないかなと。何か背伸びしてやろうとは思っていないし、自然体でやれれば」とバーレーン戦前に語っていたが、今は様々なアクシデントが起きている緊急事態。かつての長谷部誠吉田麻也も日頃はそれほどリーダー的な振舞いを見せなかったが、ここ一番ではアクションを起こした。
今回の遠藤にもシュトゥットガルト在籍時に2年連続でブンデスリーガ残留へ導いた時のような牽引力を強く求めたい。

 その上で、中盤の仕事を確実に遂行することが重要だ。とにかくイランの特徴は屈強なフィジカルを前面に押し出した球際やバトルの強さ。高さのある選手も多く、空中戦やリスタートにもめっぽう強い。となれば、遠藤は自身のストロングであるデュエルやボール奪取力を存分に発揮し、相手の攻撃の芽を摘み、いい守備からいい攻撃の起点となることが必要だ。

「アジアカップはリヴァプールよりゆっくりプレーするところに自分も合わせていかなければいけない。
無理せず動き過ぎないことを意識してやっています。要所でセカンドボールを拾うとか、ボールを奪った後に時間を作るとか、ちょっとしたことの積み重ねが自分たちのプレーを優位にさせる。結局はそれがチャンスになったり、得点につながったりするので、毎試合毎試合、そこにトライするだけですね」

 遠藤は今大会でスムーズにプレーする術をこう語ったが、イラン戦はリヴァプールのようなスタイルに近づけてもいいのかもしれない。ともに中盤を形成であろう守田英正、久保建英らとの距離感や連動性も重要だが、相手が強い分、日本はボールを保持される時間も増えるだろうし、アグレッシブに奪いに行ってショートカウンターを仕掛ける場面も多くなるはず。そこで背番号6が異彩を放つことができれば、日本は確実に勝利に近づく。そういった方向に仕向けてほしいところだ。


 ここまでチーム唯一の4戦フル稼働で、今回は中2日。間もなく31歳になる選手だけに、消耗度は高いだろう。けれども、タフさは誰にも負けないと胸を張る。

「自分は決勝までやるしかない。ここに来る前、リヴァプールでも連戦をやっていたので、それは大きなアドバンテージになっています。インテンシティの話で言うと、リヴァプールで試合をしているのと明らかに違う。
余力を残しつつ、イエローに気をつけながら、うまくコントロールするような戦いをしているので、全く問題ないと思います」と頼もしい発言をしていたが、本当に彼が中盤の底にいてくれるだけで安心感が高まる。森保一監督も“絶対に外せない選手”だと考えているだろう。

 そこまでフル稼働にこだわるのも、前回のアジアカップでのイラン戦で負傷し、ファイナルのカタール戦に出られなかったことが頭の片隅にあるのかもしれない。5年前の日本代表は守田や青山敏弘の負傷などボランチのアクシデントが次々と発生。最終的に追加招集した塩谷司を柴崎岳と組ませて決勝に挑んだが、その不慣れなコンビのギャップを突かれて失点。最終的にタイトルを逃している。


 だからこそ遠藤は今回、絶対に自分が支えなければならないと強い責任感を抱いて戦い続けているに違いない。

 その熱い思いがタイトルにつながれば理想。今回のイラン戦を含め、頂点までは3試合。日本の心臓には最後の最後まで獅子奮迅の働きを見せてもらうことが肝要だ。不穏な空気が漂う今だからこそ、遠藤航にはスッキリとしたプレーを期待したい。

取材・文=元川悦子