チーム全員で勝利をつかみ、頼れるキャプテンの誕生日に華を添えた。サンフレッチェ広島レジーナは3日、WEリーグ第18節でAC長野パルセイロ・レディースをホームに迎えて2-0で勝利。
試合後には前日に40歳となったDF近賀ゆかりの誕生日をサポーターたちと一緒に祝った。

 試合は立ち上がりの7分にFW古賀花野が前線で猛プレスをかけて相手のパスミスを誘うと、ボールを拾ったMF上野真実がGKとの一対一を冷静に仕留めて先制点を決めた。今季7点目を挙げた上野は、「前半の入りで勢いよくやろうと意識していたので、そこで相手の隙をつけた」と振り返った。

その後もS広島Rが主導権を握るが、MF中嶋淑乃が絶好のチャンスを2度外すなど追加点が遠く、もどかしい時間が続いた。中嶋は「(決定機で)変に焦ったので、冷静にシュートまで持っていけたらよかった」と悔しさを滲ませ、「フリーで考えすぎていたので、もっと思い切ってゴールに向かいたい」と切り替えた。

 後半はAC長野が勢いづいたものの、S広島Rは最後まで得点を許さず。
76分には再び前線からFW李誠雅とMF柳瀬楓菜の途中出場組がプレスをかけてボールを奪うと、中嶋が左サイドからクロス。「真実さんがフリーなのは見えていたので、いいボールをつけられてよかった」。これを上野が押し込んで待望の追加点を挙げた。

 2点目を決めた上野は、「クロスが来ると思っていたし、ファーのスペースが見えていたので、自分はそこに入っていくだけだった。バウンドが難しかったけど、いい位置にボールを置けたし、GKが出てきたけど、コースが見えたので、決まってよかった」と振り返り、6試合ぶりの得点でチームを勝利に導き、「なかなか得点が取れない試合が続いていたので、点を取りたかったし、自分の得点でチームを勝たせられたのはうれしい」と胸を張った。



 S広島Rは前節の三菱重工浦和レッズレディース戦で悔しい完敗を喫したが、今節は立ち上がりからアグレッシブに戦った。
中村伸監督は試合後の会見で、「前節のあとにまず全員で共有したところは相手うんぬんではなくて『やるのは自分たちだ』ということ」と明かし、自分たちのサッカーを貫こうと切り替えていた。

 浦和戦に途中出場したMF渡邊真衣は今節、中盤でスタメンに入った。「前節は自分たちらしいプレーができなかったので、今節は自分たちがやりたいこと、相手が嫌なことをどんどんやっていこうと思っていて、それが勢いに乗ったプレーになった」とスタートから気合いが入っていた。 

 中盤では両チームが球際で激しく競り合い、特に渡邊は相手から猛烈なプレッシャーを受けた。複数人に囲まれてボールロストするシーンもあったが、その中でもチャンスを作って存在感を示した。27分にはDF島袋奈美恵からの浮き球パスを絶妙なトラップで収めつつ前を向き、素早くスルーパスを送って中嶋の決定機を演出していた。


 渡邊は、「確実につなぐことを求められていたので、ミスを減らしていかなきゃいけないし、自分でかわすだけじゃなくて周りを使うとか、いろんな手段を持ってプレーができないといけない。ただ、チャンスメイクの部分にも関われたので、そこは残りの試合でも続けていきたい」と自身のパフォーマンスを振り返り、「いいプレーもあったけど、悪いプレーの方が目立つし自分の中に残っている。チームとして勝ててよかったけど、自分としてはもっとやらなきゃいけない。これからの課題がはっきりした試合だった」と意欲を高めている。

 S広島Rは今季ホームゲームのラスト3試合で観客動員数合計1万人を目指すプロジェクトを立ち上げた。その第1戦だった今節は、新スタジアムにチーム歴代2番目に多い3978人が駆けつけた。
試合後は勝利で盛り上がる中、チームとサポーターたちが一緒にバースデーソングを歌ってキャプテンを祝福。メンバー外だった近賀は試合後の取材に応じ、「もう幸せの一言です」とうれしそうだった。

「4000人近くの方に見に来ていただいて本当にうれしかった。これがWEリーグやレジーナのスタンダードになって、さらにこれを超えていけるようになればいいなと思いながら観客席を見ていました」(近賀)

 チームもホームでキャプテンのお祝いしようと意気込んでいた。渡邊は、「全員がこの試合に勝ってみんなでお祝いしたい思いがあったと思う。試合出ている人だけじゃなくて、ベンチの人たちも、メンバーに入ってない人たちも、全員で勝ちに行く試合だった」と明かした。




 近賀はS広島R発足時からキャプテンとしてチームをけん引し、今季はWEリーグカップ全6試合に出場して初タイトルとなる優勝に導いた。リーグ戦は序盤こそ出場していたが、若手の台頭もあり9試合連続でメンバー外となっている。それでも、中村監督は、「レジーナで一番大きな存在であることに変わりない」と絶大な信頼感を口にする。

「ゲームに絡めない中でも自分に目を向けてトレーニングを続けているし、ゲームに出ている選手、若い選手もそういう姿を見て学んでくれている。40歳になったけど、まだまだ我々に必要な選手なので、ゲームに絡んでくるような存在感を出していってほしいなと思います」(中村監督)

 渡邊はS広島Rでサイドバックを務めることもあり、「キンさんを見て成長してきている部分がたくさんあるし、いろんなことを教えてもらっている。もっとキンさんの良さを盗んでいきたい」とワールドカップ優勝を経験した名手から学んでいるという。




 40歳を迎えた近賀は、「まさかこの歳までやっていると思ってなかった」と笑顔を見せつつも、「何歳であろうが関係なく、やっぱりピッチに立ちたいっていう思いが一番強い」と出場できていない現状には決して満足していない。

「ピッチに立ってチームの勝利のために戦わないと意味がないなと思っているので、このスタジアムでしっかりチームに貢献できるように日々頑張りたい。もちろん、こうして勝ってうれしい。ただ、スタンドの上から見ていて悔しさはあるし、これだけのお客さんが来ているので余計にここでやりたいなっていう気持ちも強くなる。だから、この悔しさをしっかりピッチで表現できるようにやるだけだと思っています」(近賀)

 新スタジアムに勝利のために戦うチームメイトと声援を送るサポーターたちの姿がある。その光景を見てレジーナのキャプテンは闘志を燃やし続けている。

取材・文=湊昂大


【ハイライト】サンフレッチェ広島レジーナvsAC長野パルセイロ・レディース