『このゆびとまれっず!』は、サッカークラブの地域貢献にとどまらず、子どもの貧困支援や食品ロス削減、障がい者支援など、地域が抱えるさまざまな課題に取り組む活動である。クラブが旗振り役となり、支援者や賛同者と共に仲間を募りながら、社会課題の解決を目指している。
今回の訪問もまた、『このゆびとまれっず!』の一環として行われた障がい者支援の取り組みであり、クラブがさいたま市の障害福祉課と連携し、社会課題に真正面から向き合うことで地域との絆を深めるためのものであった。市内の障がい者施設を現役選手が訪問し、障がい者の方たちと一緒に手づくりのクッキーやパン、手芸品などの制作を行うほか、制作した商品を販売する「ピアショップ」(自主製品販売所)の認知拡大や、埼玉スタジアム内に「ピアショップ」を設置する商品の販売機会の提供と、選手が一緒に販売する機会を創出することを通じて、クラブ全体が率先して施設で働く人たちへの理解や協働を行うことで、一般の人にも広く活動を知ってもらうための交流が主な目的となっている。
『フルオール』は、さまざまな理由で一般就労が困難な人たちが社会に復帰し、活躍できるよう支援している施設だ。「フルオールに関わるすべての人が、人生を豊かにするべく夢や希望を叶えるために太陽のように照らし支え続ける」ことを理念に掲げている。この思いは、浦和レッズの「サッカーをはじめとするスポーツの感動や喜びを伝え、スポーツが日常にある文化を育み、次世代に向けて豊かな地域・社会を創っていく」というクラブ理念とも重なり、それぞれ活動の形は違えど、人や地域の豊さを支えたいという思いが共通している。
過去に何度か浦和レッズの社会連携活動を取材してきて感じるのは、その場が支援の現場であるだけではなく、選手と施設の皆さんにとって、互いに大切な交流の場となっていることだ。そうした交流の中で生まれる心のつながりや温かな時間は、社会貢献という枠にとどまらず、浦和レッズが果たすべき使命をより深く実感させてくれる。
例えば、小学校を訪問すれば、子どもたちは元気に駆け寄り、選手たちを質問攻めにする。障がい者施設へ行けば、普段はあまり人と話すことの少ない施設利用者の方々が、明らかに選手たちに興味を寄せる様子が見られ、職員からは「こんなに楽しそうにしているのはなかなかない」という声が上がっていた。
また、小児医療センターでは、子どもたちだけでなく、日頃から数えきれない苦労を重ねているであろう親御さんたちの目も輝いていた。
今回の訪問も例に漏れず、笑顔あふれた心温まる交流の時間となった。
施設に到着した両選手は、クルーの皆さんから温かい拍手で迎えられ、自己紹介のあと、クルーの皆さんからの質問コーナーが始まった。はじめは緊張の面持ちだったものの、「昔見ていたアニメ」や「好きな音楽」、「推しがだれか」といった質問が次々と飛び出し、選手が笑顔で答えていくにつれて、頷いたり目を輝かせながら楽しそうにやり取りを続けていた。
その後、それぞれの作業に戻り、クルーの皆さんが黙々と取り組む様子を見ながら、大久保と松山も職員の方々から説明を受けつつ真剣に作業に取り組んだ。
このように時間の経過とともに、場の雰囲気は少しずつ和らいでいったが、もしかするとクルーの皆さんはレッズの選手たちに対して、緊張感があったのかもしれない。その点、同い年で「人見知りをしない」という共通点を持つ2人の選手は、クルーの皆さんが作ったコースターやディッシュボード、キーホルダーにサインやメッセージを入れていく作業に取り組みながら、持ち前のコミュニケーション力でクルーの皆さんと積極的に話しかけていたことで、徐々に心が開いていったのだろう。2人は話しかけるたびに「作業を邪魔してごめんなさい」と申し訳なさそうに言っていたが、クルーの皆さんは困るどころか嬉しそうな表情を浮かべ、笑顔で「大丈夫です」と繰り返し答えていた。
今回の訪問を終え、大久保は「まずはこのような活動に参加できたことをとてもうれしく思います。浦和レッズは、どのチームよりも地域の皆さんからのサポートや応援、熱量を感じるクラブであり、今日の参加を通じて改めてそのことを実感しました」と感想を語った。
さらに、「地域の皆さんの思いを聞くだけではなく、実際こうした場に来て一緒に活動することで、僕らのエネルギーにもなり、もっと頑張ろうという気持ちが強まります。この活動は、そうした意味でも素晴らしい取り組みだと思います」と、今回の活動の意義を感じたようだ。
また、加入から1カ月弱で浦和レッズでのピッチ外での活動に初めて参加した松山は、「浦和というチームがどれほど愛されているかを、今日、初めて直接肌で感じました。身が引き締まりますし、さらに頑張らなければいけないと強く感じました」と話し、「応援していただける皆さんには結果で返すしかないと考えています。いち早く浦和レッズのユニフォームを着て、埼玉スタジアムのピッチに立って、チームの勝利に貢献していきたいと思います」と力を込めていた。
『フルオール』の代表取締役を務める三浦和樹氏もまた、「この事業所は昨年開所しましたが、多くの事務所が応募されている中で我々を選んでいただき、とても驚きましたし、本当にありがたいです。浦和レッズの選手が来て盛り上げてくださり、これから一般就労を目指す人たちにとって大きな励みになります」と感謝の言葉を述べた。
今回、大久保と松山が交流したクルーの皆さんは、何らかの事情で現時点では難しいものの、一般就労への復帰を目指している。そのうえで浦和レッズの選手との交流が励みになっていることは、三浦代表取締役の言葉を借りずともそれぞれの表情から十分に伝わってきた。
そして8月31日、明治安田J1リーグ第28節のアルビレックス新潟戦が行われた埼玉スタジアムで2人とクルーの皆さんが協力して作製したグッズが販売された。多くのファン・サポーターの方々が『フルオール』の特設ブースに立ち寄る中、松山が姿を見せ、販売を応援するために売り場に立った。
『フルオール』で交流したクルーの皆さんに「お久しぶりです、お元気でしたか?」など気さくに声を掛けていた松山は、「学生の頃、居酒屋で4年間アルバイトしていた」経験もあり、慣れた様子でファン・サポーターを呼び込んでいた。
大久保は新潟戦でメンバー入りしていたため特設ブースに顔を出すことは叶わなかったが、松山は「施設で交流するだけではなく、制作した商品を一緒に販売する場に来られて本当によかった」と笑顔を見せていた。一方、『フルオール』のクルーの皆さんにとって、実際にスタジアムで自身が制作したグッズを販売して、多くの方に喜んでもらえたことは励みになることだろう。
そして、今回の活動や埼玉スタジアムでの施設紹介や販売などから、『フルオール』の活動を知り、その思いに共感する方たちが増えるかもしれない。この取り組みを知った別の事業所が「次回はぜひ我々の施設へ」と挙手をしてくれる可能性もある。このようにして活動の輪が広がっていく。それこそが『このゆびとまれっず!』の活動意義でもある。
交流中に心が通っていく様子や、クルーと選手のお互いの感想からも、クラブと地域が直接関わり合うことの意義をあらためて感じさせられた今回の活動。浦和レッズはこれからも地域とともに豊かな地域・社会を創っていくべく、活動を続けていく。
取材・文=菊地 正典