全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。
東京ディズニーランド(以後、TDL)が「夢と魔法の王国」を謳っているように、テーマパークといえば、その土地にありながらにして、どこかその土地とは異なる場所にいるかのような感覚を与えてくれるものだと私たちは思っている。
「まるでここは別世界だ!」と思わせる度合いがどれぐらいなのかが、そのテーマパークの質を決めているといってもよいのかもしれない。その点で、TDLは、確かにきわめて質の高いテーマパークだといえよう(今更言うほどのことではないかもしれないけれど)。
有名な話だが、その園内からは外の風景が見えないようになっている。だから、そこを訪れた人が、かつてその地域一帯が小さな漁村だったことを意識する機会はほとんどない。TDLが位置する浦安は、パークが誘致される以前、のどかな漁村の集まりだった。
開園予定地の最終候補は「浦安と富士山麓」
TDLがこのように「外の環境」を遮断しようする傾向は、例えばその立地が選ばれる際にも顕著だった。TDLの開園予定地にはいくつか候補があって、その中でも最後までその候補地として残ったのが、浦安と富士山麓だった。浦安にせよ富士山麓にせよ、大都市からさほど遠くない距離で訪れることができる点に注目すれば、どちらにパークが誕生しても、観光地としては成功しただろう。事実、富士山麓にある「富士急ハイランド」は多くの観光客を呼び込むことに成功しているから、候補地の段階ではどちらを選んでもよかったはずである。
しかし、ディズニーは浦安を選んだ。なぜ、富士山麓を拒んだのか。ディズニーランドが目指す「夢と魔法の王国」という「日本」とは異なる場所を作るためには、「富士山」という巨大なランドマークが不必要だったのである。
日本のシンボル・富士山は“邪魔”だった
いや、不必要、というよりも、邪魔と言っても良いぐらいだったかもしれない。ディズニーランド中央に建設されたシンデレラ城の景観は、決して富士山に邪魔されてはならない。ところで、TDLが忌避した富士山というアイコンだが、「その後のディズニーリゾートの開発において、実は富士山が無意識的に重要な役割を背負わされてきたのではないか」、と私は考えている。
日本側主導で作られた「東京ディズニーシー」
それは、東京ディズニーシー(以後、TDS)のことだ。TDLは、アメリカ側が主導して、アメリカのディズニーランドをそのまま移植するように作られた。実際TDLは、フロリダにあるディズニーランドの一つ、「マジック・キングダム」と非常に似たパークの構造をしている。それに対してTDSは、そのパーク作りの多くを日本側が主導して行った。例えば、当初TDSのシンボルとして考えられていたのは「灯台」だったのだが、日本人にとって灯台はどこか物悲しい風景を思わせる、ということでこの案は却下される。
その代わりにシンボルとなったのは地球をモチーフにした「アクアスフィア」で、これは現在、ディズニーシーのエントランスを入ってすぐのところに置かれている。日本人の感性に合わせたパーク作りが行われたわけである。
中央に「富士山を思い起こさせる」火山が
そんな文脈を踏まえて見てみたいのは、ディズニーシーの中央にそびえている「プロメテウス火山」である。高さ51mにもなるこの擬似的な火山の姿を見て、私はどうしても富士山のことを思い出してしまう。「TDLが拒否した富士山が、TDSに回帰してきているのではないか?」そんな妄想が私の頭をよぎるのだ。実際、プロメテウス火山について調べてみると、その山のモチーフはイタリアにあるヴェスヴィオ火山で、その火山の種類は成層火山というタイプ。
実はこれ、富士山と同じタイプの火山である。
TDSについては意外と語られていないからこそ…
また、TDSと「外部の環境」という観点でいえば、TDSの内部からは外部の自然が見えるようになっているというのも有名な話である。TDSのテーマは「シー」と名前がついている通り、「海」であるが、園内の「ポートディスカバリー」というエリアからは、その外側に広がる東京湾を眺めることができる。園内の海がその外側にまで広がっていることをゲストに感じさせる、いわば「借景」のような形で外部の自然を取り入れているのである。「借景」とは、造園において外の風景を景観として利用することだが、TDSはこうした借景をさらりと行い、「外部の環境」を取り入れたパークの設計を行っているのだ。
TDLについては、その設計思想や特徴についてさまざまな場所で語られてきた。
<TEXT/谷頭和希>
【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)