筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、地方や都内の営業店で法人営業を経験した。そこで数々の東大を出た新入社員を見たり、彼らの噂を聞いてきた。今回はメガバンクにおける、東大卒の新人のトンデモエピソードをご紹介する。
①研修で習っていない仕事は「やらない」
「とにかく受け身。1つ仕事を任せたら、終わっても話しかけてこない。終わるならまだマシで、手つかずのまま帰られたこともありました」
ある日、その新人は稟議が書き終わっていないのに、同期と帰ろうとしていた。Aさんが「お前、あれ終わったのか?」と聞いたところ、飄々とした顔で「終わってませんよ」と返されたという。
「俺が理由を尋ねると『研修で習っていないので』と言うので驚きました」
おつかいに行き、手ぶらで帰ってくる
おつかいの内容は伝票を1枚もらってくるという、簡単なものだった。その取引先は店からも近い、一行先だ。しかし店に帰ってきた時、彼は伝票を持っていなかった。
「今はシステムが変わりましたが、昔は伝票をもらったら“集金取次表”という受取証を発行していたんです。面倒なことに1文字でも書き間違えると、お客さんのところに行って、再度発行しなきゃいけないんですよ」
集金取次票の書き方は、配属前の研修で教わる。伝票1枚なら書けるはずだ。しかし彼は「伝票と一緒に、これも持って行ってくれない?」と取引先に言われてしまったのだ。そして彼が下した判断は、持って帰らないというものだった。「お客さんになんて言ってきたんだ?」と聞くと、彼は“衝撃の一言”を言い放った。
取引先に対して「教えてもらってないのでできません」
どうやら彼は取引先へ「教えてもらってないのでできません」と答えたらしい。「もちろんお客さんからはクレームが来ましたよ。お客さんが気を利かせて何かを尋ねても、会話が弾まない。しまいには『東大に入ることをゴールにして生きてきたから、銀行に入ってからやりたいことは特にない』と話していたそうです」
昔堅気の取引先だったこともあり、「あんな根性のない奴は嫌いだ。もうあいつをここによこすな」と出禁になってしまったという。
②先輩に「今、暇ですか?」と仕事を振る
ある日、Aさんが東大卒の新人に仕事を振った。すると彼は「え、忙しいんですけど……」と言ったそうだ。「俺だって忙しいんだよ、頼むからやってくれ。すぐ終わるし、これが手続きだから」と言って、印刷されたマニュアルを彼に手渡した。
「彼はその手続きを見て、その視線を向かいに座った女性行員にうつして、『今、暇ですか?』と尋ねました」
尋ねられた女性行員が「ううん、暇じゃないかな」と言うと「そうですか」と言って、彼はまた資料に目を落としたという。後に彼女は「暇でもやらんよ」と言って、怒っていたのだとか。
③親から「休みます」と電話がかかってくる
「ある日、出社すると、俺宛に1本の電話が入りました。聞きなれない女性の声で、誰だろうと思っていると『〇〇の母です』とのことで、驚きました。何か事故に巻き込まれたんじゃないのかと、不安になりましたよ」
通常この手の連絡は、次課長が対応する。しかし課長はまだ出勤していなかったので、Aさんが対応することにした。
後日、彼に「学校じゃないんだから、自分で電話をかけてこい」と指摘したら、あまり腑に落ちていない表情を浮かべていたとのことだった。
次課長が早慶出身者だと、失敗を拡散されてしまう!?
メガバンクでは東大以上に早慶出身者が多い。次課長が東大落ちの早慶卒だった場合、東大卒の新人にとって一気にハードモードになることがある。上司の東大に対するコンプレックスから、ただでさえ高い彼らへの期待度が、さらに上がってしまうからだ。そんな次課長は東大卒の新人がヘマをすると「あいつ東大の癖に、こんなことしたんだよ」と拡散しがちだ。筆者も東大卒の新人の噂を、よく耳にした。ただの僻みに感じるものもあれば「それは本当に非常識な行動ですね」と純粋に驚くものもあった。
ちなみに今回ご紹介した新人は、顧客接点がない本部へ異動となった。頭は使うがコミュニケーション力は不要なので、のびのびと仕事をしているらしい。環境によってはまったく仕事ができない人材も、適材適所がうまくいけば、会社にとって資産になるのかもしれない。
<文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother