「人生100年時代」と呼ばれるなかで、いわゆる“老後”は長く続いていく。そんななかで、ただ無為に時間を潰しているだけでは、あまりにももったいない。
何か楽しむ秘訣はないものか……?
 先日、あるX(旧Twitter)のポストが大きな話題を呼んだ。赤チェックのフリフリのスカートにジャージを合わせたPOPなスタイルに、ベリーショートの髪型が映える。彼女の正体は、“61歳の還暦ファッショニスタ”を名乗る「はる。」さんだ。

61歳女性の“還暦ファッショニスタ”。「まわりから浮きたくな...の画像はこちら >>
 このポストは、なんと1700万以上のインプレッションを獲得している。タイムラインに並ぶコーディネートがとにかく可愛い。今回は、そんなはる。
さんに、ファッション遍歴を教えてもらった。

OL時代はバブル真っ只中で“ワンレンボディコン”


61歳女性の“還暦ファッショニスタ”。「まわりから浮きたくなかった30代」から自分らしさを取り戻すまで
専門学生時代(当時19歳)<提供写真、以下同>
 はる。さんは、高校卒業後に大阪モード学園に進学。

「今と同じ原宿系や青文字系のファッションが大好きでした。80~90年代のカルチャーや雑貨店、サブカルが大好きだったし、DCブランド全盛期でヨウジヤマモトやコム・デ・ギャルソンが大好きでした」

 ファッションの仕事をするためにモード学園に行ったはる。さんだったが、「2年で挫折してしまった」と苦笑いする。

「授業がめちゃめちゃハードで大変だったのもあるし、そのうえ夜遊びとかを覚えてしまったこともあって……」

61歳女性の“還暦ファッショニスタ”。「まわりから浮きたくなかった30代」から自分らしさを取り戻すまで
ボディコンだった頃
 学校を辞めたあとは、ふつうのOLに。
その頃はちょうどバブル景気の真っ只中だった。

「私はサブカルっぽい服を着ていましたが、全然モテなくて(笑)。モテたい一心で、流行中のワンレンボディコンにしてみたんです。どんなファッションをしているかで男性の反応が面白いくらい違って驚きました」

結婚後は“ママ友の中でとにかく浮かないファッション”

 その後は結婚し、30代で3人の子宝に恵まれた。ここでもまた好きなファッションは封印し、“ママ友の中でとにかく浮かないファッション”を心がけていたそうだ。

「まわりから浮きたくない、変に目立って『子どもに迷惑をかけたら嫌だな』と思って、無難な格好をしていました。今みたいな原色とかは絶対に着ないで、雑誌でいうと『天然生活』みたいな感じです。
授業参観とかも気を使ってましたね」

 その頃は「ファッションを楽しむという選択肢がなかった」という。

「子育てで行動範囲が狭まっていました。街に服を見に行くこともなかなかできなくて、買い物は近所のショッピングモールが中心。そうなると、尖った服なんて売っていないからどんどん無難な感じになっていくんですよ」

 とはいえ、子どもの成長につれて手が離れていったことで、1人で大阪市内まで出かけるように。古着屋などをブラブラしていると「こういうの好きだったなぁ」と、昔を思い出したんだとか。

アイドル衣装の制作で再びオシャレを楽しむように


61歳女性の“還暦ファッショニスタ”。「まわりから浮きたくなかった30代」から自分らしさを取り戻すまで
現在のはる。さん
 そして、10年ほど前に転機が訪れる。

「1番上の娘が作家なんですが、彼女のツテでアイドル衣装の制作をすることになったんです。
娘がデザインを書いて、私がパターンを起こして。昔、モード学園に通っていた経験が、そこですごく活きたんです」

 衣装制作をするにあたって、アイドルたちとの打ち合わせの機会が増えた。そこで、はる。さんも「おしゃれしなくっちゃ!」とスイッチが入ったとか。

「もう昔みたいに“好きな服を着よう!”とファッションを楽しむようになりました。打ち合わせのたびに『お母さんオシャレ!』とアイドルの子たちが褒めてくれて嬉しかったです」

 そして、もともと大好きだった原宿系や青文字系のファッションを再び楽しむようになったそうだ。


「お孫さんの服を探しにきたんですか?」から、まさかの展開に

 とはいえ、買い物をしていると引っかかることもあった。

「私はターゲットが10代とか20代のブランドの服も着ているんですが、そういうお店の店員さんの中には『お孫さんの服を探しにきたんですか?』と聞いてくる人もいるんです。頭にくるとかはないけど、悲しい気持ちになりました。店側がターゲットを狭めるのはもったいないですよね」

 はる。さんは堂々と「自分のものを見にきているんです!」と返した。すると数ヶ月後、そのブランドからDM(ダイレクトメール)が届いた。その内容とは……。


「まさかのPR案件のお願いで。店での一件がありつつ、明らかにブランドのターゲット層と違うであろう私に声をかけてきてくれたんですが、認められた感じがして、素直に嬉しかったですね」

年齢関係なく好きなファッションを楽しめる世の中になって欲しい


 はる。さんは現在、Webメディア『ヘンとネン』で「パッとしてグー」という連載も持っているとか。

「これは色んな職業の服選びで悩んでいる人を私がコーディネートしてパッとさせるという企画なんです」

 こういった仕事を通して同世代の女性を中心に、ファッションの相談を受けることも増えた。

SNSの普及で個性的な方も増えてきたし、昔よりもファッションに対して寛容な世の中になったとは思いますが、くすみカラーが流行れば、みんなくすみカラーを着ていますよね。着たくて着ている人もいるだろうけど、その中には子育て中の私みたいに『まわりから浮かないように』という人も多いのかも」

 彼女に相談にくる人のほとんどが「フリフリが着たいけど年齢的に着ていいのか?」「まわりや彼氏から年相応の格好をするように言われてます」など、好きな格好をしたくても年齢を気にしている人が多いそうだ。

「アパレル企業側が顧客のターゲット層を狭めていたり、決めているのがまずもったいないと思います。だって日本人の女性の半分が50代ですよ? そこをあえて排除する必要なんてない。年齢関係なく好きなファッションを楽しめる世の中になって欲しいし、若者や同世代など幅広くファッションで悩む人に勇気を与える存在になりたいです」

“還暦ファッショニスタ”の挑戦は続く。

<取材・文/吉沢さりぃ>

【吉沢さりぃ】
ライター兼底辺グラドルの二足のわらじ。著書に『最底辺グラドルの胸のうち』(イースト・プレス)、『現役底辺グラドルが暴露する グラビアアイドルのぶっちゃけ話』、『現役グラドルがカラダを張って体験してきました』(ともに彩図社)などがある。趣味は飲酒、箱根駅伝、少女漫画。『bizSPA!フレッシュ』『BLOGOS』などでも執筆。X(旧Twitter):@sally_y0720